なかよくしたいから
えーっと、勢いで結界から飛び出したものの……神気ムンムンのあのクラウンは誰?
様子からしてこっちの味方だろうけど、とりあえず引っ込んでもらおう。
「あのー、そこのお兄さん、どっから湧いてきたのかしらないけどちょっと代わってくれる? 俺は今からそのしょんぼり天使と拳で語り合わないといけないから」
すると彼はほんの少し俺と目を合わせたあと、見下ろしたエトラの剣から手を放した。
「また後で来る。それまでに終わらせておけ」
「……分かった」
彼はエトラの返事を聞くと、俺の後ろで眠ったまま結界に包まれていたメイリーとパルテ、ケダマと共にどこかへ転移していった。
「エ~ト~ラーーーー!!!」
まずは挨拶代わりに真正面から全力で円刀を投げる。
大きく前方にジャンプし空中から更に二つの円刀を同時に投げる。
けどこの程度の攻撃がエトラに通用しないことなんて百も承知だ。
二つの円刀を投げた直後、エトラは俺が最初に投げた円刀を剣で防ぎ頭上へと弾いた。
今だ!!
「俺に——」
目の前に生成した円刀の穴を潜り、転移魔法で繋いだエトラの頭上の円刀から飛び出す。
「あやまれぇぇぇ!!」
飛び出したばかりの円刀を握りエトラに振り下ろす。
しかし彼女は振り向きざまに翼で強風を起こして俺を遠ざける。
「ぐぅぅ——何が守護獣だ、何がクラウンだ」
風で飛ばされた直後、宙で逆さまになっていた俺は持っていた円刀を放り投げエトラの傍に転がす。
「こんな自分の笑顔も守れない天使に——負けてたまるかぁぁぁあああ!!!」
「————!?」
エトラの傍に転がった円刀が巨大化し、守護獣の止まり木全体が収まるほど大きな魔法陣と化す。
陣が紫色の光を放ち超重力魔法が発動した。
この魔法は陣の上にいる俺以外のもの全てを押し潰す。
さすがにクラウンがぺたんこになることはないだろうけど、足止めとしては十分な効果が期待できる。
「おぉらぁぁあ!!」
地面に跪いているエトラの背後から円刀で斬りかかる。
「私は——自分の意思でここにいるの!」
防がれた。
かなり動きは鈍くなってるけど、それでも対応できるのか。
「さっきは誰かさんの命令でここにいるって言ってただろうが! どっちなんだよ!」
俺とエトラは互いに武器をぶつけ合いながら口論を始めた。
「どっちも同じ! 神に反発するような思考を持つ天使がいると思う!?」
「目の前にいるだろうが!! 俺は神に尽くすより自由な生活の方が楽しいからな!」
「そんなの理解できない……!」
「嘘だね、ティータイムのとき楽しそうだった! それに比べてエトラの今の顔、全然楽しそうじゃないぞ!」
「それはクロンがここから出て行ってくれないから——」
「あー分かった、だったら望み通り出て行ってやるよ! その代わり————」
俺は右手の円刀を魔法で強化し全力でエトラに振るう。
すると彼女は例のごとくカウンターを狙って俺の攻撃を受け流した。
今だ————
カウンターに入ったエトラの右腕を中心に円刀を生成し、剣を振るう彼女の動きを強引に止める。
「ふぇっ……!?」
「エトラもこの楽園とおさらばだぁぁあああ!!!!」
そして——大声と共に振り上げた円刀は、エトラの交差する二重の光輪を破壊した。
「っ——はぁっ……ぅ……」
光輪を破壊された影響で突然全身から力が抜けたエトラは空を見上げたまま左右によろめき、最終的に右手の剣を地面に突き刺してその場に座り込んだ。
「これで、エトラも今日からド底辺の仲間入りだ。異論は認めないぞ?」
「……クロンは、この世界を楽園って言ってたけど……私にとっては鳥かごみたいな場所。ブロンガガク様にこの世界を託されたばかりの頃は特に深く考えることなんて無かった。けど、神気が減るにつれて段々とここが窮屈に感じるようになったの。天界に帰りたい——地上の景色を眺めたい——誰かの隣に居たい…………でもここには私のことを理解してくれる同族なんていない……本当は何度もここから逃げ出してしまいたいと思った……。とっくに神に反発するような思考を持つようになってたのに、この光輪のせいで鳥かごの外に飛び出す勇気だけはどうしても出なかった……」
エトラは地面に刺さった目の前の剣から手を離し涙を流す。
「あれから八千年…………やっと……やっと壊してもらえた……!」
「クラウンの光輪なんて壊す方も結構勇気要るんだからな? さすがにメイリーも怒るだろうな~……」
「ありがとうクロン……私の背中を押してくれて、本当にありがとう……!」
「はぁ……どういたしまして」
「大したお礼にはならないかもしれないけど……天界に戻ったらクロンにここの管理を任せられないかアルト様に頼んでみる……それが叶わなかったら——」
「気持ちは嬉しいけど、いいよそんなことしなくて」
「どうして?」
「エトラを楽園から引っ張り出すために俺はここを諦めたんだぞ? 条件は守らないと……その、ちゃんと仲直りできないだろ……?」
するとエトラは涙も拭かずふらふらとその場から立ち上がり、倒れるようにして抱き着いた俺をその翼で包み込んだ。
「ぉっと——エトラ……?」
「ぅぅ……ありがとう、クロン……」
「お、おぅ」
「ありがとう……!」
「うん……それは良いんだけど、あの、羽が顔に——」
「ありがとう……!」
「聞いてるエトラ?」
「ありがとう……!」
「……だめだこれ」
俺はその後メイリーたちが合流するまでしばらく、全くと言っていいほど身動きが取れなかった————
次回 『きょうもここにいる』




