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13.店長さん観察日記


 どうして人生とは上手くいかないのだろう、と思う。そんなこと、日常的に思っているけれど、しかしこういう時こそ強く強く思う。

 何故、私の人生はこうも上手くいかないんだろう。


 静まり返った店内。いつもなら誰かしらいて、時には賑わうはずの店内に今いるのは、店長さんと私だけである。

 そのうちしーんという、漫画や小説でよく使われる効果音が聞こえてきそうなくらい物音がしない空間に、私は震えていた。

 掃除も、品出しも、商品を整理整頓する前出しも、一時間に一回のトイレチェックも、揚げ物の補充も、洗い物も全て終わってしまった。

 それでもなんとなく売り場に出てウロついてみたりもしたが、お客さんがいないのに特にやることなどあるはずもなく、三分も時間を潰すことも出来ず、かといって売り場でサボるのも気が引けて出来ず、今この地獄に身を置いている。


 三好さんがいる時はいつもそこそこお客さんくるじゃん! なんで店長さんと二人の時に限って暇なんですか!? という気持ちがグルングルンと回っている。最悪だ。最悪すぎる。


 本当はお客さんがいなくて暇でやることが無いのなら、私が話を振って少しでも交流を深めるべきである気がするけれど、店長さんは怖いし、そもそも何を話せばいいのかサッパリわからない。

 それに、私はコミュ障であるが故に話すのが苦手なタイプである。そんな奴に話せることがある訳もなく。


 心の中で盛大にため息を吐く。これなんの罰なんだろう。本気で助けて欲しい。


 そんな訳で暇を持て余し、見るべき場所もなくてずっとカウンターの下に置かれている袋を見つめていたけれど、いい加減に飽きてちらりと店長さんの方を見てみた。


 店長さんは発注も終えてやることがなくなったのか、古びた天井を見つめていた。その天井を見つめる目つきすら鋭く、眉間に皺が寄っている。うう、やっぱり怖い。


 しかしこんな怖い店長さんでも、オーナーさんや他のアルバイトの方や、一定のお客さんには好かれていて、三好さんも夜勤で来た店長さんに話かけている様子をよく見かける。お客さんとも話し込んでいる姿を見かけるし、本当に悪い人ではないんだろうなとは思う。

 というかまず、穏やかで優しいオーナーさんが雇っていて店長という役職まで与えているのだから、信頼できる人なんだろうと、思うけれど。


 不意に、店長さんがこちらを見た。その拍子に一瞬目が合ってしまった気がして、慌てて視線を逸らす。ああああ、何ガンつけてんだとか言われたらどうしよう。見ていてごめんなさい、生きていてごめんなさい・・・・・・!


「・・・・・・なあ、」

「は、はぁい!?」


 うわああ怒られる!? 何見てんだゴラとか言われる!? 辞めろとか言われる!?!? えっなんか今凄い顔歪めた!? やだやだ何、怖い助けて!!


「お前、アニメとか好きなのか?」


 しかし、そのグニャリと曲げられた口から飛び出したのは、そんな予想の遥か上を行く質問だった。


「・・・・・・へ?」

「んー、あー、ええと、よく三好と話をしてるだろう。確かあいつ昔アニメとか観てたって言ってたから、それ繋がりで話してるんじゃねえかと思って」


 思わずポカンと口を開けて固まる。ん? アニメ? ええと・・・・・・アニメ?


「あにめ・・・・・・」

「アニメ。観るのか?」


 その質問に、頑張って頭を巡らせる。アニメ・・・・・・は、あまり観ない。私が好きなのはあくまでナイライだけであり、ナイライはソーシャルゲームである。アニメには当てはまらない。


「・・・・・・え、えぁ、と、アニ、メは、あまり・・・・・・?」

「・・・・・・そうか」


 沈黙。


 ・・・・・・。いやいや待って!? 待って、何今の!? どういうこと!? なんで急にアニメ?! ていうか三好さんって昔アニメ観てたの? わからないが渋滞してる、今! なう!!


「アニメじゃねえのか・・・・・・」


 ぼそっと店長さんが呟く。それに更に困惑が加速する。怒られると思って身構えていただけに、予想外のその困惑は中々上手く形を持ってくれなくて、店長さんの質問の真意を掴み取ろうと思ってもつかみ取れない。


 ええと、つまり、店長さんは私がアニメ好きだと思って話しかけてきたってこと? え、なんで?


 ・・・・・・もしかして、もしかしてだけど。店長さん、アニメが好きだったりとか? もしそうだったとしたらめちゃくちゃ意外だけど、今の会話も、いつも三好さんと話をしているのも合点がいく。


 勇気を振り絞って、聞いてみようか。どうせ暇だし、店長さんも話しかけてくれたのだ。今がこの店長さん怖い関わりたくないという殻から抜け出すチャンスなのかもしれない。


 ぐっと喉の奥に力を込める。頑張れ、頑張れ、私。いくんだ!


「うぁ、え、と、てんちょ、さんは、好きなん、ですかっ?」


 よし、言えた! 言えた・・・・・・けど、こっち見た店長さんの顔怖い!! なんか、なんか、凄い、表現しきれないくらい怖い顔してる! うわああごめんなさい、ごめんなさい!! 生意気に話しかけたりしてごめんなさい!!

 

「・・・・・・んあ? 何が?」

「ご、ごめんなさい!」


 店長さんのドスの効いた声に、思わず脳内の勢いのまま謝る。ごめんなさい、本当にごめんなさい。


「え、何が・・・・・・。あ・・・・・・」


 店長さんが小さく呟いて顔を歪め、ふいと私から視線を逸らして口元を手で覆った。その様子を見て、私も店長さんから視線を逸らした。気まずい雰囲気に逆戻り。である。


 ああ、もう本当に助けて欲しい。誰か・・・・・・!


 ピンポンピンポーン。


 はっ! 神様(お客様)!!


「い、いらっしゃいませ・・・・・・!」

「っしゃせ〜。お?」

「え、なんか空気気まずくないですか? 何をしたんですか、店長」

「お前、また来たのかよ。何もしてねえよ。多分」

「多分ですか。そろそろ法廷で会います?」


 しかし、その男性は店長さんと顔見知りだったようだ。お邪魔してしまわないように、そうっとカウンターを離れ、乱れてもいないジュースの棚まで行き、片っ端からガラス戸を開けて整理していく。


 やっぱり店長さんは、怖い人だ。

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