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天界ワースト  作者: 岩井碧月
隠れ家探しは預言者パルテ
3/31

なにかがおかしい

 買い物から戻ると、散らかっていたはずの俺の部屋は見違えるほど綺麗に整理整頓されていた。


「お~……俺のところまでやってくれたんだ」


「勝手にいろいろ触っちゃってすみません、ついでだったので」


「さすがメイリー、あんがとー」

 俺はショップで買ったものが詰め込まれた袋の中から箱詰めのクッキーを取り出して彼女に差し出す。

「……私にですか?」

「うん、あとこれも」

 そう言って俺はクッキーを受け取ったメイリーに追加で例の()()を二本差し出した。

「天界サイダー? たしか人気な飲み物ですよね」

「そうそう、それの期間限定の砂漠スライム味」

「砂漠……おいしいんですか……?」


 その反応も無理はない。


「さぁ……口に合わなかったらゲートにでも捨てといて」


「そんなことしません……! 地上にサイダーの雨を降らせる気ですか……!」

 メイリーは慣れない手つきで瓶のフタを開けると、わりと躊躇なくグビッといった。


「あ、思ったよりいけますね」


「あぇ?」


「クロンさんも飲んでみませんか?」

 そう言ってメイリーは傍のテーブルに置いていたもう一本のサイダーを俺に差し出した。

「いや……俺はいいかなー……」

 俺の直感がメイリーの舌を信用してはいけないと言っている。


「そうですか……ではこのまま私がいただいちゃいますね」


 よくあんな普通の顔して飲めるな……部屋に充満し始めた鼻を突くこの臭いだけでも割とキツい。


 そんなことを思っていると、廊下から一枚のカードが俺のこめかみを目掛けて勢いよく飛んできた。


 いつものようにカードをキャッチし、そこに書かれた内容を確認する。



『パトリア島が繫忙期を迎えました。現地に向かい人手不足の店舗を選定、補佐しなさい』



 ダルそうな任務きたー…………ていうか次の任務早くない?


 天界に戻ってまだ半日も経ってないんだけど。

 買い物しただけで全くゴロゴロできてないんだけど。


「この任務、もしかしてメイリー個人宛てだったりしない?」

 僅かな希望に賭け、任務カードを覗いてきたメイリーに尋ねる。

「どちらかと言えばカードを受け取ったクロン宛てかと思いますけど」


 ちくしょうめ。


「さすがにちょっと休んでから行こうかなー……」

「何を言ってるんですか、早くお店のお手伝いに行きますよ」

「メイリーだけ先に——」

「ダメです、ほら早く部屋から出てください!」


 俺の手から買い物袋をもぎ取りソファーの上に置いたメイリーは脱力する俺を無理やり廊下へと押し出す。


「あ~もぉ~……! 天使にだって休息は必要だぁー!!!」



 ————結局、パトリア島にやってきた。


「ぁ~……帰りたい……」


 青い海、青い空、眩い太陽に照らされる小さなリゾート地——————今じゃない……!


「さすが、収穫祭の時期は人が沢山いますね」

「収穫祭? これ今お祭り中?」


 屋台が立ち並ぶ港は人がごった返し、山の斜面へと続く商店街もかなり賑わいを見せている。


「今は水生の小型ドラゴンが活発化する時期で、餌を求めてこの海にやってきています。同時に、それらのドラゴンから身を守るためアーマーフィッシュの鱗が最も厚く硬くなっている時期でもあります。アーマーフィッシュはこの辺りの海でしか獲れないため、昔からこの時期になると世界各地の商人たちがその鱗を仕入れるためこのパトリア島を訪れるんです。それが次第に、島を挙げての大きなお祭りへと発展していったとか」


「なるほど……ていうか詳しくない?」

「自分の担当する世界なんですから当然です」


 メイリーのやつ、元は別の神に仕えてたって噂だよな。


 仕える神が違えば担当する世界が違い、必然的に天界ではその世界と繋がる巨塔に住むことになる。


 まさか塔を移る前に勉強してきたのか……?

 いくらなんでも真面目過ぎるけど、まぁメイリーならあり得るか。


 勝手に自分の中で納得していたその時、俺の背後に広がる海でアーマーフィッシュらしき一匹の巨大な魚が水中から飛び出した。


 同時に港からは歓声が沸き起こり、傍にいたメイリーも水しぶきと共に宙を舞うアーマーフィッシュに笑顔で拍手を送る。


「大物ですね、標準サイズの三倍くらいでしょうか」


 …………でっか。


 12メートルくらいか。

 離れ小島で待機していた者たちが波打ち際に叩きつけられたアーマーフィッシュに駆け寄っていく。

 すると、海の真ん中で顔を覗けた男がこちらに向かって杖を掲げてみせ、近くに停まっているボードに向かって泳ぎ始める。


 マッチョが海パン一丁で杖を片手に魔法を操り巨大魚を獲る——この島の狩人は独特だ。


「さて、私たちも仕事にかかりましょう」

「はぁ……日が暮れるまでには帰りたいなー……」

「それは厳しいですね」

「えー……」


「だって収穫祭は10日間ありますから」


「ながっ……島の人たちも大変そ——————は?」


「なので最終日まで私たちはこの島に泊まり込みでお手伝いをすることになると思いますよ」


「泊まり込み!? 10日も!?」


「はい、それが任務なので」


 いやいやいやいやまてまてまてまて……!

 そんな任務今まで無かった……!


 どうする、帰るか?


 どうする、どうする俺……!!

次回 『なさけないとはいわせない』

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