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葬儀店のご隠居トーマス氏

トミーのポールタウンでの就活が始まりますが、二年後には文官になる為の学校に行くのでそれまでのつなぎとなります。今話では視点が主人公以外のときもあります。

 僕はただ事業家で成功した人の知識や知恵を少しお借りしたかっただけだったのだ。

 そうすれば自分が文官としての夢を叶えるのに、なんらかの助けになると思ったからだ。

 だから全然予想もしなかったことが起きたので僕は後悔した。

 一度関わってしまったことは知らない振りはできない。

 そうなんだ。僕は隠居の老人に悪魔のスキル吸収を使った時点で引き返せない事態に陥ったのだ。




 人が死んだとき、棺桶を作る職人が働くことになるが、小さな町ではそんなに頻繁に人は死なないから棺桶職人だけでは食べて行けない。

 となればより大きな町から棺桶を買うか、できは粗末でも大工に頼んで作って貰うしかない。

 棺桶一つとっても死人が出た遺族はどうするかで悩むのだ。

 そして墓所に向かう葬列も村社会では村で行うが、町場だと親類縁者も少なくてそもそも葬列そのものが成り立ちづらい。 

 棺桶は墓所に土を掘って埋めるが、そのとき教会の神父が来て祈りをささげるが、それを依頼する手配や寄付金などの額でも悩む。

 そして埋葬の後、酒や料理を出すのも村では自然と役割が決まっているが、町場では有力者や金持ち以外はほとんど無理なのだ。

 

 トーマス氏はその点を解決するため、遺族に代わって葬式一切をしきるシステムを開発した。

 だから小さな町でも安心して人並みの葬儀を行えるようにしたのは彼の貢献によるものだった。

 町にできた小さな葬儀屋の店……それがトーマス氏の事業の始まりだった。

 そのやり方が周囲に広まり、そういう店がうちの町にも欲しいという要望ができて、次第に店が増えて行った。

 そしてついには王都にも大きな店が建つようになり、下級貴族さえもこの店を利用するようになったのだ。

 墓所にする為の土地も買い上げて確保してあるので、新しい法ができてから、以前のように勝手に野山に墓をつくることはできなくなった。

 それは大きな町が増えて行くにつれて、墓を無計画に建てれば市街化計画に支障ができるので、トーマス氏が貴族に働きかけて立法措置を取って貰った為だ。


 こうしてトマス氏は成功し、事業は拡大した。

 そして妻を娶り三人の娘ができたが、長女には彼の下で働いていたロイドを婿にあてがった。

 次女は騎士爵の男性のところに嫁に行った。

 そのときは領主のポール男爵の紹介だった。

 そして三女のアリシアは一号店であるこの街の葬儀店で働きながら、父親とともに暮らしていたのだ。

 やがてトーマス氏は引退することした。

 その際あくまでも国内にある支店はすべてトーマス氏の名義になっていたが、王都とその近郊の支店を長女名義に変えるよう指示してその経営を婿に任せた。

 結果全葬儀店の全体の二分の一は長女のものとなり、残り半分の更に五分の二は次女に、五分の三は三女のアリシアに名義変更をした。

 そして三女の元で隠居していたのだ。

 けれど実際の経営でそれぞれの支店長の上に立つのは長女の婿ロイドであることが多く、知らないうちに実権が彼に移ってしまっていたのだった。それで何か問題が起きそうになったのだが、その頃にはトーマスが病気で伏せるようになって先行きが不安な状態になったのだ。

 

 この程度の知識は町の者なら誰でも知っていたことだった。




 トーマス氏は風邪をこじらせて肺炎になり、食欲もなくなりだんだん元気がなくなっていった。

 そしてある朝三女のアリシアが寝室に起こしに行くとその時は既に帰らぬ人になっていたのだ。

 そのことはすぐに二人の姉に知らせてアリシアは棺の中の遺体に花を飾って葬儀の準備をした。

 真っ先に来たのは長女の婿のロイドだった。

 だが出迎えたアリシアに言った彼の言葉は理不尽なものだった。

「遺体は王都に持って行って葬儀は俺の方でやる。お前は必要ない」

「でもお父さんは葬儀はここでやってほしいと言い残されてます」

「遺言書はあるのか? 俺はだいぶ前に書き残した遺言書を預かっているぞ。それによるとこの事業全部は俺に任されてるし、事業資産である各葬儀店の所有は俺のものにして良いとある。大体お前や次女みたいにオーナーだけやって自分では働かず、売り上げの何割かを自分のものにするような寄生は認められなくなるんだよ」

「何を言ってるの? あれはお父さんが決めたことなのに、勝手に変えることなんてできやしないわ。それに私は少なくてもここの店はきちんと経営している」

「そのな、お前の親父さんが後で遺言を書き替えたって言ってるだろが」

「そんなこと信じられない」

 ロイドは手紙のようなものを広げてアリシアに突き付けた。

「これが遺言だ。俺を信頼して書いてくれたんだ」

「いつですか? 私に黙ってそんなことをするなんて信じられません。それに、その字確かにお父さんの字ににているけど、なんかおかしい。筆圧が弱いわ。きっと字を真似しておっかなびっくり書いているからタッチが弱いのよ」

「病気で体力が落ちたせいだ」

「そんなことない。それに義兄さんに店を全部譲るなんて考えられない。だって上の姉さんはあなたに離婚を迫られているって手紙で教えてくれたもの。お父さんはそれ知って怒ってた。それなのにあなたに全部の権利を渡すなんて、そんな筈はないじゃないっ!」

「つべこべ言うなよ。それにお前にはここの店は任せられない。記念すべきトーマス葬儀店の一号店だ。この遺言にも書いてあるが、この店の経営が苦しくなったとき資金を補填したのはこの俺様だ。つまりお前は俺に借金をしているってことになる」

「それはおかしいわ。確かに経営が苦しい時にお父さんに助けてもらったけれど、それは私に対する投資で義兄さんとは何の関係もないわ」

「言わなかっただけだ。お前の代わりに義父さんが俺から借金をしたんだ。これが借用書だ。これによると返済の期限が過ぎている場合は所有権と経営権を手放すとしたためてある」

 私は義兄のロイドの理不尽な言い草に腹が立って頭が真っ白になった。

 すべての所有権はお父さんにあって、それを分配したけれど義兄には譲渡されてなかった筈だ。

 使用人として経営の実務は任されていたらしいが、オーナーではない。

「とにかくお前はさっさと荷物をまとめてここから出て行け。さもないと「あのう……お話の途中ですが宜しいかのう?」」

 振り返ると見知らぬ老人が店の中まで入って来ていた。

 いつ来たのか気配を全然感じなかったので驚いた。

「儂はトーマス殿の古い知り合いでのう。彼がなくなったと聞いて、お別れに顔を拝みに来たんじゃが、会わせて貰えんかのう?」

「あっ、そうですか。お父さんの知り合いの方ですか」

 私は義兄とこれ以上口を利きたくなかったのでその老人の登場に救われた思いだった。

「どうぞ、こちらへ」

 霊安室に置いてある棺桶の蓋を持ち上げて花で飾ったお父さんの遺体にその老人を会わせてあげました。

「おお、トーマス……お前はどうして……」

 ご老人はお父さんの体にすがりつくようにしてむせび泣いた。

 私はこの方を知らないが、幅広い付き合いがあったお父さんだからそういう人がいても不思議はない。

 でもまさか知り合いの振りをして近づいて何かを狙っているのかもしれない。

 そう言えば名前をまだ聞いていない。

 とそのとき老人は私を見て言った。

「アリシアさんは三番目じゃったのう。親孝行な娘だといつも言っておった。さっきのは長女のレイナさんの婿じゃな。勝手なことを言ってたが儂がトーマスから聞いていた話と全然違うぞ。レイナさんからロイドの奴が王都支店の従業員の女と浮気して離婚したがってるって聞いたんだが、それで経営権を取り上げて頸にしたいと言ってた矢先だったのじゃ。あの遺言や借用書も王都の闇の代筆屋にでも書かせた偽物じゃろう」

「あなた様は、いったい?」

「ところでトーマスの奴こんなことを言っておったぞ」

「えっ」

「自分はもうすぐ死ぬけれど、死ぬ前にはっきりしたことを決めてからでないと絶対死なないってな。まあ、そうは言っても死んでしまったがなあ。儂か? 名乗っても仕方がないさ。じゃあ、元気でな」

 私は茫然として老人を見送った。

 義兄はいつの間にかいなくなっていた。

 でもきっとまた戻って来て、今度は強引に遺体の入った棺を持って行くに違いない。

 王都で葬儀をするというのは、お父さんの為じゃなくて、王都での地盤を確かなものにする為のパーフォーマンスの為だ。

 トーマス葬儀商会はそれなりに名まえが通っているから。死人を自分の売名の為に利用する積りだ。

 私はいっそ、あの老人が言ったようにお父さんがロイド義兄さんを頸にする為一度息を吹き返してくれればと思った。

「アリシア」

 私の名を呼ぶ声に私は振り返った。

 まさかありえない。

 そこに立っていたのは棺に入っている筈のお父さんだった!! 

 

面白い、続きが見たいと思った方はブクマよろしくお願いいたします。

褒められると伸びるタイプなのでその点を鑑みてブクマや評価をお願いいたします。

m(--)m 


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