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21.帰り道です。


「うっふ・・・・・・」

「大丈夫、ですか、三好さん・・・・・・」

「なんとか・・・・・・影原さん、は?」

「ギリです・・・・・・」

「だよね・・・・・・」


 私たちはフラフラとコラボカフェを出て、そしてフラフラと帰り道を歩いていた。


 なんでこんな満身創痍とも言える状態なのか。理由は単純明快。


 一時間ほど前、コースターでロッドさんとシュヴァルツさんを引いたあと、「まだまだ!」と(主に三好さんが)気合いを入れて開けたアクリルキーホルダーでグリュンさんとグラオさんが出てきたのがきっかけだった。


「・・・・・・ヴァイスさんは!?」

「出ませんでしたね・・・・・・」

「・・・・・・ゴルトさんは百歩譲っていいとしよう」

「三好さん?」

「ヴァイスさんはなんとしてでも出す! 俺、追加オーダーするから!」

「えっ、ちょ、三好さん」

「大丈夫、お腹はまだ空いてるし、ドリンクも飲める!」

「ええっ!? えっ、じゃあ、私も追加オーダーで・・・・・・」

「お腹大丈夫? 無理しないでね」

「大丈夫、です! いきましょう! ホワイトパンケーキ追加お願いします!」


 それから、一時間。


「まさか、こんなに出ないとはね・・・・・・」

「確率的には十分の一のはずなんですけどね・・・・・・」


 三好さんが持つ、中くらいのオタカフェの袋はパンパンになっていた。その中の殆どはダブりである。

 そしてその袋のパンパン具合は、私たちのお腹のパンパン具合に比例していた。パンパン通り越してはち切れそう。


 コラボカフェの料理は、食べきったり飲みきったりしてからじゃないと注文してはいけない仕組みになっている。つまり私たちはヴァイス様が出るまでフードファイターよろしく、ひたすら皿を空けては注文するを繰り返していたのだ。苦しくないわけがない。


「コラボカフェって・・・・・・戦いなんですね・・・・・・」

「なんにしても、最終的にヴァイスさん出たのよかったね」

「ヴァイス様、重役出勤イケメン・・・・・・」

「イケメンだから許されるね」


 私の手にはヴァイス様のアクリルキーホルダーとコースターが入った袋が握りしめられている。1時間のフードファイトの戦果。辛い戦いであったが、それも良かったと思えるくらいの褒賞だ。

 ただ、早々にゴルトさんが出て自らの目的は果たしたはずの三好さんを巻き込んでしまったのは申し訳ない気持ちになる。


「すみません、ヴァイス様を出すために、こんな・・・・・・」

「あはは、いいよいいよ! てか影原さんの制止を振り切って注文し続けたの俺だし、謝る必要ないって」


 たしかに、やめましょう、というかやめてくださいと必死で言っても「いーや、俺はヴァイスさんが出るまで止めないと決めたんだ・・・・・・唐揚げとドリンク追加!!」とタブレットの主導権を握っていることをいいことに、注文し続けたのは三好さんだ。

 ・・・・・・たしかに謝る必要なかったかもしれない・・・・・・。


「しかし、本来なら他の方と交換も、出来たわけでして・・・・・・」

「影原さん、交渉しますって席立った時、死にそうな顔してたじゃん。なんでか俺が行こうとしても死にそうな顔してたし」

「ただでさえ、周りは女性だらけで居心地悪そうなのに、その上他担のお世話までしていただく訳には、いかないと思いまして・・・・・・」

「なるほど(笑)」


 その結果フードファイトをさせることになってしまったのだけど。うう、どっちにしても死にそうな顔することになろうとは。


「かーげはーらさん」


 三好さんが足を止めて、私を呼んだ。それに足を止め、三好さんを見る。三好さんは少しだけ背を曲げて、私の顔を覗き込むようにして言った。


「そんな深刻そうな顔しないで」

「・・・・・・しかし」

「思い出してみて。コラボカフェに誘ったのは俺。商品を食べては注文しまくったのも俺。交渉しに行こうとする影原さんを止めて席に座らせたのも俺。ほら、影原さんは何も悪いことしてないよ? 言うなればこの満腹は俺の自業自得だね」


 ここはお前バカなのって笑うとこだよ! と三好さんが笑う。三好さんは、やっぱり優しい。どこまでも、優しい人なのだ。


「逆にお前がやめなかったせいで自分までやめれなくなってお腹パンパンだって怒ってもいいくらいだよ」


 優しい人だから、迷惑をかけたくないと思ってしまう。──嫌われたくないとも、思ってしまう。どうしたら、三好さんに嫌われないで済むのか、なんて考えてしまう。

 

「ごめんなさい、もう気にしていないので、大丈夫です。気を使わせてしまってすみません」


 気を使わせないようにしなければ。深刻そうな顔をしていたら心配させてしまうから、笑顔でいなければ。・・・・・・よし、口角上がった。作り笑いは苦手じゃないから、上手くできているはずだ。


「・・・・・・ねえ、影原さん」

「はい」

「俺ね、すみませんとかごめんなさいより、ありがとうの方が嬉しいな」

「ありがとう、ですか?」

「そう。謝ったり、無理して笑うよりも、一言ありがとうって言ってくれるだけで俺は充分だよ」


 ・・・・・・無理して笑ったのバレてる・・・・・・。

 でも、そうか。三好さんは、ありがとうって言われた方が嬉しいのか。・・・・・・そうなんだ。


「えと、お気遣い頂き、ありがとうございます・・・・・・」

「うん、どういたしまして」


 おずおずとその言葉を口にすると、三好さんは笑った。にこーっ! という擬音が似合いそうな笑い方に、つられて私まで口元が緩むのを感じる。


「こちらこそ、今日はありがとね」

「いえ、私は何も」

「そんなことないよ。影原さんがいなかったらコラボカフェとか行きにくかったし、楽しかったし」

「た、楽しかったですか?」

「うん。すごく楽しかった。影原さんの推し語り沢山聞けたし、二人でフードファイトしたのも面白くて楽しかった。あんなに食べたの初めてだよ」


 それは、私もだ。推しの話を出来たのは楽しかったし、三好さんの話も聞けた。フードファイトだって苦しいけど楽しかった。

 誰かとする推し活ってこんなに楽しいものだって、初めて知った。出来ることなら、また。


「ねえ、影原さん」

「はい」

「良かったらまた、どこか行かない?」

「・・・・・・また・・・・・・」

「うん。もっと影原さんの話聞きたいなって思うから。・・・・・・それに、ほら! こういうオタ活も楽しいって分かったし」


 ダメかな、と窺うような声が聞こえる。また、なんて願ってはいけない気がしていたのに、三好さんはそれを当たり前のように言ってくれる。


「い、いい、ですよ。私でも、良ければ、いつでも」

「本当? やった!」


 そう喜んでバンザイをした三好さんの手の中で、大量のアクリルキーホルダーがジャラジャラと音を立てた。

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