賊の討伐
今話では生活の場所を男爵のいるポールタウンに移すことになります。
何だって? 本人に成りすますだって?
そんな訳ないだろう。
じ……じゃあ、例えば僕が妹のアミ―に成りすませる?
な訳ないでしょっ。体格が違いますっ。
僕はアミーの肉体的特徴をコピーして『成り済まし』をやってみた。
すると僕の背は縮まり着ている服が女の子の服になって……
「ありぇえええ?」
出した声がアミ―の可愛い声だった。
「アミ―!生きてたの?」
「あっ、ネエネ怖かったよぉ」
僕はアミ―の全記憶を駆使してアミーならそう言うだろう必然的な言葉を出した。
自分でやってて驚いたが、これは全くアミ―そのものだ。おかしいぞ。どうして服までアミ―のものになっているんだ?
それに僕の体からアミーになったとき、あまった背丈や体重はどこに行ったんだ?
実際ぼくはミリーに軽々と抱き上げられている。
その後が大変だった。母さんの姿になって父さんを励ましたり、ラリーになってミリーと格闘して遊んだり、良いというまで代役をやらされた。
だがその後がもっと大変だった。村中の人間全部のコピーを作って欲しいと、父さんに言われ、もう一度村中の死体をコピーして回った。
「母さんや、何か食べたいんだが」
「わかりました、あなた。ありあわせの物で良いなら……って、もう勘弁してよっ」
村人のコピーが終わって戻って来たら、父さんがまた母さんをリクエストしたのだがこのままだと日が暮れてしまう。
そこで馬車に乗って、またポールタウンに戻ることにした。
それよりもずっと今まで忍耐強く待っていた馭者の爺さんには一番迷惑をかけた気がする。
彼は待っている間馭者席でずっと居眠りしていたので、僕らの会話はきいていない。
街道を馬車を走らせるのはちょっと怖かったが、まだまだ『暁の軍団』残党には食料があるだろうから、大丈夫だと自分に言い聞かせた。
襲われたらすぐにも死ねる自信がある。
僕らは二晩は馬車の中で寝て翌々日の午前中にポールタウンに戻った。
領主館に行くと、ポール男爵様は兵士を10名ほど揃えていた。
ポール男爵様は自ら門まで出て僕らの馬車を迎えてくれた。
「街道から外れた森のコースを逆行して探らせたが、賊らしい者たち24名はこっち方面に近づいているそうだ。鳩通信で知らされた通りなので驚いている。なおブーン子爵様の兵士が30名と自警団20名が騎士5名と共にこちらに向かっている。うちも自警団を10名ほど待機させているが、あまり早く動かすと気づかれてしまうので、自宅待機させておる。うちにも騎士が2名ほどいるが丁度所用で出払っているのが残念だ」
話を聞くとぼくらの情報は前例があるのでかなり信用されていて万全の構えを取っていたので安心する。
「あの中にも弓士がいたけど、村の冒険者のワンドさんに真っ先に斬られているので、今は飛び道具を使う人間は一人もいない筈だよ。それと……鉄の鎧は胸当てくらいでほぼ革製のものを身につけている。鉄の鎧をつけていた人は重くて途中で捨てたみたい」
「ふむう、それも兵士の報告と一致する。実にトミーは慧眼だな。それも得意の推理かな」
「はい、説明するのが面倒だから言わないけど、推理です」
実際に説明すれと言われたらできないので、これからは一種の秘伝扱いにしようと思う。
翌日子爵の騎士・兵士・自警団が到着し、男爵の兵や自警団と一緒に彼らの来るのを待ち伏せしに行くことになった。
怪我人や死人が出たら保障にも出費がかかるので、弓や罠中心に攻撃することになった。
実際に彼らが待ち伏せに気づいた時には前後左右すっかり囲まれて、罠に追い込まれ、落とし穴や吊るし網、矢や長槍の犠牲になった。
彼らとしては村全滅の事実はもっと後になって知られる筈で油断しきっていたのだろう。
こちら側には一切怪我人や死者は出ておらず、賊側はほぼ壊滅状態だった。
重傷者も止めを刺して荷車に乗せて運んで来たので、僕は父さんとミリーにこっそり教えてやった。
つまり手を当てて確かめながら、この人間が村の誰を殺したのかと言う情報をだ。
ワンドさんを殺したのは三人いてミリーに教えると『師匠の仇』と思い切り死体を蹴飛ばしていた。
家族を殺した者はたった一人だった。
顔を合わせた途端にすぐ突き殺したので、殺される前の恐怖は殆ど味わう暇がなかったのが救いだった。
賊の方も性欲よりも食欲の状態で飢えていたので凌辱する暇がなかったのも救いだった。
不思議に父さんもミリーもこの死体には何もしなかった。
何故だけ分からない。
だから僕が代表して体をどついてやった。
24人の賊の死体には傭兵だけに人を殺すのに特化したスキルがたくさんあって、僕はそれを吸収しながら身震いした。
仲間内でも必殺技は秘密にしているらしく、奥の手はそれを出した時に相手は必ず死んでいなければならないのだ。
それが事前に分かってしまうと防がれたり対抗策の返し技を考えられたりするから命がけなのだ。
傭兵は躊躇わず殺すことに専念した殺人術を身につけている。
ある意味それは騎士以上にシビアかもしれない。
そして僕は彼らからコピーしたそれらのスキルを封印しておくことにした。
今ここでそれを口に出すことも憚れるような奥の手がたくさんあって、全く殺すことに手段を選ばないと言ったものが多い。
汚い、卑怯、狡い……そういうのがたくさんある。だから口に出すのも汚らわしい。
男爵は今回の討伐の褒章を僕ら親子にくれることになった。
「僕と父さんはポールタウンの町の外に農作するための土地がほしい。ウォルナッツ村にはもう誰もいないのでこっちに移住して来たいから。ミリーは子爵様の所で修業するので、僕は町の中で仕事を見つけて働き父さんには畑をやって貰おうと思う。あと2年して15才になったら文官になる為の王都の養成学校に入りたいのでそれまで街で働きたい。良いですか?」
「働くなら男爵邸で働いてみるか?」
「ありがとう。でも僕は貴族様の所で働くのは似合ってないっていうか。ごめんなさい」
「そうだな、気楽に町中で仕事を見つけるが良い。仕事の保証人には私がなってやるから必要な時は言うが良いぞ」
「ありがとう。でもまず自分で何とかやってみる。駄目な時は助けてもらう……もらいます」
「はっはっは、無理に言葉を使わなくて良いぞ」
実は貴族への敬語などは村長さんの言葉遣いのスキルをとっているのでできるんだが、あまり貴族に気に入られるのも嫌なのでわざとぶっきらぼうに喋っているのだ。
農作地に関しては、ちょうど街の外に年老いて離農した老夫婦がいたので、彼らが町中に移住してその跡地を住宅と共に受け継ぐことになった。ウォルナッツ村での自分の畑と同じくらいの広さで、父さんは気に入ったみたいだ。
「正直言って、前に進むとかなんとか立派なことを言ったが、荒れ地を一から耕してやる気力はなかったんだ。いやぁぁ、ラッキーだったぜ」
父さん、それは正直すぎるだろう。も少しかっこつけてよ。
今度の家は古いけれど住みやすい感じで僕も仕事を見つけたら、ここから通う積りだ。
自分の部屋も、それからミリーが休暇を取って戻って来た時の部屋も決めて喜んでいるとき、男爵家の使用人の人がやって来た。
「ブーン子爵様がいらしています。ご家族で来てくださるようお迎えに参りました」
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