らくえんをまもるもの
「……ん~……うまいぞぉ~……もっとくれぇ…………はっ!!?」
なんだ夢か——ん? パルテ?
なんで俺は仰向けでパルテにガン見されてるんだ……顔近すぎだし。
「大丈夫?」
「どういう状況これ——あっケダマやめっ……!」
俺の腹の上で寝ていたケダマが急に目を覚まし、頬を舐め回してくる。
「クルザリスに何かされなかった? それで眠ってたんだと思うけど」
ケダマを引き剥がし、仰向けのままぼんやりとした記憶を呼び起こす。
「ん~…………? もしかして蝶みたいな奴?」
「そう」
「俺そいつに空の実とかいう美味いもの貰った。良い奴だったよ?」
「それ食べて眠らされたってことでいい?」
「……………………騙したなぁぁああああああ!!」
思い出したぞ!
あの空の実食べた直後に意識ぶっ飛んだんだった!
パルテの顔を避けて勢いよく起き上がった俺はその辺の葉っぱを鷲掴みにして周囲を見回す。
「どこ行ったあの蝶々女! 卑怯な真似しやがって……あいつもケダマみたいに葉っぱまみれにしてやる!!」
「もう倒した、メイリーが」
「え……?」
パルテが指差した方向に振り向くと、そこには剣を握ったメイリーが居た。
彼女の足元には腹をばっさりと斬られた蝶々女も転がっている。
「メイリー! そいつもう何等分かしといて!!」
「しませんよ! 目を覚ましたと思ったら何ですかいきなり」
すると突然、メイリーの傍に転がっていたクルザリスの胸に不思議な光が浮かび上がった。
「っ……!?」
メイリーはすかさず光に向かって大盾を構える。
「なんだあれ」
その光はクルザリスの体から離れて浮遊を始め、迷いなくどこかへ向かっていく。
そしてその光が辿り着いた先は————エトラの手のひらの上だった。
「……返してもらうね」
「お~エトラ! あの蝶々女に何か取られてたの?」
「うん、私の大切なもの」
「そっか、良かったね取り戻せて。それにしても、新世代の連中はどれだけ他人にちょっかいかければ気が済むのか……」
「エトラさん……!」
メイリーの震え声、何かあったのか?
「なんで……なんでこの中に転移できるんですか……?」
「どしたのメイリー、この世の終わりみたいな顔してるけど」
「私が展開しているこの聖域は————神気を持っていない限り、出入り不可能なんです……!」
「……えーっと、つまり?」
俺がその答えに辿り着く直前、いつの間にか体が消えかかっていたクルザリスの声が辺りに響いた。
「生きて……たんだ…………守護……獣……」
——はい?
「守護獣——まさか!?」
クルザリスが消失し、突然顔色を変えたメイリーが光のような速さでエトラに斬りかかる。
しかしそれと同時にエトラは手のひらに乗せていた光を握り込み、空色の光を帯びた灰色の剣を召喚した。
「遅かった……!」
エトラは斬りかかってきたメイリーの剣を顔色ひとつ変えずに受け流し強烈なカウンターを入れる。
咄嗟に大盾を構えるメイリーだが、エトラの剣を真正面から受け止めたその盾は粉砕し、彼女は衝撃で勢いよく後方に飛ばされる。
俺の傍に居たパルテが瞬時に飛び出してメイリーを受け止めたものの、それでも勢いは収まらず二人して止まり木に激突してしまった。
「メイリー! パルテ!」
何がどうなってる……!
「エトラ! なんで急に喧嘩し始めたんだよ! 俺よく分かんないぞ!」
エトラの頭に交差する二重の白い光輪が浮かび上がり、背中には二対の純白の翼が広がった。
「てててててててて————天使ぃ!?」
やばいどうしよう、咄嗟にメイリーとパルテをかばって前に出たけど……超逃げたい!!!
エトラの光輪、絶対クラウンのやつだ! 勝てるわけない!
「隠しててごめん、クロン。私はかつてブロンガガク様に仕えていたクラウンの一人なの。あれから何千年が経ったのかも分からないけど……私はずっとブロンガガク様の命令でこの世界を護り続けてきた。でも時間が経つにつれて止まり木が放出してた神気が止まって、剣に蓄えていた神気も底をついた…………堕天を防ぐにはクラウンの能力『神化』を使って神鳥に姿を変え、最初に神気を一定量消費してそれ以降の神気の消耗を完全に止めるしかなかったの。その結果、精神的疲労が酷くて長い眠りについた挙句、クルザリスに力を奪われてクロンたちをこの世界に呼ぶ羽目になっちゃったけどね……」
「えっ迷い込んだんじゃなかったの!?」
でもなんとなく理解できたぞ……エトラは天使としてこの楽園を長い間護り続けてきたけど、色々疲れて鳥の姿でスヤスヤ寝てたら、いつの間にか更に時間が流れて自分のことを知る精霊が居なくなった結果、天使じゃなくて守護獣なんて呼ばれるようになってたと。
「幸いクルザリスは私が生き延びてることに気付いてなかったけど、力のほとんどを奪われた私にはどうしようもなかったから、皆を召喚してクルザリスを倒してくれるのを待ってたの。安心して、記憶は消させてもらうけどちゃんと生かして帰すから」
「帰す? 俺を?」
「当然でしょ、ここは精霊たちの世界。本来あなたたち天使を招いていい場所じゃないの」
「エトラ……エトラも天使だろ……」
「私はブロンガガク様の命令でここにいるの。お願い、分かって」
「わ————分かってたまるかぁぁ!!」
あんなに険しい表情を浮かべ剣を握るエトラの姿は初めて見る……けど黙ってられない!!
「俺がどれだけこの楽園を気に入ってると思ってる! 自分の作った庭に天使が一人増えたぐらいであーだこーだ言う頭の固い神様が居てたまるか! だいたい、俺たち四人でティータイムしてたときエトラもめちゃくちゃ楽しんでたじゃないか! あれも嘘だったって言うなら俺は本気で怒るぞ!!」
「もうやめて!!」
「いーや、やめない! 俺はここに残りたいからね!」
「クロンさんが……! ここに残りたいかどうかはさて置き……エトラさん、少し勝手が過ぎますよ……」
気絶したパルテを地面にそっと寝かせたメイリーが立ち上がりながらに言う。
「力を奪われて困っていたなら、どうして最初からそうと私たちに助けを求めなかったんですか」
「私には私の事情があるの」
「そのせいで、私たちは任務を中断させられ勝手に利用されました……道中危険な目にも遭っています。この事実を当事者がもみ消そうとするなんて、それでも神に仕える天使ですか」
「というわけでエトラ、珍しく俺とメイリーの意見が一致した。クラウンだろうがなんだろうが、こっちは全力で抵抗させてもらうからな」
「分かった、もういい……」
——————このあと、クラウン相手に抵抗しようとしたことをそこそこ後悔することになる。
次回 『ゆずれないもの』




