おせっきょうのじかん
幻想的な砂浜で遭遇した精霊から逃げ切ったあと、俺は巨大化したケダマに乗りそのままエトラの居る浮島へと向かった。
驚くことにケダマは空中も走れるようで、道中は悪い精霊たちからの妨害も一切なく平和な空の旅が出来た。
「着いた~。おつかれケダマ」
背中に乗ったままケダマの首元を撫でる。
「よーしよし、よーしよ——ぉおぅあぶ!?」
突然ケダマが巨大化を解いて元の姿に戻り、地面に落とされる。
「いだっ……! 急に小さくなるなよ……!」
今日はよく尻餅をつく。
「いててて……はぁ……浮島に着いたのにまだゴールが遠く感じる……」
すると、隣に居たケダマがなにやら地面のにおいを嗅ぎながらどこかに向かい始めた。
「ケダマ? 待て待て、なんで置いていく!?」
慌てて立ち上がりケダマの後を追う。
この浮島は遺跡がコンセプトなのか?
あちこちにボロボロの石柱や壁が並び、ガレキが散乱している。
地上世界でよく見る風景なだけあって幻想的な花畑や砂浜とのギャップが激しい。
においを辿り小刻みに転移していくケダマの後を必死に追いかけていると、三方向に石のアーチが配置された分かれ道へと出た。
「お?」
そしてケダマが右側のアーチをくぐり奥へ行ったかと思うと、壁の向こう側からエトラの声が聞こえてきた。
なるほど、エトラのにおいを覚えてたから案内してくれたのか。
「あら、来たのね。クロンは?」
ケダマの後に続いて道を右に曲がりアーチをくぐる。
「やっほ~エトラ~! ニセポ飲みた~————ぁ……?」
石造りの東屋のような場所でテーブルを囲むエトラ、そしてこんな場所に居るはずのない見慣れた顔が二人。
「クロンさん! 急に居なくなったかと思ったら、何で迷い込んだ世界に住み着いて楽しそうにしてるんですか!」
メイリーとパルテ!!!!!
おかしい——おかしいおかしいおかしいおかしい——
「そ、そっちこそ! こんなところまで俺を追い回してきて一体どういうつもりだよ!」
「追い回してなんかいません! 私もクロンさんを探してる途中にパルテと一緒にここへ迷い込んだんですっ!」
「十分追い回してるじゃん!」
「帰還方法を探していたならまだしも、天界や地上のことを綺麗さっぱり忘れてこっちの世界を満喫してたクロンさんにとやかく言われたくありません!」
「——二人とも落ち着いて」
見かねたエトラが俺たちの口喧嘩に割って入り、指先で軽くテーブルを叩いてメイリーに座るよう促す。
「はぁ……ごめんなさい……」
メイリーが溜め息をつきながら腰を下ろし、エトラは微笑みながらこちらに手招きをしてみせる。
「クロンもこっちに来て。仲良く喧嘩するのは後回し」
「俺とメイリーのどこが仲良く見えるんだか……」
エトラの隣に座りティータイムの準備を始めた彼女の手元を眺める。
「…………」
「——誰この子」
「ん?」
パルテが俺の背後から顔を出しテーブルの上にちょこんと座るケダマを覗き込む。
「あー、なんか懐かれた。生まれたての精霊だってさ」
「触ってもいい?」
「ご自由に」
パルテが俺を盾にしてゆっくりと慎重にケダマへ手を伸ばす。
「ク~ン」
ケダマはとくに警戒する様子もなくすんなりとパルテを受け入れた。
ふさふさの毛をそよ風に揺らしながらパルテに撫でられている。
「かわいい」
「だろ~」
そう、光輪さえ噛んでこなければケダマはその辺のペットとは比べ物にならない可愛さを持っている——光輪さえ嚙んでこなければ。
気か付くと目の前のテーブルにエトラが次々と美味しそうなお菓子を並べ始めていた。
「お~!! ケーキの上にガラスの花がある!!」
するとお得意の魔法でポンポンと皿の上にお菓子を生み出していたエトラが隣でクスッと笑った。
「ふふっ。その花、ガラスじゃなくて飴なの」
「飴!? てことは食べれるの!?」
「そういうこと」
「うっひょ~!! 早く食べ————たい……?」
向かい側に座ってるメイリーの様子が変だな…………どこ見てるんだ……?
ケーキじゃない…………もしかして、ケダマ?
試しに腕の位置をずらしてケダマをほんの少し隠してみるか。
「スッ——」
俺の動きに連動するようにメイリーの体がほんの少し傾いた。
もう一度。
「スッ——」
——————確定!!
またしてもメイリーの体が傾いた!
彼女はケーキよりもケダマに興味津々のようだ。
「っ……なんですか」
俺のいたずらにメイリーが気付いた。
「モフモフだぞ~?」
「そんなの、見れば分かります……」
「素直じゃないな~」
「ほっといてください」
そう言ってメイリーは釘付けになっていたケダマから顔を逸らした。
すると、意地を張る彼女を見かねたパルテがケダマを抱え、メイリーの元に連れて行く。
「はい、触ってみて」
「い、いいですよ別に……!」
「遠慮しすぎは良くない」
「だからいいですって~…………」
あれだけ釘付けになっていたケダマを頑なに拒むメイリーだが、それも長くは続かなかった。
パルテに目の前でケダマを見せつけられた彼女はしばしモジモジとした様子を見せたあと、恐る恐るその手を伸ばし始める。
「こ、怖くないですよ~……」
彼女の指先がケダマのあごの下に触れる。
「わぁ~ふわふわさらさら……可愛いで————」
その瞬間——メイリーの目のまえからケダマが姿を消し、俺の頭の転移してきた。
「ふぇ……?」
メイリーがぽかんとした表情でこちらを見ている。
彼女がケダマに触れた時間、わずか五秒…………。
頭の上でケダマがブルブルと首を振り、俺の髪の毛に顔を埋めて何度も擦っている。
「……んぶっ————ぶぁっはっはっはっ……!! けっ……ケダマに、嫌がられたっ……ふぁ~!!」
「も、もぉ~笑わないでください……! こうなる予感がしてたから触りたくなかったんですっ……!」
突然こみ上げてきた笑いが爆発しテーブルに倒れる俺に、メイリーは赤面しながらそう言った。
するとこの状況を不思議に思ったパルテがメイリーに尋ねる。
「牧場の牛には結構懐かれてたのに、なんで?」
「私にも分かりませんっ……! ただ、こういう時いつもなら触る前から懐いてもらえるかどうか感覚で分かるんですが、なぜかその子に限って全く手応えがなかったんですっ……!」
「はぁ~はぁ~……メイリーが、あんなちっさいケダマにっ……嫌われ——うっ——うっはっはっはっはっ……ひぃ~っ……」
「もうクロン、笑い過ぎ……ほら、ティータイムの準備終わったよ」
「ひぃ~……ふぅ~……ふっ——ふっはっはっはっはっ」
やばい笑い死ぬ。
ツボに入った焦りを感じたその時、俺の隣にいるエトラの肩をパルテがトントンと叩く。
「顔面用のあれ、出せる?」
「ん……? あ~、あれのこと? はいどうぞ」
「ありがと」
なにやってるんだ? 笑い過ぎて涙で視界が……。
「だれか……ふっ……助けて、メイリーのせいで笑い死ぬっふっふ……」
涙を拭い、未だ収まらない笑いを堪えながら顔を上げると、なぜかケダマが慌てた様子で俺の頭の上から飛び降りた。
「ふへっ……けっ、ケダマどこい——んぶふっ!?」
その瞬間、俺はパルテから手加減無しの顔面パイを食らって椅子から叩き落とされ、全てを理解した。
「や、やりすぎじゃない……?」
「問題ない」
「そ、そう……」
エトラ、俺の心配をするくらいなら最初からパルテにパイなんて渡すべきじゃない……。
くそ~……こんなに早く居場所がバレるなんて想定外だ……!
一刻も早く何か手を打たないと、せっかく手に入れた俺の楽園生活が崩壊するぞ……!
次回 『だっしゅつほうほう』




