きのぬくもり
いつぶりかの日の光————
淡い青の葉を茂らせた巨大樹は、見上げればまるで空が大地に根付き太陽という果実が生っているかのよう。
広大な大地には空から舞い落ちた葉が長い年月をかけて降り積もり、もう一つの空が描き上げられている。
「ほぉ~……実家のような安心感……」
こっちの世界に来てからほぼずっと星が見える場所にいたせいか、日の光がいつもより眩しい……。
ここは『守護獣の止まり木』と呼ばれる領域。
太陽に照らされただだっ広い平原に一本の巨大樹がそびえる、かつてこの世界を守護していた存在が眠りについた場所だ。
「木の上最高……こんな場所でぐっすり寝てただなんて、守護獣も贅沢だな~……」
アルハとネイバーは今頃、新世代を抜けたいと言って泣きついてきたトニットの世話に追われているだろう。
——で、メイリーとパルテはさっき平原の左端でバラバラの石碑を見つけて色々調べてる……この楽園を出るために。
二人を止めるのも面倒だからとりあえず何も収穫がないことを祈る。
「ていうか、ここから浮島見えるんだ……あっちからだと暗くてこんなデカい木があるなんて気づかなかったのにな~」
星空の下にあるはずの浮島が太陽に照らされて見える……変なの。
「よし……次は日向に転がってみようかな」
木の上から飛び降りた直後、葉が降り積もり空色に染まった地面に浮かぶ二つの黒っぽい点が目に入った。
「……………………ケダマ?」
「ワフッ」
「何があった?」
全身葉っぱまみれのケダマは完全に地面と同化していて両目しか見えない。
「あの白黒模様は一体どこに……」
ケダマに近づき屈みながら手を伸ばす。
「ほら、葉っぱ落とすぞ。じっとして——ろっ!?」
突然勢いよく体を振るって全身の葉をまき散らしたケダマが俺に背中を向け逃走した。
「ブッ——ぺっ! こら待てっ!」
進路上の落ち葉を豪快に巻き上げながら平原を爆走するケダマ。
必死に後を追いかけるが、ケダマは何かに取り憑かれたように爆走を続け俺を翻弄する。
「うぉぉぉ!! 飼い主から逃げられると思うなよぉぉ!?」
急停止し魔法のロープを作り出した俺はそれをグルグルと振り回して勢いをつけ、ロープの輪を思い切りケダマに向かって投げる。
「おらぁぁ!! よし捕まえ————」
勝利宣言をしかけたその時、潜ったロープの輪に縛られそうになったケダマは突然体を丸め、まるで本物の毛玉のように小さくなってロープの拘束をかわした。
「はっ!? 反則だろそれぇ!!」
俺のロープを回避したケダマは依然爆走を続ける。
「あのチビ犬が……! 葉っぱと一緒にあのふわふわの毛皮も剥ぎ取ってやる!」
その後も必死にケダマを追いかけ回し、最終的に平原の端まで追い詰めることに成功する。
「さぁ観念しろぉ! 毛刈りの時間だぁぁぁ!!!」
渾身の一投は跳躍したケダマを目掛けて一直線に飛んでいった。
しかし————今回のケダマはお得意の転移で易々とロープを回避した。
そしてケダマを捕らえられなかったロープの輪は、その先で平原に隣接する森から出てきた黒い蝶のような女精霊を縛り上げてしまった。
「あ…………」
蝶の精霊が抱えていた複数の青い果実が地面に転がり落ちる。
しかし彼女は何も言わず、ただ真っ白に光る瞳でぼんやりとこちらを見つめていた。
「えーっと……その……ごめん、ね……?」
「構わない……」
「…………俺の顔、葉っぱでも付いてる?」
「何も……」
「そっか、安心安心……」
「早く……」
「ん?」
「早く……離してくれる……?」
「あぁ……! ごめんごめん……!」
この精霊、顔が黒塗りなせいで白目しかパーツが見当たらないから表情が読めない。
慌てて魔法のロープを解除すると彼女はゆっくりとその場に屈み、落とした果実を一つずつ拾い始めた。
恐る恐る精霊に近づき、彼女を手伝うため果実を拾い上げる。
「なにこれ、大きさの割にすごい軽いな……中身あるの?」
「空の実……遠くまで飛んだあの葉っぱが……たまにこうなる……」
さすが守護獣の止まり木、ただの寝床ではなかったか。
「美味いの? あんまり食欲をそそられるような色じゃないけど」
そう言いながら俺は拾い上げた果実を精霊に手渡す。
「甘い……食べてみる……?」
彼女に手渡したばかりの果実がすぐに返ってきた。
「う~ん…………じゃぁ遠慮なく」
貰った果実を一口かじってみると、すぐに口の中で独特な甘みが広がった。
「おぉ~、なにこれ美味い」
更にもう一口。
「よかった……」
「これ、俺もちょっと拾いに行こうかな」
すると突然————視界が急激に暗くなり、段々と意識が遠退き始めた。
「お……っと…………な……に…………」
そして訳も分からないまま俺はその場に倒れ込み、あっという間に意識を失ってしまった。
「神の使い……期待外れもいいところ…………」
次回 『おひるねのじかん』




