11.ちゃんと話してみようと決意はしたのですが。
スマホをギュッと握りしめる。目の前にはアルバイト先のコンビニ。落ち着けるために深呼吸を2回して、思考を巡らせる。
──よしっ! 今日は三好さんに話しかけるんだ! ちゃんと話すんだ! 内容は、大学の講義中にしっかりと考えてきた! もっかい復習!!
ちなみに、ちゃんと講義受けろよというツッコミをしてくれる人は心の中にはいない。現実的に声を出してもツッコんでくれる友達なんていないけど。うーん、寂しい!
もう一度、深呼吸を二回、いや三回。傍から見たらコンビニの前でスマホを固く握り締め、深呼吸を5回繰り返しただけの女子大生を通行人の男性が通りすがりざまにチラッと見て行ったが、そんなの気にならなかった。
だってこっちは重大任務の真っ最中なのだから。
スマホの画面を見る。そこにはルイさんからのメッセージが表示されている。褒めてくれた言葉と、寝てしまってから送られてきていた『明日は楽しく話せるといいな』の言葉に、少しだけ勇気が出る。
その勇気を背に、大学の講義中に一生懸命考えた内容はこんな感じだ。
──三好さんに、昨日あれからガチャ引けたか聞くんだ。それで、何が出ましたかって聞いて、教えて貰う。よし。脳内シュミレーションばっちり!
短いとか言わないで欲しい。それくらいシュミレーション無しでいけよとか言わないで欲しい。私にはこれが精一杯なのだ。頑張ったなと褒めて欲しいくらいだ。
時計を見ると、十六時四十分になったところだった。そろそろ行かなきゃと足を踏み出す。
店に着くまでに更に脳内シュミレーションを繰り返す。
昨日、ガチャ引けましたか。何が出ましたか。あれからガチャ引けましたか。何が出ましたか。
店内に入り、昼勤さんに「おはようございます」と挨拶をしながら、もう一度シュミレーション。
昨日あれからガチャ引けましたか。何が出ましたか。
事務所のドアに手をかけながら最後の確認。昨日あれからガチャ引けましたか。何が出ましたか。よし、完壁!
ドアに掛けた指に力を込める。さあ、いざ本番!
ガラッ!
「あ、影原さんおはよう」
「昨日っ! あっ」
・・・・・・。
挨拶のこと忘れてた・・・・・・。飛ばした・・・・・・。
「昨日?」
「あっ、えあ、すみま、えっと!」
コミュ障は人に話しかける時、脳内シュミレーションを繰り返して、そのシュミレーションにない事が発生するとテンパる生き物である。多分。
挨拶のことをシュミレーションに入れるのを忘れ、且つ気合いを入れすぎて結構な音量で「昨日」と言ってしまった私の頭の中は、一瞬にして真っ白になった。
真っ白になったことに更にテンパる。とりあえず、ええと、なんだっけ。あ、挨拶!? かな!?
「・・・・・・おはよう、ございま、しゅ!」
・・・・・・。
本日、脳内大反省会の開催が決定しました。親愛なる皆々様など私にはおりませんが、どうか近づかないようにお願いいたします。
あれだけ繰り返した脳内シュミレーションなんて遥か彼方に行ってしまった。一文字もこの場に残っていない。もう帰ってくることもないだろう。あああ、何してるんだ私は。
はぁ。今日こそは・・・・・・って思ったんだけどなあ。
三好さんがクスクスと笑いながらもう一度「おはよ」と言ってくれる。それに小さく頭を下げて、荷物を机の横に置いた。
「影原さん」
「・・・・・・っ、はい」
名を呼ばれ、三好さんの方を見ると、三好さんは私に笑顔を向けていた。
「さっき、何を言いかけてたの?」
「え、あ・・・・・・ええと」
聞かれて、ああそうだよなと思う。何かを言いかけられて、無かったことにされたら気になるよな。でもどうしよう。なんて言えばいいんだっけ。
「影原さん」
「は、はい・・・・・・」
「ゆっくりでいいよ」
優しい声で、三好さんがゆったりとした口調で言った。
「焦らなくていいよ。ゆっくり、影原さんのペースで話してくれれば。拙くたっていいよ。俺は怒ったりしないから」
「・・・・・・」
「話したいことがあれば、何でも話して。ナイライのことでも、それ以外のことでも。大丈夫だから」
ね? と笑いかけてくれる三好さんに、少しだけ泣きそうになる。それをグッと堪えて、深呼吸を二回する。・・・・・・そうだ。ガチャ。昨日のガチャ結果を、私は聞きたかったんだ。
「ガチャ・・・・・・」
「ガチャ?」
「昨日の・・・・・・えと、結果どうなり、ましたか、・・・・・・じゃなくて・・・・・・ガチャ、引けましたか」
「ああ、影原さんのお陰で引けたよ!」
ほら見て! と三好さんがスマホの画面を見せてくれる。そこにはガチャを引いて出たカードがずらりと並んでいた。
「ヴァイスさん、出たよ。一番下のだけど(笑) このゴルトさん? って人のやつの枠が金色なんだけど、いいやつなんだよね? これって」
「は、はい。金色は、ええと、SSRって言って一番いいやつで・・・・・・これは確か、性能も、良かった気が・・・・・・」
「マジで!? やった!」
俺ツイてる〜! とはしゃぐ三好さんに、ほっとする。
話したかったことを話せた。拙くて聞きにくかったはずなのに、三好さんは聞いてくれた。嬉しい。
「ありがとう、ございます」
「ん、何が? お礼を言うのはこっちだよ。教えてくれてありがとう。あと、更に教えてもらってもいい?」
編成の仕方なんだけどさーと言いながら隣の椅子に座る三好さんに、やっぱり少しだけ緊張する。聞かれても、上手く話せるかわからない。でも、頑張ろう。
「それなら・・・・・・」
結局この日は、ギリギリまで話しすぎて、昼勤さんの人に怒られることになった。




