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天界ワースト  作者: 岩井碧月
なんとか牧場ザコ天使失踪事件
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りゅうのほうこう

 エトラの神格魔法によって幻を見せられ強制的に意識を奪われたクロンたち。


 空色に染まった地面に転がる彼らを、エトラは独り無言で見下ろしていた。


「………………」


 彼女はほんの少しためらいながらも剣先をクロンの頭部へと突きつける。


「……ごめんね…………」


 そして——彼に突きつけた剣先が光を発した次の瞬間、突如浮島から光の柱が立ち上がった。


「——っ!? まさか……!!」


 遥か上空、光の柱の頂点が空間に巨大な大穴を開け、内部に見える雲海から黄金の光輪を持つ純白の巨竜が飛び出す。


「クラウン……!」


 巨竜は咆哮を響かせ大樹を目指して空を翔ける。


 エトラはクロンの記憶を消そうと急いで剣先を光らせるが、直後にクロンたちはそれぞれ結界に包まれて彼女の剣が弾かれた。


「しまっ——」


 太陽に照らされた大地が巨竜の影で覆われる。

 咆哮と共に尻尾が振り下ろされ、大地が割れて空色の葉が舞い上がった。


 尻尾を回避したエトラが上を見上げると、空を覆った巨竜は既にそこに居なかった。



「——どうした、俺ならここに居るぞ」



 エトラの前方、舞い落ちる花びらの向こう側——二対の翼を持つその天使は、結界に包まれたクロンたちを背に佇んでいた。


 白髪に爪のような飾りのついた黄金の光輪。

 白銀の衣装を身に纏い、腕組みをしながら静かな表情でエトラを見据える。


「どうやって地上からこっちのゲートの位置を正確に掴んだの? 起動に必要な物も全部壊してたのに 」


「二度も天使を攫っておいて転移先が特定されないわけがないだろ。装置にできることがクラウンにできない道理もない」


「……ごめん、今のは忘れて。あなたの名前は?」


「アーファルグだ。それで、投降する気はあるか——守護天使アリオール」


「…………どこまで知ってるの?」


「ここが八千年前に滅亡寸前の地上世界ハウラを元に創り変えられた場所だということも、お前が()()ブロンガガクの命令でこの世界を守護しているということもアルト様から聞いてるぞ」


「だったら私が投降する気なんてな——」


「あぁそれと、ブロンガガク()が魔に堕ちたのは、天界に見放されたハウラを『大魔王クランフォール』に救ってもらうためだったってこともな」


「っ……!」


「アルト様は当時、ブロンガガク様からハウラの滅亡を止めたいと直接相談を受けたことがあるそうだ。安心しろ、お前からこの世界を奪い取るような真似はしない」


「……信用できない」


「まぁ、八千年もこんな場所にこもってれば無理もないだろうな」


 アーファルグはそう言って腕組みを解き、静かに一歩前へと踏み出す。


 そして次の瞬間——エトラの()()からこう告げる。


「だったら力ずくでアルト様の御前に出てもらうぞ」


 驚いたエトラは咄嗟に複数の分身体でアーファルグを囲み、それらを操って振り向きざまに全方向から剣撃を繰り出す。


「はっ!」


 するとアーファルグは本体のエトラの剣を片手で受け止め、自身の周囲に小さな衝撃波を放って全ての分身体を霧散させた。


「言い忘れてたな。お前が戦闘向きの天使じゃないってことも、アルト様から聞いてる」


「だったらなに」


「……そうだな、諦めろ」


「馬鹿にしないで」


 刃を握るアーファルグの手を振り払い、自身を中心に色鮮やかな領域を何重にも重ねて再び分身体と共に攻撃を仕掛けるエトラ。


「鈍化、幻惑、催眠、魔法阻害、それにマナの吸収……なるほど、これだけの力があれば単純な戦闘能力が低くても大抵の相手は勝手に地面に転がるだろうな。だが——」


 アーファルグの握った拳が光のオーラを纏う。


「俺を止めるには足りないぞ」


 彼はそう言って本体のエトラが振り下ろした剣に拳をぶつけ、光の波動で彼女を両脇の分身体もろとも吹き飛ばした。


「うぐっ!?」


 必死に勢いを殺し空中に留まったエトラの目の前にアーファルグが迫る。


「カウンターはどうした、得意なんだろ」


 間髪入れずに振るわれたアーファルグの拳をエトラは咄嗟に翼で受け止め次のカウンターの強化に成功する。

 しかし彼女はまたしても攻撃の重さに負け地上に叩き落とされてしまった。


 空中で体勢を整え両足で着地したエトラにアーファルグの更なる追撃が迫る。


「それなりに手加減してるつもりなんだが」


「んっ!!」


 三発目にしてアーファルグの拳を受け流すことに成功したエトラは、生成した分身体と共に彼の両側面から渾身のカウンターを繰り出す。


「はぁ!」


 するとアーファルグは()()()()()()()()()分身体を翼で両断し、分身体を装っていたエトラのカウンターを正面から受け止めた。


「そ、そんな……!?」


 同じクラウンであるにも関わらず自身と圧倒的な力の差があることに驚いたエトラは、半透明になっていた体が元に戻り段々と剣を握る力が抜けていく。


「今のが全力なら諦めろ。ひとまず天界に来い」


「わ、私は……」



「ちょっと待ったぁーーーー!!!」



 意識を失っていたクロンが突然目を覚まし、結界の中から飛び出して円刀を担ぐ。


「クロン——も、もう起きたの……!?」


「だぁれが眠らされたまま天界に行かせると思う? どうしても行きたいなら、もう一回俺を倒してみろ!」

次回 『なかよくしたいから』

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