時代の革命児を追え〜マンドラゴラ農家満堂豪太〜
冒頭で人が破裂しますのでご注意を。
「はっ……はっ……」
頭が痛い。耳が上手く聞こえない。
何とか動く指で、リュウクは必死で土を掘っていた。
「ぐ、ぎぃ……く、そ……」
慎重に爪で土を削り、次こそは上手く行くように。
「あ……っ」
けれどそれは叶わず、三度目の失敗をし、
『 』
「がぁあああっ!?」
ついに彼はパンっと弾けてしまった。
* * * * *
日本で唯一のマンドラゴラ農家、満堂豪太の朝は早い。
「さ、今日も気張ってこうか」
野鳥の鳴く声をBGMにまだ薄暗い外へと向かう。
朝早いのには理由があった。
「おっ、三本か。なかなか優秀だったな」
豪太は、地面に落ちたスイカのように砕けた頭の周りに落ちている奇妙な大根のような野菜を数え、感心した声を出す。
「んー、最近は質が悪いな……まあ、死刑になる奴も少ないからな」
マンドラゴラの品質は撒かれた人間の血の罪科による。罪が重ければ重いほど、薬効が強くなるのだ。
「その分は量で補うしかないってね……よっ」
豪太はぼやきながら、潰れた頭をゴミ袋へ詰め、首の無くなった体を引きずって『処理機』へと向かう。
そこへ全て詰め込んでスイッチを押せば、数日の内にマンドラゴラ肥料が出来上がる。
少ない罪科を余す所なく使う為に、髪やプラスチックも肥料へ変えられる特注品だ。罪人の身に付けた物にも罪科が宿ると豪太が発見しなければ、マンドラゴラ業はこの世から無くなっていただろう。
「ふぅ……」
一番大変な作業を終わらせると空はすっかり明るくなっていた。
肥料の処理さえ終わってしまえば、後は普通の野菜農家と同じように過ごせばいい。
難しいのは肥料の調達と収穫だ。それを簡単に行うシステムを作り上げた豪太は、令和を代表するマンドラゴラ農家と言えるだろう。
「え、どうしてこのシステムを作ったかって? んー……昔ながらのマンドラゴラ農業って収穫に犬を使うじゃない」
豪太は農作業をしながら、我々の質問に答えてくれた。
「でも最近、動物愛護団体がうるさいからそうそう使えなくなったんだよね。ほら、狂犬病を撲滅の為に野良犬もいなくなったしさ」
「それに、犬は可愛いからね。この仕事じゃなけりゃ飼いたいよ」と、豪太はテレビカメラへ照れた顔を向ける。
「いやぁ、今のネットって便利だね。こんな人里離れた所にも配達してくれるし、『農家から大根を盗むだけで50万、前金払いあり』なんて怪しげなバイトを受けてくれるバk……ごめんごめん、勇気ある人も釣れるし」
豪太はかがめていた腰を伸ばし、とんとんと叩く。「腰痛ばっかりは職業病でね、マンドラゴラでも治りゃしない」と歯を見せて笑った。
「え、ああ……肥料の話も。忘れてた」
土に汚れた手で頬を掻きながら、豪太はインタビューに答える。
「もう元刑場の罪科は吸い取り尽くしてしまってね、かと言って今は人権保護? とかで、死刑囚の死体もくれないし、融通してもらおうにも畑から死亡届の出されてない人骨が出ると、お縄だから」
罪科のない者が肥料になった場合は? その問いに、豪太は軽く吹き出した。
「罪がない? それはないよ。盗みにきた時点で窃盗はつくし」
それもそうか、と我々は納得した。家へと向かいながら、豪太のしゃきしゃきとした足取りを見て、我々は質問する。
「え? 若さの秘訣? そりゃあ、決まってるよぉ」
そう言って、土が入り込んで黒くなった爪もそのままに、奇妙な大根のような収穫したてのマンドラゴラをカメラへと向ける。
「俺が健康で長生きできるのも、このマンドラゴラのお陰ってわけさ」
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