17.お出かけ前夜です。
──どうして・・・・・・。
普段は何も無い部屋とは思えないほど散らかった部屋の真ん中で、私は一人、黄昏ていた。
──どうしてこんなことに・・・・・・。
ああもう、絶望しかない。もう無理だ。こんなの、こんなの・・・・・・っ!
──どうして・・・・・・!!
「三好さんと出かけることにぃっ・・・・・・!!?」
散らかった部屋の中心で悲鳴をあげる。次いで流れるように突っ伏した先にあるのは、質素な服の数々。
本当にどうしてこんな事になってしまったのか。服に埋もれながら、そんなことを考える。
事のきっかけは五日前のナイライイベントの終わりにきたメッセージだった。
お礼をしたいから出かけよう、という三好さんの提案に目を疑ったあと、慌てて『そんなことしていただく訳には』とか『大したことしておりませんので、お気になさらず!』とか、そういう遠慮の言葉を返信したのだが、三好さんに『俺の自己満だから! 付き合って!』と押し切られてしまった。
しかも、行きたいところはないかと聞かれて『特に・・・・・・』と言ったら『じゃあナイライのコラボカフェにしよう』と決まってしまった。
それからあれよあれよという間に、二人が揃って休みの日などそうないから大学と影原さんが休みの日で、とか、それなら六日後の土曜日がいいね、とか、待ち合わせは十時で、とか、そう言った細かなことが決まった。決まってしまった。
それから五日。本当にもう五日も経ったのかと疑いたくなるほど、この五日間は過ぎるのが早かった。人間、考え事をしていると時を忘れると言うけれど、あれは本当なんだと実感した。
考えている内容はもっぱら「どうしよう」と「何を着ていけば」。
そして今悩んでいるのは「何を着ていけば」の方だった。
そもそも、私は友達と出かけることもなかったタイプの人種である。ついでにオシャレも興味なし。
つまり家に服がないし、買いに行こうにも何を買えばいいのか分からず、ついつい無難な黒いパーカーやシャツなどを買ってしまいがちだ。
普段はそれで困ったりしないのだが、こうしてお出かけするとなると話は別だ。
男性とのお出かけなのだから少しくらい華やかな格好で・・・・・・と思うのが女の子の常。──というのとは、私は少しだけ違う。
──三好さんとのお出かけなのはまだしも、今回の行先は、あのナイライのコラボカフェなのに・・・・・・!!
うわああ! と黒づくめの服の山の中に顔を突っ込んで叫び、再び頭を抱える。どうしよう、本当にどうしよう。
コラボカフェというのは、店内に推しがふんだんに飾られ、メニューも推しだらけという、隅から隅まで押しだらけな空間である。
そんな空間に行くオタクは、大体推しの為にオシャレをしている。
そしてコラボカフェは、オタクが集う、オタクの為のカフェ。つまり、コラボカフェには一部のオタクに連れられた友人恋人を除いては、オタクしかいない。
つまりつまり、店内には推しのためにオシャレをしたオタクしかいない、ということになる。
──そんな空間に、野暮ったい格好で行ったりしようもんなら・・・・・・それは、推しの恥になるのでは!?
あああああ無理だ、ヴァイス様の恥になるなんて! 私には無理だ!! ヴァイス様は神であり、何よりも貴いお方である。そんな方の恥になるくらいなら、いっそ切腹した方がマシなくらいだ。いやでも、私がそのような理由で切腹したらヴァイス様の罪や責任になって、風評が悪くなるのでは?! それはダメだ!! 私の身勝手な行動でヴァイス様にご迷惑をおかけする訳にはいかない。
それらを回避しようと思ったら、私がオシャレをするしかない・・・・・・けど、何を着ていけばいいのかサッパリわからない・・・・・・!!
無限ループに嵌り、再び頭を抱える。頭の中ではヴァイス様がにこやかに笑っておられる。どうしよう、イケメンだ。こんなイケメンに釣り合う服装ってなんだ。わからない。ヴァイス様に恥をかかせないオシャレってなんだ・・・・・・!!?
ルイさんに女性服のアドバイスを求める訳にもいかず、この五日の間に服屋を変質者の如く徘徊しても、ネットで調べてもわからなかった問題に悩まされ、一人、唸る。
こうして、コラボカフェ、兼、三好さんとのお出かけ前夜は、眠れない夜を過ごすことになった。




