26.これが恋愛経験値ゼロの奴です。
さて。はてさて。はてさてさてはて。
昨日、とても不思議なことに・・・・・・そう、それは世界のふしぎを発見しに行く番組で出てくる数々のふしぎと同じくらい、不思議なことに。
私は三好さんへの好意に気がついてしまった。
三好さんへの好意の点については三好さんが人に好意を持たれやすい方であることは火を見るより明らか(三好さん観察日記参照)であるからしてそこは全く不思議では無いけれど、問題は「私が」である。
前言撤回。世界のふしぎを発見しに行く番組の不思議と同じくらい不思議、よりも、奇妙なお話を紹介する番組に出てくるとても奇妙なお話の数々と同じくらい奇妙、の方がしっくりくる。
兎にも角にも、それはそれは奇妙なことに、私は三好さんに好意を抱いてしまった。挙句、それを自覚してしまった。
さて、再三に渡って自覚症状を訴えているし、私を知らない人でもひと目見るだけで一発でわかるはずなので誰もが知っているとは思うから改めて言う必要もない気がするけれど、敢えてもう一度言うなら私は今まで友達の1人も出来たことが無い、ぼっちの陰キャである。
当然の事ながら恋愛経験などあるわけもなく、恋愛の話を聞いたこともない。
そんな奴が、今まで恋愛に無関係すぎて恋愛ドラマにも興味がなかった奴が恋をするとどうなるか。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
こうなる。
「三好さんにどんな顔して会えばいいのかわからない・・・・・・ていうか今までどんな顔して会ってたんだっけ・・・・・・」
場所はコンビニの最寄りの駅のトイレの中。かれこれ30分くらい個室内のトイレの前の狭い空間でしゃがみこみ、立てこもりをしている。
たくさん個室があるのと、そうそう人が来ないのが救いだ。もしも混雑するトイレだったら申し訳なさで個室ジャックなんて出来ないから、今頃その辺の路上で座り込んで独り言を言う不審者になっていた事だろう。下手したらお巡りさんに保護される。人気のないトイレで良かった。
「バイト行きたくない・・・・・・辞め・・・・・・いや、さすがに迷惑がすぎる・・・・・・」
何がともあれ、バイト出勤拒否をしていた。といっても今日は大学の講義が短かったから出勤まであと30分余裕があるのだけど。
正直、今すぐに帰って布団にくるまって反省会を開きたい。会の内容は主に「三好さんを好きになってしまった件について」だ。ネットで調べたところによると普通は反省する必要がないことなのだけれど、私のような者が三好さんに、なんて反省するに値する事柄だ。大大大反省会開ける。裁判なら死刑宣告されてもおかしくない。甘んじて受け入れよう。
そんなことを考えてるうちに、バイトまでの時間は刻々と迫ってきている。そろそろ現実逃避はやめなくては。
「無理だ・・・・・・会いたくない・・・・・・」
本当に、どんな顔をして会えばいいのか。
笑顔・・・・・・は私のキャラじゃない。真顔? 不機嫌だと思われないかな。元気がないと三好さん心配させてしまうし。いっそ変顔・・・・・・それこそ私のキャラでは無いな。あと幻滅される可能性がある。それはやめよう。他に案は──。
・・・・・・いや、それよりも懸念すべきは、好意が三好さんに伝わってしまったりしないか、だ。
万が一、億が一にでもこの気持ちが三好さんに伝わってしまったら──・・・・・・。
『気持ち悪』いや、三好さんは優しいからもっとマイルドに『うーん、ごめん。生理的にちょっと・・・・・・』かな。
・・・・・・うわあ、想像しただけでもすっごいダメージ食らう。これが直だったらと考えると怖すぎる。無理だ。たぶん一生灰になったまま戻れない。
ちなみに、私には三好さんに気持ちを伝えるという選択肢は無い。私なんかに好かれていい気分がする人なんていないだろうし、何より、あの家族のことを考えると・・・・・・これ以上考えるのはやめよう。辛くなるだけだ。
ああ、せめて恋愛ドラマや漫画で勉強しておけば、もしくは皆の恋バナに耳を傾けておけばよかったと後悔する。本当に後悔って先に立たないんだな。立ってくれよ。
「はあ・・・・・・」
考え事をしていると時の流れというのは早くなる。あっという間にバイトの時間まで残り15分になってしまった。そろそろ個室トイレジャックをやめないと間に合わなくなる。
ゆっくりと立ち上がったのに反応して開いた便座に心の中でごめんと謝りながら閉め、個室を出て一応手を洗ってトイレから出て、コンビニへと歩き出す。
はあ、行きたくないな。三好さんに会いたくない。店長さんの方がいいなと思ったのは働き始めてから1年半にして初めてのことだな。・・・・・・そもそも、私は元々三好さんの事が苦手だったはずなのに、いつからこんな・・・・・・。
「ねーねーカノジョ〜ひとり?」
その時だった。不意に少し高めの男性の声が聞こえてきた。所謂ナンパとかいうやつだろう。・・・・・・まあ、声が聞こえてきただけで私ではないだろう。こんな奴、ナンパする奴なんているわけな・・・・・・え、肩に手を置かれた!? 嘘でしょ!?!? 貴方の周りには多分、もっとキラキラした可愛い女子たちいますよ!? 今は時間的におば様方しかいませんけど!! おば様方の方が数倍も魅力的だと思いますよ!!
「1人なら俺とお茶でもどーう?」
ええええええ? この人、感性大丈夫??
そう思いながら、断わるためにギギギとぎこちなく首を動かして、物好きなその人の顔を見た。
「・・・・・・って」
「お茶って言ってもコンビニのお茶だけどね!」
そこにいたのは三好さんだった。
奇遇だね、一緒に行こーと言われ、並んで歩き出す。まさか、こんなところで三好さんに会うなんて。しかもナンパされるなんて。
「三好さん・・・・・・って、物好き、なんですね」
「いや会って早々辛辣!」
「あ、すみません。私をナンパ相手に選ぶなんて相当だなと思いまして・・・・・・おはようございます」
「おはよう。ちょっと自己肯定力低すぎない?」
「正しい自己評価、だと思います」
そう言うと三好さんはえええ、と苦笑いをした。しまった、今の面倒くさい奴だった、よね。嫌われ──・・・・・・。
「影原さん」
「・・・・・・はい」
「ナンパされたらちゃんとすぐに嫌ですって言わなきゃダメだからね?」
「・・・・・・はい?」
「しつこい奴なら悲鳴あげて助けを求めること。あと、逃げること。わかった?」
「えっと、ナンパされないので大丈夫、ですよ?」
「いい? 影原さん」
三好さんは立ち止まり、私を見下ろした。あれ、三好さんってこんなに背が高かったっけ。
「影原さんは影原さんが思うほど嫌な人でも変な人でもないよ」
「へ」
「つまり、影原さんをナンパする人は普通にいると思うよ、ってこと。だから自己防衛の方法くらい覚えておきなね」
悲鳴あげて助けを求めて隙あらば逃げること、と三好さんは指を折り曲げながら言った。でも、それは半分くらい私の中には入ってこなかった。
嫌な人でも変な人でもないって、それは、本当なんだろうか。三好さんは私をそう思ってくれてるのだろうか。
──どうしよう。
再び歩き出した三好さんの後ろ姿を少しだけ見て、すぐに俯いた。今自分がどんな顔してるかわからないけど、見られたりしたらもしかしたら、この気持ちが伝わってしまうかもしれないから。
「そんな訳で、影原さん」
10歩くらい先に進んだところで、三好さんがくるりと振り返った気配がした。
「は、はい」
「ナンパしていいかな?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
何言ってるんだ、この人、と思って顔を上げる。・・・・・・ナンパしていいかなって言った? 渡しに?
「といっても、今日の話ではないんだけどさ〜」
三好さんはニッコリと笑って続けた。
「ねーねーカノジョ〜。もし月曜日1人なら、バイト揃って休みだし、大学終わったら一緒に出かけない?」




