ばんくるわせ
精霊たちの集会所を訪れていた俺たちを狙い襲撃を仕掛けてきた『新世代』と呼ばれる精霊たち。
いや正確には俺を狙ってるっぽいんだけど……。
メイリーとパルテ、そしてネイバーやアルハは既に新世代たちと交戦している。
だから俺は————
「やっほ~」
「ひぃっ!?」
目の前の水面に突如あの液体女が銛を持って現れた。
「あの時はよくも逃げてくれたわね。あたしトニット、あんたを殺す前に一応自己紹介しておくわ」
「ご丁寧にどうも——ていうかお前海から上がれるんだな」
「クルザリス様のご加護のおかげよ」
「誰それ」
「あたしたち新世代のリーダー、最強の精霊よ」
「へ~すごいね~」
うさんくさいな。
「ま、せいぜいあたしらに喧嘩を売ったことを後悔することね——さようなら」
奴の銛先が眼前に迫る。
「——かかったな」
「っ!?」
俺の台詞を合図に、髪の毛の中に隠れていたケダマが巨大化して飛び出し、トニットの銛に噛みついて受け止めた。
「グルル!!」
「はぁ!? こいつまた!!」
「ないすケダマ!」
この隙にガレキから抜け出そう。
「————っしょっと」
「離して……! もぅ……!」
「へっへっへっ、今ボッコボコにしてやる——いくぞケダマ!」
ケダマが足止めしてくれていたトニットに飛びかかり、2対1で袋叩きにする。
「おら——おら——おら——食らえ——この——おらっ——」
「——ガゥ——ガゥ——ガゥ——グルル——ガゥ——ガゥフ——」
「あっ、痛っ! ちょっ——離して! どこ触って——きゃっ! やめ——」
「あれは……戦ってるんですかね……」
「遊んでる」
途中メイリーやパルテの視線を感じたが、俺とケダマは一切気にせずトニットを叩き続けた。
「降参するなら今のうちだぞー」
「降参なんて————するわけないでしょ!!」
「あばばばばばばばば————」
トニットの反撃——奴が全身から放出した雷魔法によって痺れた俺とケダマは身動きが取れなくなってしまった。
「やっぱり天使なんて大したことないわね」
奴の銛が雷を纏う。
「や、ば……!」
その直後、トニットに突きつけた銛から凄まじい威力の雷撃が放たれた。
「ぐはっ!!」
まともに雷撃を食らった俺は勢いよく後方に吹き飛ばされ、集会所の壁を突き破って再びガレキの山に帰ってきた。
「っ……痛った……」
「クロンさん!!」
遠くから微かにメイリーの声が聞こえる。
「大ピンチ……生きて帰れるかなこれ——ぶへっ!?」
やっとの思いで起き上がった俺の目の前にトニットが転移で現れ、青肌を見せつけながら素足で腹を踏みつけてきた。
「あんたのペットは縛り上げたんだから、もう逃げられるなんて思わない方がいいわよ」
「離せっ……!」
「本当はさっさと殺してやるつもりだったけど、気が変わった——あたしが飽きるまでいたぶって、ゆっくりじっくり殺してあげる」
「そういうの……よくないと思う……!」
「どこが? あたしたちは『新世代』——あたしたちの行いはどれも正しいことなの」
奴はそう言って銛に雷を纏わせ身動きの取れない俺の——————光輪を一撃で破壊した。
周囲で戦闘音が響く中、俺とトニットの空間だけが静寂に包まれる。
「…………大間違い」
「はぁ……?」
集会所の天井に空いた大穴から空を仰ぐ俺をトニットは不快そうに見つめてくる。
「大間違いだって、言ったんだよ」
メイリーが相手していた二人の精霊のうちの一人が離脱、トニットの雷撃によって拘束されたケダマに急接近している。
「何も間違ってないわ。あたしら新世代の行いこそが正しいの、今この世界にあんたら神の使いがいることの方がよっぽど間違————」
「神格化」
力を解放した俺は即座にトニットの前から姿を消した。
「っ——!? なにっ……!?」
ケダマを襲おうとしている魚人のような姿をした精霊の頭上に転移し、そいつを円刀で真っ二つする。
ふたつに裂けた体が光を放って霧散し、突然の出来事に周囲の視線が集まる。
「一体何が起こったの?」
全ての戦闘が止まり敵の指揮官らしきクラゲ頭の女も困惑した様子で二人の仲間と共に空中から俺を見下ろしていた。
「黒い翼……天使の身に起こると言われる堕天という現象では?」
「あれは力が弱まるはずよ~? 今の彼はどう見たって数秒前とは別人レベルに強くなってるわ……」
「メイリー、ケダマお願い!」
「は、はい……!」
目の前の敵から即座に距離を取り戦線離脱するメイリー。
敵が自分に背を向けたメイリーを追おうとしている————
「くそ、待て貴様!」
「——お前が待て」
「なっ——!?」
奴が動くよりも先に円刀を投げつけその体を引き裂く。
そして呼び戻した円刀を空高く投げ上げ、上空で巨大化させたその武器から円柱形の結界を展開。
「パルテ」
敵精霊と睨めっこをしていた彼女に下がるよう合図する。
するとパルテはコクッと頷き、アルハとネイバーにもそれを伝達し一斉に下がっていった。
大量の円刀を生成し、緊張状態の精霊たちに告げる。
「さーて新世代のみなさーん、懺悔の時間だよー」
————パチンッ。
指を鳴らした直後、生成した無数の円刀は精霊たちに向かって一斉に放たれた。
初撃で半数の精霊が反応すらできず円刀に斬り裂かれ、残りの精霊たちも必死の抵抗を見せたが予測不能な角度で結界に跳ね返る円刀によってわずか10秒足らずでほとんど全滅した。
「な、なんで転移できないの!? まさか——この結界が!?」
「大正解」
自慢のクラゲ頭を膨らませ、硬質化したその中に隠れて身を守る彼女に円刀の軌道を操り攻撃を集中させる。
「天使がこんな常識破りな相手だなんて聞いてないわ……クルザリス様~!!!」
そして、それら無数の円刀はクラゲ頭を防御を突き破り、叫び声を上げる彼女を斬り刻んだ。
辺りが静まり返り、微かにすすり泣く声が聞こえてくる————
「ほらね——お前が俺の光輪を壊したのは本当に大間違いなんだよ、トニット」
次回 『ちょっとしたてがかり』




