秘密の打ち明け
今話で悪魔のスキル吸収が2回レベルアップします。
これはいったいどういうことなんだ?
ウォルナッツ村の家々はみんな黒焦げになって燃えてしまっている。
煙があちこちで燻っているから恐らく昨晩あたりのことなのだろう。
地面にもたくさんの人が倒れていた。
みんなほとんどが村人だが、見慣れない人間の死体もある。
そして僕たちの家族の母さんも弟や妹も剣のようなもので突き殺されていた。
父さんはすっかり打ちのめされて茫然としている。
ミリーは母さんのキャシーの遺体に縋りつき大泣きして、アミ―やラリーの遺体を撫でながら怒り狂って空に向かって怒鳴り散らした。けれども途中で急に大人しくなり、静かに涙を流し続けた。
僕はパニックになって何をしたら分からず泣き叫んでいたが、ある瞬間心の動揺が収まった。そして、まず最初になにがあったか探る為に村中を歩き回ってみた。
村人が全員死んでいた。
ワンドさんも全身傷だらけで死んでいた。
そのそばに、きっとワンドさんに反撃されて死んだと思われる見慣れない死体があった。
僕はその死体に触った。
それから村の食糧保存庫に行くとそのそばにも見慣れない死体があった。
その死体も触った。
食料庫の中はほぼ空っぽ状態だ。
それから村から離れた所に野営の跡があった。
そこで火を焚いて食事をした跡があって、そばにも傷を負った死体があった。
その死体も触って、何が起こったか全てわかった。
そして犯人たちがどこに行ったか予想がついた。
「教えてよニイニ。何が起きたか分かってるんでしょ?」
振り返るとミリーが立っていた。後ろには父が少し離れた所で俯いている。
「私は泣いたり怒ったりしたら、少し冷静になった。ニイニならきっと死体を触って何かが分かったと思うから、それが聞きたいんだ。父さんも同じ考えだ。泣いたって怒ったって何かが変わる訳じゃない。でもせめて何が起こったか知りたい。そしてニイニはもう分ってるんでしょ? 」
「ああ、分かってる」
「私はもう言ったよ、父さんに。前世の記憶があるってことも。父さんにはショックの連続だけど、さすが父さんだよ。ちゃんと受け止めてくれた。ニイニも正直に言って。もう今更隠し事はなしだよ。マジックポーチのときのこじつけの推理みたいな演技はいらないから」
すべてばれていた。
ミリーの心には別世界で生きた老人の心があるから誤魔化しがきかないのかもしれない。
「トミー、私も分かっていた。急にお前は賢くなった。お前も前世の記憶があるのか?
隠さずに言ってくれ。その上でこれからどう生きて行ったら良いか考えたいんだ。私もお前たちもこれから前に進まなければならないだろう。だから今どうなってるのか知りたい。このままじゃ、私は酒浸りの駄目な人生を送りそうだった。それを説得してくれたのはミリーだったよ」
僕は本当のことを打ち明けることにした。
前世が悪魔だってことだけは言えないが。
「分かったよ。正直に言うよ。僕にも前世があった。フルーストラという名前のなにかとっても危険な奴で死体を通して人の弱みや秘密が分かる能力を持った奴なんだ。だから詳しく知るのが怖いから積極的にすべての記憶を思い出さないようにしてるんだ。実際ほんの一部しか思い出せないしそれで良いと思ってる。そうしないと僕が前世のそいつに負けてしまいそうだから。 これで良い?」
「それでニイニはそいつの能力だけを利用しているんだね?」
「うん。だから今から分かったことを言うよ。森の向こうの山脈を超えて奴らはやって来たんだ。隣国のサテライト王国を拠点にした傭兵集団で『暁の兵団』という30人規模の小さなグループだ。なにか戦争があるらしく王宮で募集した傭兵の選出の際にもっと大きな傭兵団に負けて弾かれてしまった。
それで食い詰めてしまう前にと山脈を超えて森に入りそこから村に来た。
途中体力が尽きて3人死んでいる。ここに着いたときはほぼ餓死寸前で胃の中が空っぽの死骸が残ってる。
最初は三人くらいでこっそり夜中に忍び込み食料庫から盗みをする積りだったんだ。
ところが盗難防止の鳴子が鳴って村人が起きて一人は村人たちが殺した。
逃げた奴が本隊を連れて来て俄か強盗団になって村人を殺したんだ」
僕はそこで一度言葉を止めた。
でもミリーは父さんと顔を見合わせて頷き合うと言った。
「先を続けて……分かったことを全部言って」
「うん、村ではもう一人ワンドさんに抵抗されて死んでいる。その後証拠や目撃者を残さないため全員殺すことにしたんだ。女も子供も殺したのはそのためだ。彼らには余裕がなかった。とにかく自分たちの犯罪がばれるのを恐れた。それで村の家々に火をつけた。
その後野営場に戻って盗んだ食料で食事したけれど、ここでも傷を受けて力尽きて一人死んでいる。彼らは追い込まれていて仲間の死体を埋める余裕もなかった。
その後相談した。とりあえず当分食べる食料は手に入れたので、街道から外れて見つからないように移動しようと。
村一つを全滅してしまったのだから見つかれば全員処刑される。大きな町に行って身を隠そうと移動している。これで全部だ。急いで領主様に知らせないと逃げられてしまう。生き残った賊は24人だ。領主様のポールタウンまでは馬車で二日だけど徒歩ならその倍以上かかる。その後ブーン子爵領を通って王都を目指すらしいから、逃走コースは分かっている」
ミリーは言った。
「食料が尽きたらまた盗賊をするかもしれない。村長さんのところにある鳩小屋は家から離れてたので燃え残ってる。伝書鳩を飛ばせば間に合うと思う。」
「分かった。じゃあ、手紙を書いて鳩を飛ばすのは私がやろう。ミリーとトミーには頼みがある。全員は無理でも家族だけでも埋葬したい。だから三人でそれをやろう。だがその前にトミーは残った村人の死体からできるだけ情報を集めてくれ。特に誰が誰を殺したのか、それだけでも確かめて欲しい。ミリーは燃え残った遺品がないか見てまわってくれないか? 特に母さんやラリーやアミ―の物で残っているものがないか「「わかった」」」
それから僕たちの行動は早かった。前世の記憶持ちが二人もいるので大人が三人行動しているようなものだ。
僕は只管死体を触って回った。
家族は後回しにして、村人を触って回った。
13人目を触ったときに例の脳内アナウンスが流れた。
『悪魔のスキル吸収L3になりました。死体からスキルもコピーできます』
それから僕はウォルナッツ村の村人の人生の記憶を集めると同時に細かな生活のスキルも集め始めた。
そして最初に吸収した者たちも傭兵も含めてスキルを集めた。食料庫で死んでいた賊は『斥候』のスキルも持っていた。一方村人は農業スキルだがなんと細かいものもたくさんあった。『種まき』『芽だし』『土づくり』『たい肥作り』『畝切り』『害虫対策』『病気予防』『芯止め』『剪定』のほか得意な作物の育て方のコツみたいなスキルもあった。
そういえば農家によって出来高が多いとこと少ない所があったし、カボチャならガルスさんだけど、葉菜ならルーテルさんだとか得意なことが違っていてそれぞれ秘伝?のように秘密にしていた。
それはおかみさんたちの料理も同じで同じ料理スキルでも作るものによって『アップルパイ』『シチュー』『ピクルス』などの得意な物のスキルがあるようだ。
他にも『裁縫』『刺繍』『機織り』『細工』などなどの細かいスキルがたくさんある。
マルスさんの『ハンター』としてのスキルも貴重だし、その中身の細かいスキルも細々とあるのだ。
だから『ハンター』のスキル一つとってもハンターによって内容が違う。
狩るのは鳥なのか猪なのか鹿なのかによっても微妙にスキルは違うのだ。
その中には『罠』のスキルもある。
要するに僕はウォルナッツ村の文化と産業技術を圧縮したものを脳内に納めたと言える。
熟練度は若干違うけれど、それでも本家の半分か三分の一くらいの精度は身につけていると同じことになる。
まさに悪魔の反則的な能力は侮れない。
そして僕は最後に自分の家族を吸収したときにレベルアップしたのだ。
『悪魔のスキル吸収がL4になりました。死体の肉体を完全な形で再現して本人になりすますことができます』
これは急にジャンプしたような変身スキルが身に付いてしまったようだ。
さらに反則的なスキルになりました。この小説を読んで面白いと思ったり、続きを読んでみたいと思った時はブクマをお願いします。また、とっても良いと思った時だけ高評価をください。気に入らない時はスルーでお願いします。そう言う時は正直に低評価しないでください。豆腐メンタルなものですからよろしくお願いします。褒めて伸ばしてください。m(--)m