だっしゅつほうほう
「ケダマの散歩に出たつもりが……まさか楽園から脱出するための調査になるなんて」
あれからのんびりティータイムができたところまでは良かった。
だけどこっそりツリーハウスに帰ろうとしたところをメイリーとパルテに捕まり、二人の調査に同行させられることになってしまった……。
目的地は精霊たちの集会所——メイリーがエトラから聞いた話によると、彼女もこの楽園からの脱出方法は全く見当がつかないらしく、長寿の精霊たちが集まる集会所を訪ねてみるのがいいとか。
ちなみにその集会所、あの怪しい精霊が居た砂浜とは真反対の方向である。
エトラいわく朝焼けが見えるあの海一帯は自らを『新世代』と名乗る血の気の多い精霊たちの領域らしい。
次からケダマの散歩コースはこっちの集会所方面で決まりだ……。
「ね~まだ着かないの~?」
パルテに吊るされて空を運ばれるのは楽でいいけど、カーブが雑すぎて首がやられそうなんだよな~……。
「ちょうど見えてきましたよ」
「お?」
地上を見下ろすと、そこにはぼんやりと光を放つ湖が広がり、浅瀬にはまるで城のように巨大で艶やかな貝殻が佇んでいた。
「あれが精霊の集会所?」
「間違いないと思います」
「手短に頼むよ?」
「クロンさんがちゃんと聞き込みしてくれればそう長くはかからないかと。では、訪ねてみましょう」
貝殻の城へと進み始めたメイリーの後に続きパルテが滑空を始める。
「ふげっ!? パルテぇ! もっと丁寧に運んでってばー!!」
「しずかにして、響くから」
「このままだと首が取れて本当に静かになるぞ!?」
「ちょうどいい」
「なにがちょうど——うがっ!? ぁ……………………」
————気が付くと、いつの間にか貝殻の城の内部に居た。
貝殻のベッド……結構寝心地いいな。
円錐形の貝殻の城内は吹き抜けで解放感抜群、あちこちで精霊たちが空中を浮遊している。
「さすが集会所、賑やかだなー」
ひとつ下の階——入口付近のソファーにメイリーとパルテが人魚の姿をした精霊と向かい合って座り、何やら話し込んでいる。
「——おや、目が覚めたようだね」
「ん?」
声のした頭上を見上げると、頭から二本の枝のような角を生やした長身の男が本を片手に舞い降りてきた。
「だれ?」
「おっと失礼……私の名はネイバー。ちなみにあっちで君のお仲間さんと話している彼女が、この集会所の管理者アルハ」
「へー」
「大体の事情はメイリー殿から聞いているよ。神の使いがまさかこんなところに迷い込むとは」
「俺的には迷い込めてラッキーだから、できればこの楽園から出たくないんだよねー」
「というと?」
「え? 快適すぎるから。だって考えてもみてよ——宿代タダでティータイムつき、かつ神の目の届かない場所なんて地上のどこ探しても無いと思わない!?」
「そう……かもしれないが、偉大なる神に仕えることは、あなた方天使にとって他の何ものにも代え難いことなのでは?」
「いいや、神に仕えるよりこの秘密の楽園で快適な生活を送る方が断然いい!!」
「そう……なのか……」
なんだろう、ちょっとだけ視線が冷たい気がする——まぁいっか。
すると突然ネイバーの隣に人魚のアルハが転移してきた。
「あら、目が覚めたのね。お仲間の天使さんとの話が終わったわよ」
「メイリーに何を吹き込んだんだ~?」
「ん? あぁ、もしかしてこの世界が気に入っちゃったのかしら」
宙を漂うアルハは羽衣や尾びれをなびかせながら微笑んでみせる。
「そういうこと。だからメイリーに帰る方法なんて教えられたら面倒なことになるんだよ」
「安心して。彼女たちには悪いけど、私たちにもこの世界から出る方法なんて分からないの。みんな自分たちの世界が気に入ってるから、そんなこと考えたりしないのかもね」
「ふぅ……」
「ただ————」
その時、城の外側に何かが勢いよくぶつかったような鈍い衝撃音が鳴り響き、城全体が小刻みに揺れ動く。
「うぉっ!? なになに!?」
城内が一気にざわつき始め、精霊たちが次々とどこかへ転移し逃げていく。
間髪入れずまたしても城が揺れる————
「これは……! みんな、早くここから逃げて!!」
城内にアルハの声が響き渡り、城内に居た残りの精霊たちは一斉に転移し姿を消した。
「クロンさんも、早く外へ————」
すると次の瞬間、凄まじい衝撃音と共に城の上部が崩壊し大量のガレキが城の傾斜面を転がり雪崩のように押し寄せる。
「危ない!!」
「うぅぅぁぁああああ!?」
すかさずネイバーが球状の結界を張り俺とアルハを守ってくれたものの、結局ガレキの波に結界ごと飲まれた俺たちはそのまま城の外の湖まで押し流されてしまった————
「ぶはっ……! くそ~……意地でも留守番しとけばよかった……」
浅瀬で助かったけど、腰から下がなかなかガレキから抜けない……。
「ケダマは無事か~?」
「スンッ……!」
どうやってかは知らないけど俺の髪の毛の中に隠れていたケダマが顔を覗かせた。
「よーし、無事だな」
「——クロンさん!」
ん、メイリー?
「大丈夫ですか!」
手を振りながらパルテと共にこちらに飛んでくる彼女に、俺は言うべきことがある。
「全然大丈夫じゃない! 次は留守番するからな!」
「そういうのは後にしてください! 今助けますから」
「——止まって!!」
突然メイリーたちの進路を塞ぐようにアルハとネイバーが現れたその時、俺と彼女たちの間に水の砲撃が放たれた。
「ぶっ——ぺっ……! 今度はなんだよもぉ~!!」
泥まみれだ……砲撃が放たれた地面も陥没している。
なのに何でメイリーたちは泥水ひとつ被ってないんだよ……。
「はぁ~あ~ぃ」
陽気な声の響いた頭上を見上げると、複数の精霊が空中で円を描き俺たちを囲むように並んでいた。
「新世代……!」
「ん?」
アルハが今言ったワード、何か聞き覚えがあるような……。
あ~思い出した、エトラが言ってた海側の血の気が多い連中のことか。
「この世界に天使が侵入してるって情報は本当だったみたいね~」
クラゲ頭で体中を不気味に光らせる女が俺たちを見下ろしながらに言う。
「あ~! お前ぇ~!」
クラゲ頭の隣に居るあの精霊——砂浜で遭遇した液体女だ!
「ふふん、また会ったわね」
「まさか俺に仕返しに来たのか!?」
「やられたらやり返す、当然でしょ?」
「ほんとに血の気が多いんだな……」
どうしよう、どのタイミングで逃げよう……。
こんな奴らまともに相手したくないぞ俺は。
でもあいつら精霊だし逃げても追ってくるだろうな~……。
あ————いいこと思いついた。
次回 『ばんくるわせ』




