かわりものとなまけもの
メイリーの話によると、助けられた子供が海に落ちたのは海パン魔法使いのショーの最中だったらしい。
ドラゴンが波止場にやってきたのも、その子を狙ってのことだろう。
しかし中断されていたショーはメイリーの指示によって事故防止対策が行われた後に再開された。
俺はその事故防止対策とやらを適当に手伝ったあと、波止場に侵入したドラゴンから回収したティアラを持ち主に届けるため、数時間前に遭遇した露出女の家を訪ねた。
「おーい、居るー?」
海岸沿いの一本道の真ん中から、目の前にある露出女の家に向かって声をかける。
反応を待つこと数秒——ゆっくりと開いた窓から奴の顔が覗く。
「あったの?」
「これ?」
持っていたティアラを高く掲げてみせると、露出女はコクッと頷いた。
「それ。入って、鍵開いてるから」
「え——いやお構いなく——」
俺が断るよりも先に、奴の顔が窓から引っ込んだ。
ティアラを渡したらさっさと帰るつもりだったのに……誰かに任せればよかった。
「めんどくさー……」
そう呟いたあと、俺は一本道から外れ重い足取りで露出女の家に入った。
「うわ……ゴミ屋敷か?」
開けっぱなしの木箱から溢れた物が床一面に敷き詰められていて、ほとんど足の踏み場がない。
「適当に座って」
座れる場所なんてありません。
「これ借りていい?」
俺はガラクタの山から覗いていた椅子を引っ張り出しながら露出女の尻に尋ねた。
「うん」
リビングの隅っこに居る彼女はなぜか大きめのチェストに頭を突っ込み、ガタガタと音を立てながら何かを探している。
「あれ……? たしかここに仕舞ったはず…………あれ? ない……」
これが本当に預言者なのだろうか。
「あー……、また何か無くしたの?」
「来客用のニセポ」
「にせぽ?」
「偽物のポーション。魔法的な治癒や強化の効果が得られるほとんど味のしないポーションと違って、ニセポは魔法的な効果が全くないただの美味しいドリンク」
「……それが何で偽物のポーション?」
「冒険者の必需品のポーションにそっくりな瓶だから。彼らの間では、馴染みのある瓶で安く美味しいものが飲めるから最高とか、戦闘中に喉が渇いたときコッソリ飲めるから便利とか、いろいろ言われてる」
「戦闘中に一杯やるなよ……ていうか、何も出さなくていいよ?」
「あった」
チェストに突っ込んでいた頭を強引に抜いた露出女は、鳥の巣のようになった髪を顔面に被ったまま俺の方に迫ってくる。
「こわ」
「はいこれ、ハチミツ味のニセポとゾンビクッキー」
「お~」
俺は散乱するガラクタの隙間に椅子の脚を慎重に差し込んでそこに座り、露出女からニセポとクッキーの入った小さな箱を受け取る。
「んじゃこれ、渡しとく」
腕に通していたティアラを差し出すと、彼女は無表情のままそれを手に取った。
「見つけてくれてありがと」
「偶然だけどねー」
俺はそう言いながらニセポの瓶を開け、恐る恐る中身の匂いを確認する。
この露出女ならチェストの中で腐らせていても不思議はない。
「あ、大丈夫そう」
「言い忘れてた——わたしはパルテ」
「預言者の?」
「そうも呼ばれてる」
何かの間違いかと思ってたけど、本人らしい。
「んじゃ、いただきます」
パルテに瓶を見せハチミツ味のニセポを口にした瞬間、俺は解った——
天界のどんな飲み物より美味いと。
「あ~……これが地上か……!」
飴に続き飲み物まで天界を超えてくるとは……。
「そんなにおいしい?」
椅子からヌルヌルと滑り落ちて行く俺にパルテが首を傾げながら尋ねてくる。
「うん……正直地上のものがこんなにレベル高いとは思ってなかった……」
「天界の飲み物ってそんなにおいしくないの?」
「飲み物に限らず天界のものはどれも普通にウマいけど……こっちの味を知ったら、ねぇ~……」
そしてその後に食べたクッキーが美味しかったことは言うまでもない。
ニセポを片手にクッキーをひたすら食べていると、本が積まれたソファーの端に座ったパルテが俺に問う。
「ティアラを見つけてくれたお礼、何をしたらいい?」
「あぇ? もう貰ったけど」
ニセポとクッキーを見せながら答えると、パルテはゆっくりと首を振った。
「それは別。もっとない?」
「ん~…………収穫祭で売ってる飴とこのニセポ、大量に用意できたりしない?」
ちょっと欲張りか。
「多分できるけど、手元にお金がないからそっちが用意できるまで待てる?」
「いや、そこまでしなくていいかな……」
こいつ危ない匂いがする。
「じゃぁ他には?」
「ん~……すぐには思いつかないなー。また何か思いついたら頼もうかな」
「わかった。その時はまたここに来て」
「はいよ。それじゃぁ俺はこの辺で————」
そう言ってニセポを片手に椅子から立ち上がろうとしたその時、突然床からバキッと音が鳴り、俺は真下に開いた大きな穴にガラクタもろとも真っ逆さまに落下した。
「うぉぉあああ——!?」
そして為す術もなく、俺は大量のガラクタの下敷きとなった。
やっとの思いで山となったガラクタの頂上から顔を覗けると、ちょうどそこに落ちていた光輪が頭の上に乗る。
「はぁ、死ぬかと思った……!」
「……大丈夫?」
「これのどこが大丈夫に見える?」
ガラクタに埋められて顔だけ出してる天使なんてどこの世界を探して俺しかいないだろう。
「ごめん。ちょっと前にも床が抜けて直したばかりなんだけど……安く済ませたのが悪かったのかな」
「あのー……このガラクタのせいだとは思わない?」
「ガラクタじゃない。全部大事な貰いもの」
こいつ……そんなものを床に敷き詰めるなよ……。
次回 『まるでかみのおつげ』