おひるねのじかん
クロンが見知らぬ精霊と接触していた頃、ちょうどメイリーとパルテは破壊された石碑の修復を終えていた。
「やっぱりつなぎ合わせただけではダメですね。破壊されてるせいで肝心の情報が魔法に隠されたまま閲覧できなくなってます」
「直すの結構時間掛かったのに」
単純に考えれば、この石碑を壊したのはおそらくまだ眠りについていない頃の守護獣。
隠されていた内容が本当にこの世界を出入りする方法に関連するものであれば、情報漏洩を防ぐために石碑を壊すのは不思議じゃない。
でも……守護獣が、獣が壊したにしては、ところどころ割れ方が綺麗なような。
この断面は……剣?
「守護獣じゃない……?」
すると次の瞬間、私の思考を遮るように平原の端の方で爆発音が鳴り響いた。
黒煙の中から巨大化したケダマが飛び出し、激しく地面を転がる。
「ケダマ……!? 大丈夫ですか!?」
パルテと共に慌ててその場を飛び出し、煙の中を警戒しながらケダマの元に向かう。
すると走り出して間もなく、煙の中から蝶のような精霊が何かを引きずりなら姿を現す。
「精霊——って、クロンさん!?」
私が剣を抜くよりも先にパルテが加速して精霊に飛びかかった。
しかし精霊はクロンを盾にしてパルテの攻撃を妨害する。
咄嗟に攻撃を止めた彼女は精霊の腕を蹴って強引にクロンを取り返し、こちらに向かって放り投げた。
「ちょっとパルテ! 急に投げないでください!」
「投げた」
パルテに投げられたクロンが綺麗な放物線を描いてどんどん迫ってくる。
「投げる前に——言ってください!」
なんとか受け止めたクロンは完全に意識を失っていた。
「クロンさん……! クロンさん……!」
ふらふらと起き上がったケダマがクロンに近寄り、鳴き声を上げて光輪に噛みつく。
「そんなに噛んだらまたクロンさんに怒られますよ。あの精霊は私たちでなんとかします、それまでケダマは、その寝坊助さんと一緒にいてあげてください」
「ク~ン……」
「お願いしますね」
交戦中のパルテとすぐさま合流し、精霊の背後から剣撃を仕掛ける。
「はぁ!」
しかし精霊は見た目よりも遥かに硬い背中の羽で刃を防ぎ、舞い上がった鱗粉を至近距離で爆発させた。
「ひゃぁ!」
冷静に翼を広げ、爆発で飛ばされる勢いを和らげて両足で着地する。
そして更なる爆発が発生し、煙の中からパルテのものらしき砕けた骨がいくつも飛び散った。
「パルテっ!」
直後に煙の中から、片腕を失ったパルテが飛び出し、追撃を警戒しながら私の隣へと後退してきた。
「大丈夫ですかっ……!?」
「問題ない、すぐ治る」
彼女の言葉通り、失った腕は瞬く間に再生し、その内側から新たな骨の刃が顔を覗かせた。
「あれ、クルザリス?」
「聞いていたより来るのが早い気もしますが、おそらくは……」
「どっち……?」
後ろ!?
パルテが攻撃しようとしてる——
「ダメです!」
「っ……」
危なかった……今ここで二人同時に鱗粉の反撃を受けるわけにはいかない……。
「ワタシの仲間を倒したの……どっち……? どうやってワタシの仲間を倒したの……?」
光の反射しない真っ黒な顔で私たちを見下ろし、その大きな両目を光らせる。
「教えると思いますか?」
「少なくとも頭の足りないあの天使じゃない……君たちもワタシの仲間は倒したにしては手応えがない……だからどっちかに切り札があるはず……はやく見せて……?」
やっぱりクロンさんはただ眠らされてるだけで、本当の実力はバレてないし能力も奪われてない。
ここで私がオーブを使って一時的に力を取り戻せば、クルザリスの標的となって渡り合える——既に二つのうち一つは魔獣カブスの攻撃からパトリア島を守るために使ったから、これが最後のひとつ…………。
今ここで使えば、この先何が起きても私はクロンさんやパルテを頼るしかなくなる。
だとしても——————
「そんなに見たいなら見せてあげますよ……これが神に仕える者の力です!」
マナを込めたオーブが強い光を発して消失し、割れていた光輪が修復されて馴染みのある力が全身にみなぎる。
「待ってた……」
クルザリスが後方に跳んで漆黒のオーラを纏い、影のような分身体を次々と生み出す。
「聖域展開————裂光!!」
光の纏う剣撃で進路上の全てを斬り裂く超高速の多段攻撃。
神気を持たない者は展開された聖域によって隔離、転移を阻害されて動きも鈍り、この攻撃を避ける術は無いに等しい。
分身体はまとめて倒した、あとは本体のクルザリスだけ。
「良い動き……」
防御の構え——でも、私の剣は防げない。
「はぁ!!」
クルザリスの羽が真っ二つに裂け鱗粉が派手に舞い上がる。
「でも残念……」
「狙い通りです!」
左腕に純白の大盾を召喚し、鱗粉の爆破をクルザリスへと跳ね返す。
煙に紛れて後退したクルザリスが複数の分身体を生み出した。
左右から分身体————
「裂光!!」
分身体を斬り裂き煙から抜け出すと、クルザリスは既に大量の分身体を盾にして防御の構えを取っていた。
「くっ、またですか」
——しかし次の瞬間、地面から無数の骨が剣山のように飛び出し分身体たちを一掃した。
ノーマークだったパルテが地面に両手をついている、遠距離からの支援攻撃……!
「ありがとうございます!」
串刺しになっている分身体をかいくぐりクルザリス本体へと迫る。
「負ける……」
「相手が悪かったですね、これで終わりです!」
力を込めた一撃は、クルザリスの体を羽もろとも真っ二つに斬り裂いた。
「……負け……た…………」
空色の葉の上に転がったクルザリスの胴体が不気味にそう呟いた。
「守護獣の力だけで我慢しておけばいいものを、天使相手に欲張るからですよ……」
次回 『らくえんをまもるもの』




