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1.不肖ながら、オタクさせて頂いております。


 あと、5分。


 レジの右上の時計をちらりと見て、心の中で密かに思う。21時55分。──はぁ、ドキドキしてきた。


「お願いしまーす」


 台の上に商品が入ったカゴがどさりと乗せられる。恐らく今日最後のお仕事だ。


「い、いらっしゃいませっ!」


 吃りながらも挨拶をして、カゴの中の商品をなるべくそっと手に取ってバーコードを打ち込んでいく。


「れ、レジ袋はっ、ご入用ですか?」

「大丈夫でーす」

「かしこまり、ました! お会計520円に、なり、ますっ」


 お金を受け取り、お釣りを返してお客様がマイバッグに商品を詰め終えてレジから離れるのを見送りながら「ありがとうございました!」と頭を下げる。


 顔を上げ、そっと時計を見ると22時になっていた。

 よしキターー!!


影原(かげはら)さん、お疲れ様。上がろうか」


 背後から少し低めの、だけど柔らかい男性の声が聞こえて振り返ると、先輩の三好(みよし)さんが優しい笑顔を浮かべて立っていた。


「は、はい」


 ハイ!! と思い切り返事をしたいところを堪えて、静かに頷く。交代の夜勤さんとオーナーに声をかけ、三好さんと事務所に入ってタイムカードを押した。


「今日も平和だったね」


 三好さんが帰り支度をしながら話しかけてくれる。それに「そ、そうですね。良かった、です」と答えながら急いで帰り支度をして「すみません、お先に、失礼しますっ!」と挨拶をして足早に店を出た。


 店を出てすぐにスマホをカバンから取り出し、画面を点灯させる。通知が1件。

 足を止めてパスワードを入力して通知一覧のアイコンを震える指でタップ。ツブヤイターという画面の後にSNSが開かれ、瞬間、ぐっと唇を噛み締めた。


 イケメンな推しが!!!! イケメンな推しのイベント告知が公式から来てる!!!!!!


 公式アイコンの下には髪を靡かせ、憂いた表情の推しの新たなる姿を確認し、心の中でガッツポーズをかまし、スクショを連発する。はあ、無理。推しが、ヴァイス様がハイパーイケメン。今日もイケメン。麗しい。神々しすぎて無理無理無理。こんなの神じゃない? いや神だよ。神社に奉られるべきレベルだよ。崇拝。(この間1秒)


 心の中で一息に感想を申し立てる。でも表情にも、声にも一切出さない。心の中で噛み締めて、スルメをこれでもかというくらい噛み締めるみたいに噛み締めて、やっと「良き」ボタンを押した。ああ、このボタンあと100万回くらい押したい。なんで1回しか押せないんだろう。世界のバグかな?


 にしても、やっぱり『ナイライ』最強! 公式が神! 運営様が神! ヴァイス様は神超えてる!!


 ハァァァァやっぱり推し事って最高〜!!



 不肖、影原 優依(ゆい)、20歳。()()、大学生とコンビニアルバイト。


 本業、オタク、をやらせて頂いております。

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