19.コラボカフェと書いて天国と読みます。②
「三好さんがゴルトさんが好きだって私は全然嫌じゃないです。十人十色という言葉があるように、好みだってそれぞれだと思います。それが悪い事だとは私は思いません」
「影原さん・・・・・・」
「誰を好きになって頂いても私は気になりませんよ。そもそも、私はヴァイス様推しなので思わずヴァイス様だけフォーカスしてしまいがちですが、ナイライはみんな素敵な人たちばかりですから。三好さんがゴルトさんを好きになる気持ちもわかります」
誰か1人欠けたらそれはナイライではないと言い切れるほど、10人全員に素敵な個性と魅力がある。それがナイライなのだ。
私の中ではやっぱりヴァイス様が一番最高だけれど、正直他の人達だってとても魅力的だと思っている。
ゴルトさんも、クールそうに見えて実は静かに喧嘩を片っ端から買っていくスタイルの、喧嘩っ早いキャラがとても素敵だと思う。
「ですから、気になさらないでください。ゴルトさんのお話も遠慮なくして頂いて大丈夫ですし、ゴルトさんのグッズが欲しい時には仰って頂けたら協力します」
とりあえず今日はドリンクをゴルトさんのにしますね、と言ってから、三好さんの反応がずっとないことに気がついた。──あ、しまった。やっちゃった。
「あ、す、すみません。思わず、喋りすぎて、しまって・・・・・・!」
「ん? あ、いやいやいや! 全然!」
「それどころか、私今、三好さんをオタクの括りに勝手に入れて・・・・・・! 本当に、ごめんなさい!」
「いいよそんなの! 気にしないで!」
「あの・・・・・・」
「ん?」
「切腹で、お許し頂けます、でしょうか・・・・・・」
「しないで!? しないでね!?」
恐らくパンケーキ用に置かれているのであろうナイフに手を伸ばす。その手を三好さんが慌てて掴んだ。
切腹失敗。無念なり。
「本当に申し訳ございません・・・・・・」
「謝らないで! むしろ凄く嬉しいよ!」
だから切腹やめてね、と伸ばしたままの腕を押し返された。んむう。
「影原さんに嫌がられるかなとか、もう話してくれなくなるかなとか思ってたから、そうじゃなくて俺は嬉しいよ」
「そ、そうです、か?」
「うん。それと俺、駆け出しだけどもうオタクみたいな感じだし、オタクの括りに入れてもらって構わないよ。逆にオタク仲間扱いして貰えて嬉しいな」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。あと、影原さんが沢山話してくれたのも嬉しい。今日は沢山話してくれるよね。凄く楽しいよ」
そう言って三好さんは本当に楽しそうな顔で、「えへへ」と笑った。
その笑顔に、和太鼓をすぐ近くで思い切り叩いた時のような音と衝撃がした。──ん? 何だろう、今の?
「だから謝らないで。沢山お話しよう」
「え、と、わ、わかりました・・・・・・頑張ります」
「頑張りはしなくていいよ」
あはは、と三好さんは笑いながら「じゃあ、ドリンクはヴァイス様のと、ゴルトさんのにするね」と注文用タブレットを操作した。
「よし、オッケー。注文できたよ」
「あ、ありがとう、ございます」
「どーいたしまして。あ、ていうか今更だけど影原さん、蜂蜜レモンとか大丈夫だった?」
「大丈夫、です。冬場は、よく飲んでいます」
「そうなんだ。良かった」
店内にエデルの曲が流れ始める。たしか、シングルのカップリング曲だ。しかもゲームアプリに収録されていない故に、コアなファンでないと歌えない曲として知られている。
──三好さんはこの曲、知っているだろうか。
もし知らなかったら教えた方がいいのかな。三好さんがどれくらいゴルトさん、つまりエデルのことが好きなのか分からないけれど、話題くらいにはなるし、私なら推しのことは全部知っていたい。
そう思って「あの」と声をかけようとしたその時、三好さんがメニューを見ながら曲に合わせて気持ちよさそうに鼻歌を歌い始めた。──え、リズムも音程もめちゃくちゃ完璧なんだけど。もしや、凄く聴き込んでる? このコアなファンしか知らない曲を??
先程三好さんが言った「オタクみたいな感じだし」はもしかして私への気遣いの言葉ではなく、本当にそうなのかも・・・・・・!?
「この曲格好いいよねえ。シングルのカップリング曲なのが勿体ないなって思うよ」
サビが終わったところで三好さんがメニューを閉じながら楽しそうに言う。
「こ、この曲」
「ん?」
「ご存知、なんですね」
「ああ。色々エデルに関して調べてたら出てきたから、シングル買って聴いてるよ」
「か、買ったんですか・・・・・・?」
「うん。知った瞬間に注文しちゃった。・・・・・・あー、前に発売された初回数量限定盤にはゴルトさんのソロが入ってるって知った時は悔しかったなー。もっと早く知ってればー!」
くそう! と悔しがる三好さんを見ながら、そういえば、それでエデルファンが予約開始と共にサーバーにアクセスして、サーバーがパンクを起こして騒ぎになったこともあったな、と思い出す。
それにしても、三好さん・・・・・・。
──め、めちゃくちゃファンになってない・・・・・・!?
予想の遥か上を行くハマりっぷりに驚く。まさかこんなにハマるとは夢にも思っていなかった。
「三好さんは──」
そう言いかけた時、ウェイターのお姉さんが「お待たせいたしました」とテーブルにやってきた。それに何となく姿勢をただし、注文通りの品がテーブルに並べられていくのを見守った。
「ご注文の品、全てお揃いでしょうか」
「はい、ありがとうございます」
お姉さんが一礼をして去っていくのを見届けた後、テーブルの上を改めて見た。
私の前には綺麗な黄金色の蜂蜜レモンジュースと、白いパンケーキ。三好さんの前には炭酸入り乳酸菌飲料と唐揚げが置かれている。なんでゴルトさんのフードメニューは唐揚げなんだろう? と一瞬思ったが、ゴルトさんの好物だと思い出して合点した。
凄い。テーブルの上がナイライだ・・・・・・!
「とりあえず、食べる?」
「そ、そうですね!」
今回のコラボではドリンクを注文するとコースター、フードを頼むとアクリルキーホルダーが付いてくる仕様になっている。
どちらも中身はランダムになっており、10人中誰が出るのかわからないのでドキドキする。ドキドキするけど、せっかくなので三好さんの言う通り早く料理を食べた方がいいだろう。
テーブルの真ん中にまとめて置かれたアクリルキーホルダーが入っている銀色の袋と伏せられたコースターを汚さないように更に隅に寄せてから「いただきます」と手を合わせた。
白いパンケーキの横に添えられた苺ソースをパンケーキの上にそうっとかけると、白いパンケーキが美味しそうな赤に染まった。
真っ赤な悪魔を上手く再現したパンケーキだと一通り感激してから、フォークとナイフを手に取ってパンケーキを切って口に入れた。
んん、美味しい! ヴァイス様を上手く再現している上に美味しいとか、コラボ最高すぎる!!
「ふはっ」
美味しい美味しいとモグモグしていると、笑い声が聞こえてきた。なんだろうと三好さんの方を見ると三好さんは「ごめん」と笑いながら謝った。
「影原さんがあまりにも嬉しそうに目を輝かせて食べてるから、思わず」
「そ、そんなに嬉しそうな顔、してましたか?」
「うん、凄く。なんか俺まで幸せな気分になっちゃった」
三好さんは「甘いもの好きなんだねー」と言いながら唐揚げを箸で掴み、口に放り入れた。
「やば、うっまっ!」
そう言う三好さんの目は、多分だけど私以上に輝いていた。子供みたいに屈託なく笑い、「マジでやばいよこれ!」と言っている。
「・・・・・・ふふっ」
思わず笑うと、三好さんが驚いた顔をして私を見た。
・・・・・・あ、しまった。またやらかした。人を見て笑うとか、失礼すぎるでしょ。私のバカ!
「す、すみません、笑ってしまって・・・・・・」
「なんで謝る!?」
「不快だったかなと・・・・・・」
「いーや、全然。影原さんの笑った顔初めて見たから思わずビックリしちゃっただけだよ。寧ろもっと笑っていいから!」
「え、は、初めて・・・・・・でしたっけ?」
「うん、初めてだよ」
唐揚げを箸でつまみ上げながらそう笑う三好さんは、漫画だったら周りに音符のマークが散らばってそうなくらい嬉しそうだ。・・・・・・そんなに唐揚げ美味しいのかな。ちょっと気になる。
「で!なんで笑ってたの?」
「え、えと、三好さんも、幸せそうだなあと思ったら、思わず」
「マジ? 伝わっちゃった?」
「はい」
「影原さんを笑顔に出来ちゃう俺の幸せパワーすげえ〜! もっと振りまいちゃお〜」
なんてね、と三好さんが笑う。その気持ちよさそうな笑顔に釣られて、私はまた笑った。
「影原さんもちょっと唐揚げ食べる? お皿に入れてあげるよ。幸せのおすそ分け〜」
「あ、ありがとう、ございます。三好さんは、甘いものはあんまり、でしたっけ」
「そうなんだよね〜残念」
「なんだか、甘いもの好きなイメージだったので、意外です」
そう言いながら、あれ、前にチョコレート持ってなかったっけとふと思い出す。うーん。甘いものが苦手なのに普通チョコレートを持ち歩くだろうか。・・・・・・まあいいか。あの時はたまたま食べたい気分だったのかも。私にくれたし。
お皿に置かれた唐揚げをフォークで差し、口に入れる。肉汁がじゅわっと出て、本格的な料理店みたいに美味しい。幸せ。
「そういえば影原さん、さっき何言いかけてたの?」
「ふえ?」
「ウェイターさんが来る前に何か言いかけてたでしょ」
そう言えばそうだった。美味しい料理と飲み物に虜になって忘れていた。唐揚げをしっかりと噛み締め、美味しさを味わってから飲み込み、口を開く。
「三好さんは、ゴルトさんのどこが好きなんですかと、聞こうとしていました」
「ゴルトさんの好きなところ・・・・・・」
三好さんは唐揚げを口に入れ、咀嚼して飲み込むまで考えてから「そうだなあ」と言った。
「やっぱりあのギャップかなあ。最初はクールで格好いいって思ってたんだけど、最終的に面白い人だなって思った。特に最新の5部でハマった」
「5部まで読まれたんですね」
「全部読んだよ。恒常のイベントストーリーまで含めて」
「早いですね!」
「ついつい読んじゃって・・・・・・」
ゴルトさんにハマってからは特に、と三好さんは続けた。
「最初はヴァイスさんがどうなるのか気になって読んでたんだけど、今ではゴルトさんが出てくるのが楽しみで読んでるかな」
「わかります。推しが出来ると、読むのも捗りますよね」
「ねー。あ、あと、憧れもあるかな」
「憧れ、ですか?」
「そう。ゴルトさんみたいに強くて、静かに大切な人を守れるような人になれたらなって思うな」
大切な人。三好さんの大切な人って、どんな人なのだろう。家族とか友人とか、恋人とかだろうか。・・・・・・少なくとも、私が入っていないのは確実だろう。だけど三好さんならそういう役割も似合いそうだな、なんて想像した。騎士の格好とかも意外と似合いそう。
「影原さんは」
「は、はい」
「ヴァイスさんのどんなところが好きなの?」
その質問に、私の頭の中は真っ白になった。




