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20.好きを語るということは。


「え・・・・・・と・・・・・・」


 ヴァイス様の好きなところ。そんなの、星の数ほどある。多分全ての銀河系の星を全部集めても足りないくらい。だけど、私は少し「その、ええと」と口ごもったあと、口を開くのをやめた。

 どうしても、喉で引っかかって出てこない。言いたいし、三好さんならバカにしてくることもないことは、もうとっくにわかっているつもりだ。

 でもそれでも、トラウマの根が身体中に巡ってしまっているみたいに体が硬直して、喉が石のように固くなって、そこで引っかかって何も出てこなかった。


 くだらない、という言葉が頭の奥底で響く。何だそれ、気持ち悪い、変なの、なんでそんなものが好きなんだ──全部今までに言われてきた言葉たち。それに今も尚、私の心は縛られたままなのだと痛感した。

 情けなくて、悔しくて、苦しくて、涙が出そうになる。なんで私はいつも、いつまでもこうなんだろう。本当は、こんなの嫌なのに。好きなことを思う存分話したいのに。


「・・・・・・影原さん」


 どれくらい、そうしていたのかわからない。

 声を掛けられて反射的に顔を上げて、そこでようやく私は私が俯いていたことに気がついた。


「ごめんね、無理して話さなくていいよ。話せなくても、影原さんがヴァイスさんのことが好きなのは伝わってきてるし、わかってるから」


 三好さんはそう言って、優しい顔をした。優しい顔。だけど、どこか寂しそうにも見えた。


「よし、コースターとアクリルキーホルダー、そろそろ開けちゃう!?」


 そんな表情も一瞬で、三好さんはすぐに明るくパッと笑って机の端に置かれたコースターをワクワクとした様子で手に取った。


 ・・・・・・ああ。気を使わせてしまったな。

 そんな自分に心底嫌気がさす。三好さんはいつだって、私に親切心を向けてくれている。否定をせずに受け止めてくれる広い心で、私なんかを受け止めようとしてくれている。何も怖がらないでいいよと優しい顔で、優しく言ってくれている。


 なのに私は──・・・・・・。


「・・・・・・影原さん? 大丈夫?」

「私は」


 ゆっくりと深呼吸をする。大丈夫。三好さんは大丈夫だからと心の中で自分に言い聞かせる。身体中に張り巡らされたトラウマの根をそっと撫でて、緊張を緩めてあげるように。


「ヴァイス様の、優しさが、好きです」


 喉の奥で留まった言葉を、無理やり押し出す。それは思ったよりもスルリと出て、音になった。


「過去とのギャップ、とか、実は強い、ところとか。残虐で、残忍な戦闘狂と見せかけて、本当は大切なものを守るために戦っていることとか。笑顔の裏に隠した本心とか・・・・・・」


 そのまま何も考えずに、ずっと話したかったことを、語りたかったことを、口に出す。その度に心のどこかが軽くなっていく感じがして、不思議だった。


「ビジュアルも国宝級で好きというかもう崇拝するレベルなんですけど、やっぱり中身が本当に良くて、ファルベンになったあとは周りにヤワな男だな、本当に騎士だったのかって言われているのに、その正体が真っ赤な悪魔コンプレットロットトイフェルとかギャップの塊で、通り名は悪魔なのに本当に神すぎて、なんて言ったらいいのかわからないくらいで」


 そこまで言うと、息が苦しくなって言葉を止めた。今まで、ルイさん相手にヴァイス様のいいところをスマホで打つことはあった。だけど、こうして口に出して人に伝えることは数年ぶりで、久しぶりの緊張感と不慣れさで息を吸っていなかったことに気がついた。

 思い切り息を吸うと、頭がクリアになった。同時にずっと三好さんの反応を見ていなかったことを思い出し、ちらりと三好さんを見ると、三好さんは「ん?」と言った。


「あれ、もうおしまい? まだ聞いてたいんだけど」


 三好さんはそう言って、心底楽しそうな笑顔を浮かべた。その顔に嘘がないか、癖で思わず疑ってしまう。だけど少なくとも私の目には、無理して笑っているようには見えなかった。


「・・・・・・すみません」

「それはなんの謝罪?」

「慣れてないので、息切れが・・・・・・」


 ぜえはあと息をすると、三好さんは少しポカンとしたあと「そっか」と笑った。


「一気に話すと疲れちゃうよね。ごめんごめん。また少しづつでいいから聞かせてよ」

「つまらなく、」

「ん?」

「つまらなく、なかったですか? 変だとか、気持ち悪いとか、おかしいとか、もしそう思ったら、正直に言っていただいた方が、いいです」


 その方が三好さんの為にも、私の為なる。この先、話をしようとしたとして。その度に三好さんに不快な思いをさせてしまうのは嫌だ。

 この優しい人に苦しい思いをさせたくない。


「まっさか!」


 そんな暗い感情をどこかに吹き飛ばしてしまうくらい明るく、三好さんは私の言葉を笑い飛ばした。


「凄く楽しかったし、俺が気が付かなかったヴァイスさんのいいところを知れて、もっとナイライを好きになれたよ」

「本当に、ですか?」

「本当だよ。俺、結構態度に出るって友達に言われるからさー。特に影原さんは観察力凄いし、すぐに分かっちゃうと思うよ」


 そんなイメージ全くない。だけど、三好さんをこれ以上疑いたくなかった。そうなんだ、と思ってあとはあんまり考えないようにした。


「コースター・・・・・・」

「ん?」

「見ますか」

「おー、いいよ!」


 それぞれコースターを手に取り「せーの!」と合図をしてひっくり返す。三好さんに至っては「出てよ! ヴァイスさん!」と何かの漫画の魔道士みたいに言っていた。


 出てきたのは、ロッドさんとシュヴァルツさんだった。

 

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