しょっぴんぐ
任務を終え天界へと帰還した俺は、その後すぐに自室のクッションへとダイブした。
「はぁ~……極楽…………」
あ、飴買いに行くんだった……。
クッションのすぐ傍に転がしている瓶を拾い中身を確認すると、まだ底が見えないくらいには飴が残っていた。
「ん~、あとにしようかな~……」
「——クロンさん!」
「あぇ、どした……?」
部屋に入ってくるなり物凄い剣幕でこちらを睨むメイリー……何があった?
「——あ、ごめん先に帰っちゃった」
「それはいいですけど、さっきのあれは何ですか!」
「あれって? あぁ……」
話の内容を察した俺はすぐにプライバシーを保護するためこの風通しの良い部屋に結界を張った。
「封印のこと?」
「封印……?」
「俺はアルト様の失敗作みたいでね、普段はこの封印付きの光輪で力を完全に抑え込まれてるんだ。だからこれが壊れると力が解放されて多少は戦えるようになるけど……次さっきみたいな魔王幹部と遭遇したら俺は真っ先に逃げるからね」
ちなみにこの封印の施された光輪、他の天使のもの同様に仲間の攻撃を弾く上に自力で壊せないという点が素晴らしい。
秘められた力を思うように解放できない……俺のド底辺という称号をより強固なものにしてくれる。
「堕天とは違うのですか? あの姿はどうみても……」
「光輪が割れた後でも天界との繋がりは切れてないからねー。その証拠に封印戻ってるし……堕天してたら元の姿には戻れないだろ」
「確かにそうですね……」
「口外しないでねー、他の天使にバレたらアルト様に怒られそうだから」
「しませんよ。すみません……私が弱いばかりにクロンさんに危ない橋を渡らせてしまって」
「ド底辺が足を引っ張り合うのは当然だからまぁ良いんじゃない? 反省会する時間があるなら飴買ってきてほしんだけど……ダメ?」
「自分の物は自分で買ってきてください、私は部屋の掃除があるので」
「えー……」
「相部屋をお願いしたとき、自分のスペースは自分で確保するよう言ったのはクロンさんじゃないですか」
「はいはいそうでした、自分で買ってきますよ……」
ちょっとだけ険しい表情を見せるメイリーから目を逸らし渋々クッションから起き上がった俺は、彼女をひとり部屋に残して重い足取りでショップへと向かった。
ショップに到着後、俺はいつもの飴がぎっしりと詰まった瓶を抱え、メイリーが部屋の片付けをしているあいだ普段見ない装飾品コーナーを物色していた。
「祝福の指輪、黄金の耳飾りに太陽のペンダント…………いらね」
俺がいま居るこのショップ、そして神器と呼ばれる天使の扱う武器や防具を製作し販売するアトリエは、この巨塔の各階に一店舗ずつ構えられている。
ショップに並ぶ食べ物などの消費アイテムや、インテリアや雑誌、その他娯楽アイテムなどの品揃えはどの階も同じらしいが、こういった自身を強化させるような装飾品というのは上の階ほど品質が高く、アトリエで働くクリエイターの腕も良いんだとか。
装備品とか神器はどうでもいいけど、食べ物や娯楽が平等なことに感謝を……!
「いつものコーナーもう一周したら帰ろっと」
時間をかけてゆっくりとお菓子やその他のアイテムを見て回ったあと、俺は抱えていたアイテムが腕からこぼれ落ちそうになったところで会計へと向かった。
「合計で3260ポイントになります」
「ほい」
天使は一人一枚、任務の達成報酬である『エンジェルポイント』を管理できるちょっとオシャレなカードを所持している。
カードのポイントはこうしてショップやアトリエに設置された小さな神像にかざすことで使用できる。
「——おい見ろよ、クロンだ」
「たしかグムス様のところから光輪の欠けた奴がこっちに異動して、クロンと組まされてるって噂だ」
「可哀そうにな……でも、そいつもそいつじゃないか? グムス様に光輪を直さないってことは価値のない天使ってことだろ? お似合いのペアじゃねーか」
ん……? 天界サイダーの新作、砂漠スライム味……?
ただでさえドギツイあのサイダーに……?
——狂ってる。
「これ4本追加で。あと袋も……」
————つい勢いで買ってしまった。
「またどうぞ~」
「ほら飲め、奢りだ」
クルーに見送られながら、俺はまず会計よこでペラペラとよく喋っていた天使ふたりのその口に天界サイダーの飲み口を突き刺してやる。
「ふごっ!?」
同じ反応を見せた二人の前を通り過ぎ、俺はショップを出ながら彼らの次の反応を伺う。
「な、何だこれ……ゲホッ、超苦いぞ……!」
「うわっ……それに、ほんのりクサい……!」
ハズレか……俺の分はメイリーに飲んでもらおう……。
こうして俺は、いつもよりちょっとだけ長めな買い物を終えて自分の部屋へと帰った。
次回 『なにかがおかしい』