ちょっとしたてがかり
仲間を全員失い、おまけに転移阻害の結界によって逃走手段まで封じられたトニットは俺が目の前で武器を振り上げると、ガレキの上でうずくまったままあっさりと降参した。
メイリーたちは今、奴から情報を聞き出している真っ最中だ。
ちなみに俺の役目は、尋問中に万が一トニットが逃げたりしないよう力を解放したまま結界の維持すること————それとケダマの遊び相手。
「いくぞケダマ~、取ってこーい!」
「ワフッ!」
いつにも増してじゃれてくるため、刃の無いおもちゃ用の円刀で同じ遊びを繰り返している。
まぁ今回もケダマは活躍したし……仕方ない。
それにしても————
「おらっ!」
「ガウッ!」
「とぉっ!!」
「ガフッ!」
どんな投げ方しても転移能力で簡単にキャッチできるのはズルくない……?
転移阻害の効果わざわざ敵だけに絞ってるんだけど、ケダマにもかけてやろうかな————いや、楽しそうだしやめとこ。
一方その頃————
「そんなに質問攻めされても無駄よ……あたしはそういうのに疎いから」
「ん~、やっぱり収穫無しですね……」
天井の抜けた集会所でトニットからこの世界の脱出方法について聞き出していたメイリーは、何一つ情報を得られず肩を落としていた。
「私からも聞いていいかしら」
アルハがトニットの顔を覗き込んで尋ねる。
「なによ」
ネイバーに魔法のツタで拘束されている彼女は大人しくアルハに応じた。
「あなたたちの目的って何なの? クルザリスは『守護獣』から奪った力で何をしようとしているの?」
「そんなの、クルザリス様にしか分からな——」
突然骨の刃がトニットの頬に突きつけられた。
「っ……!?」
横目で刃を辿りその先でパルテと目が合ったトニットは、無表情な彼女のその瞳から微かな殺意を感じ取った。
「正直に答えて。クロンに意地悪したの、わたしは許してないから」
「こ、答える……答えるわよちゃんと……。実は、クルザリス様は転生者で……前世は地上世界の精霊なのよ」
「ん? すみません、ひとついいですか?」
メイリーが首を傾げながら手を挙げた。
「転生は神の力でなければ不可能に近いです。神の目が届かないこの世界に誰かが転生するのは困難では?」
すると隣に立っていたアルハがメイリーの肩に手を置いて答える。
「ここではね、死した魂が外から迷い込んで精霊として転生する——なんてことがごく稀にあるらしいの」
「……本当に不思議な世界ですね…………」
トニットは呆然とするメイリーからアルハへと視線を移し話を続ける。
「クルザリス様は言ってた——地上世界の精霊に比べてこの世界の精霊は寿命が短すぎるし、自分を含めてみんな弱すぎるって。だからクルザリス様はあたしらと本物になるために、ただ眠ってるだけの守護獣からその力を奪った。あたしら新先代が強くなるためには、力の与奪と増幅能力を持つクルザリス様が強くなるのが一番手っ取り早い。でも守護獣から得た力だけじゃあたしら新世代が本物になるにはまだ足りないの……」
「ふーん……なるほどね……」
するとアルハはトニットの話を頭の中で整理しながら彼女に問う。
「でも、守護獣って仮にもこの世界を護ってた存在よ? そんな相手から力を奪っても足りないっていうなら、他に奪う価値のある相手なんて私の知る限りもうここにはいないわよ? もしかしてあなたたちの目的も——この世界を出ることかしら?」
「っ!?」
メイリーの表情が途端に険しくなった。
「やっぱり脱出方法について何か知ってるんですか!?」
「た、大したことじゃないわよ……! 『守護獣の止まり木』にそれっぽい石碑があったけど、大昔に誰かが壊してるらしくて文字なんてほとんど読めないし、クルザリス様も色々調べたけど結局ゲートは出現しなくて何十年も前に諦めたって話よ……。だから状況的に考えて、次にクルザリス様が動くとしたら——あいつを探しに来るでしょうね……」
メイリーはそれが誰を指すのかをすぐに察した。
「クロンさんを……!?」
「そう。あたしらが全滅したとなれば、クルザリス様はその相手を吸収するに値する強者と見なして必ず捕まえにくるわ」
「まずいですね……」
「クルザリス様があたしらの全滅を悟って動くまでまだ猶予があるはずよ。それまでにどこかに隠れることをお勧めするわ」
「それはできません」
「何言ってるのよ、クルザリス様にあいつの力を奪われたらあんたらはおしまいよ!?」
「隠れたところで私たちは一年もすれば堕天してしまいます。特に私のような下級の天使は堕天時の暴走のリスクが高く、自我は崩壊しケースによっては堕天前より力が増してしまうので、最悪手が付けられなくなる可能性もあります。なので私たちは一刻も早くこの世界から脱出する方法を見つけだし、天界に帰る必要があるんです」
そう話したメイリーに対しアルハは心配そうに尋ねる。
「守護獣の止まり木に行くつもり?」
「はい、今はその場所に賭けるしかありません」
彼女たち二人を見上げていたトニットは途端に顔を逸らし呆れた様子を見せる。
「はぁ……知らないわよもう…………」
そんなトニットを見たパルテは、彼女に突きつけていた骨の刃を静かに引っ込めた。
「ひとつ聞いてもいいかい?」
おもむろにパルテの傍に寄ったネイバーが不思議そうな顔をしながら尋ねる。
「なに?」
「クロン殿から”この世界を出たくない”という気持ちを聞いた時、彼は堕天のことを全く心配していないように見えたのだが、あの異様な力と何か関係があるのだろうか?」
「ないと思う」
「……即答だね」
「クロンにも神気はある。神気が切れた天使は必ず堕天する、例外はない」
「つまり——」
「そこまで考えてないだけ」
「なるほど……皆さんと初めてお会いした時、あなたが彼を縛り上げていた理由が分かった気がします」
ん……?
なんか、俺の話してる……?
次回 『きのぬくもり』




