ゆずれないもの
俺たちは————いや俺は、立ち向かわなければならない。
天使の力を取り戻した途端俺を追い出しにかかり始めたエトラに!
「ほ、ほらぁ……! かか、かかってこいよぉ……!」
「言われなくても」
「ひぃ————」
エトラがこちらに剣を向けた次の瞬間、突然意識が遠退き始めた。
「え……なんで…………」
「クロンの力はもう知ってる、使わせないよ」
もしかして空の実の効果って、元はエトラの能力だったのか……!?
「クロンさん……!」
遠くからメイリーの呼び声が聞こえる。
「……こわ……して……」
————また気絶してしまった。
「閃光!」
光のような速さでエトラの背後を取り剣を振るうメイリー。
しかしエトラは彼女の渾身の一撃をその大きな翼で容易く受け止める。
「硬っ!?」
驚いたのも束の間、翼の陰から繰り出されたエトラの剣撃にメイリーは慌てて身を翻す。
「っ——はぁ!」
メイリーの刃を受け止めたエトラの剣が眩い光を放つ。
そしてエトラが剣を下ろすと、メイリーの剣が後を追うかのように突然引っ張られ彼女自身も体勢を崩す。
「——ふぇっ!?」
その直後、エトラは眩い光を放つ剣で強烈なカウンターを繰り出し地面までも抉った。
「きゃぁぁ!!」
カウンターが繰り出される直前咄嗟に盾を召喚してエトラの剣を防ごうとしたメイリーだったが、その威力に負けて盾を壊された彼女は派手に転倒してしまった。
「うっ……」
途端に攻撃をやめ転倒したメイリーを見つめるエトラ。
「どう? 全部忘れて帰る気になった?」
「私が折れたところで……クロンさんの説得がまだですよ」
そう答えたメイリーは澄ました顔で立ち上がり、スカートに付いた汚れを払いながら尋ねる。
「まさか、餌付けまでしておいて寝ているクロンさんから記憶を奪うつもりですか?」
「抵抗したのはそっちでしょ。私は話し合いで解決するつもりだったのに」
「話し合いなら最初に私たちを招いた時にするべきだったと思いますが」
「何度も言わせないで。私には私の事情が……あるの」
そう言ってエトラが剣を振りかざした直後、彼女と同じ姿をした半透明の青い影がメイリーの目の前に現れた。
「分身体……!?」
メイリーが慌てて剣撃を防ぐとその影は忽然と姿を消した。
彼女は戸惑いつつも周囲を警戒しながらエトラに目を向ける。
そして一呼吸置いたエトラがその場で再び剣を振るった瞬間、メイリーの背後からまたしても分身体が現れた。
咄嗟に後ろを振り返り召喚した盾で分身体の攻撃を防ぐメイリー。
「っ——連動してる……!」
その後も分身体によるエトラの遠隔攻撃にメイリーは翻弄され続ける。
「本人から目を離したら次の攻撃が読めない——だからといって分身体をまともに相手すると次の攻撃に対応できない——もう近づくしか……!」
メイリーが影の攻撃を防ぎ、エトラが更なる剣を振るう。
「閃光!!」
分身体の攻撃を回避し一気にエトラとの距離を詰めるメイリー。
だがエトラは流れるような剣捌きでメイリーの攻撃に反撃を行う。
「またカウンター……!」
盾では防げないと分かっていたメイリーは冷静にカウンターを避け距離を取る。
しかしエトラの間合いから出たにも関わらず、彼女は剣を振るう動きを止めようとしない。
「来る——」
メイリーが自分の剣に目をやると、その刃には自分の後ろに現れた分身体の姿が反射していた。
「転光!!」
その瞬間、倒れていたクロンとメイリーの位置が入れ替わった。
「——っ!?」
直後にクロンの髪の毛の中から飛び出したケダマが巨大化し、彼の首元に噛みついて胴体を持ち上げる。
エトラは咄嗟に剣を止めるが彼女の分身体の動きは止まらず、その剣先はクロンの光輪を切断した。
「ナイス二人とも——————神格化」
エトラの頭上へと転移し円刀を振り下ろす。
しかし彼女はこちらを見上げもせず俺の攻撃を受け流しカウンターを仕掛けてきた。
「おっと……!」
円刀を盾代わりにしてカウンターを防ぐことはできたものの、相手はクラウン。
さすがに一撃が重い。
「俺が勝ったらあのツリーハウス貰っていい?」
「力を解放したくらいで調子に乗らないで」
「それはエトラも——同じだろっ」
距離を取って複数の円刀を生成し、それらを一気にエトラへと飛ばす。
するとエトラは軽く剣を振るい、俺の飛ばした円刀と同じ数の浮遊する分身体を生み出し全ての円刀を防いでみせた。
「うわズルッ! だったら——」
空高く投げた円刀で結界を展開し、内部に無数の円刀を生成して指を鳴らす。
「これだ!」
結界内部で飛び交う円刀がエトラを襲い始めた。
エトラは接近戦だと得意のカウンターを狙ってくる————だからこうして距離を取って戦えば押されることはないだろう。
クラウン相手に馬鹿正直な戦い方はしないぞ俺は。
その場に屈み頑丈な翼で体を覆って円刀の攻撃から身を守っている様子のエトラ。
すると彼女は突然翼を大きく開いて立ち上がり、ひとつの円刀を剣で弾き返した。
そして彼女の剣が光を放ち————展開していた結界が紙切れのように突き破られた。
「カウンター!?」
慌てて円刀を構え、目の前まで迫ったエトラの剣撃を防ぐ。
しかし先程とは比にならない威力のカウンターに俺の円刀は耐え切れず、鈍い音を立てて砕けてしまった。
「へぇっ!?」
「私と距離をとっても不利になるだけよ」
翼で守りに徹してたのはカウンターを強化するためか!
俺とエトラが熾烈な攻防を繰り広げる中、メイリーを庇って気絶していたパルテがようやく目を覚ました。
「パルテ……! 大丈夫ですか?」
目を覚ました彼女に気付き急いで駆け寄るメイリー。
「うん、問題ない」
「すみません、私のせいで」
「気にしなくていい。それよりクロンは」
「互角——いえ、少し押されています……」
「加勢する?」
戦うクロンを心配そうに見つめるケダマを撫でながらパルテは問う。
「悔しいですが私たちでは足手まといになるだけ……今は我慢です。それに私はマナを温存しておかないと、エトラさんがあれを使ったら————」
「クロン、本当に私に勝てると思ってるの?」
「思ってるね! 現にそこそこ良い勝負してるだろー?」
「そっか……やっぱりクロンは知らないんだね。クラウンとそうじゃない天使の明確な力の差を」
「はぁ~? 今さら脅したって無駄だぞぉ?」
「見せてあげる、クラウンの本当の力を……ううん、神の力の一端を————」
剣を掲げて浮遊を始めたエトラの周囲を光の粒子が漂う。
「あれは——クロンさん離れてください!! 早く私の後ろに!!!」
「ぇ……なに? やばいやつ?」
「いいから早く!!!」
「お、おぅ……!」
戸惑いつつもその場から走り出し言われるがままメイリーの後ろに隠れると、彼女は剣を納めて両手で大盾を構えた。
「聖域圧縮——結光!!」
メイリーの展開していた巨大な結界が直径三メートルほどまで小さくなり、更にその内部に俺たちがすっぽり収まるほど狭い結界が展開された。
エトラの穏やかな声が楽園全体に響き渡る。
「神格魔法————失楽園」
詠唱を行った彼女を中心に強烈な波動が放たれ、メイリーが展開していた二重の結界が砕け散る。
「砕けたぞおーい!」
「まずい——伏せてください!!」
その直後、俺たちを囲むように三角形の斬撃の走った地面が薄い床板のように抜け落ちる。
「うぉあああああああ!!」
地面が抜け落ちた先には、地中とは違う謎の暗闇の空間が広がっていた。
空を飛べるはずの俺たちだが、暗闇に落ちた途端に体の自由を奪われて声も出なくなり、ただ無言で落下を続けるしかなかった。
すると突然——暗闇の中に一粒の光が灯った。
その光はみるみる大きくなりすぐにハッキリとした姿が目に映る。
————エトラ。
その寂しそうな顔、見覚えがあるような……。
思い出した、初めてエトラにこの楽園のことを聞いた時に、俺がここで暮らしたいって言った時にしてたあのしょぼくれた顔と同じだ。
どうせ追い出すならもっとスッキリした顔で追い出せよ……。
そんな顔されたら……いくら記憶消されたって忘れられるわけないだろ……。
彼女は寂しげな表情を浮かべたまま、落下する俺を視線で追いながら剣を振るう。
そしてその瞬間————意識が途絶えた。
次回 『りゅうのほうこう』




