へいわがいちばん
カブスの討伐に成功し嵐が過ぎ去った後、俺は復活したパルテに連れられ彼女の家に戻った。
あんなことがあった後だ、いつにも増して何もする気が起きない…………。
「このままソファーに根付くのも悪くないかもな~……」
「——悪いに決まってます」
「げっ……メイリー……」
天井を仰いでいた俺をメイリーが逆さに覗き込んできた。
「何で私になにも言わずに帰っちゃうんですか」
「いやだって……あのデカブツ倒したあと、自爆したパルテが素っ裸で生き返ったから服を取りに——つまり、付き添い?」
「………………見たんですか?」
「なにを?」
「服を着ていないパルテをです」
「そりゃまぁ、ティアラ渡されてたから俺の目の前で復活——」
——バチンッ!!
そのビンタは感覚的に首が一周くらい回った気がした。
「痛ったぁ!? なんだよ急に!!」
驚きのあまりソファーから立ち上がり頬を抑えてメイリーの方へ振り返る。
「クロンさんの変態! 最低です!」
「はぁ!?」
「何で復活してすぐ肌を隠してあげないんですか!?」
「普段から素っ裸同然の奴にそんな気遣いできるか!」
「パルテのあの服装は……! 服装は……」
「わたしの服が何?」
いつもの恰好をしたパルテが首を傾げながら自室から出てきた。
「素っ裸同然だって」
「そんなこと言ってません!」
「思ってるくせに」
「思ってません!」
俺とメイリーの会話をパルテはまるで他人事のように聞いていた。
「ていうかメイリー、俺たちもう帰っていいんじゃないの? あのデカブツ倒して嵐は去ったし、収穫祭だって再開できる感じじゃないし」
「それはそうですけど、海を覆った氷や死骸の片付けを任された天使が来るまでは私たちがここを離れるわけにはいきません。まずは島周辺の安全確認と————」
あー……これ帰れないやつだ。
そう諦めた時だった——
「心配しないで」
エスフェルが転移魔法を使い涼しい顔で俺たちの前に現れた。
「あなたたちの任務はもう終わり、帰っていいわよ」
「い……いいの!?」
「えぇ。私の任務が思ってたより早く片付いたから、あとは任せてちょうだい」
「本当に良いんですか、エスフェルさん。まだ嵐や魔獣の脅威が去った確認などが取れていないのですが……」
メイリー……! そこはお偉いさんのご厚意に甘えるところだろ……!
「そこも心配いらないわ、この辺りは既にいつもの平和なエリアに戻ってるから」
ふぅ……危ない危ない、もう追加の任務なんてやりたくないぞ……。
「じゃ、じゃぁ俺たちはこれで……! ほらメイリー、さっさと帰って次の任務に備えよう!」
「押さないでくださいクロンさん……! そんなに焦らなくても……」
「泊まり込みの任務なんて今回が初めてなんだから、早く帰ってゴロゴロしたいんだよ俺は……!」
「本音が漏れてますよ」
メイリーの背中を押しながら玄関へと向かう途中、俺はパルテとすれ違いざまに軽く手を振った。
「それじゃぁパルテ、元気でな~」
「……うん、ばいばい…………」
「また会いに来ますね」
「またね……」
ん~? 今なんか元気なかった?
いや、いつも無表情だし気のせいか。
その後、パルテの家を出てパトリア島を去った俺とメイリーは、一週間ぶりに天界へと帰還した。
ようやく任務から解放されのんびりと休められる——はずだった。
「メイリー」
クッションに体を埋め天井を仰ぎながらその名を呼ぶ。
「なんですか?」
「俺たちが帰る時、パルテがちょっとだけ元気無かったの気のせい?」
どうにも帰り際のパルテの様子が気になって気持ちが休まらない。
「クロンさんが帰るのを急いだから寂しかったんだと思いますよ……?」
「あぇ? そっち!?」
溜め息混じりのメイリーの返答に俺は思わずクッションから体を起こした。
「他に何があるんですか……」
「その……素っ裸同然とか言ったのが悪かったかなって」
「やっぱり最低ですね」
「うぐっ……」
メイリーの言葉がいつもより胸に刺さる。
「良かったら今度、クロンさんも一緒にパルテに会いに行きますか?」
「うん……そうしようかな」
「きっとパルテも喜びますよ」
戦闘中の脳筋具合を除けば結構いい奴だし、たまに顔を見せるのも悪くないかもしれない。
パトリア島でのパルテとの出来事を少しだけ思い返したあと、俺はショップに向かうため怠さを感じながらもクッションから立ち上がった。
「メイリーなんか要る物ある?」
「特には……」
そしてポイントカードを所持していることを確認し部屋を出ようとしたその時————両脇に大量の荷物を抱え廊下から静かにこちらを見つめるパルテと目が合った。
「お~パルテ」
ちょいどいいタイミングだ、ショッピングにでも連れて行って元気を出してもらおう。
「さっきはその、急に帰ってごめん……。ちょうど今から——ショップに————行くとこなんだけど…………なんで居るのぉ!?」
ここは天界、パルテとは今日別れたばっかり、今のこの状況は絶対おかしい……!
「え、なん、なんでここに居るの!?」
状況が理解できず斜め後ろでコーヒーを飲んでいたメイリーに目を移すと、彼女も俺と同じ状況に陥っているのかカップを持ったまま完全停止してしまっていた。
「来た」
「いや”来た”じゃない……!」
勢いよくパルテの方へ振り返り頭を抱える。
「なんで、来たの? 来て大丈夫なの!?」
ハーフエンジェルがここに居るとまずい、だからパルテも地上で暮らしてたはず……。
すると突然、部屋の出入り口の端からエスフェルが手を振りながら顔を覗かせた。
「ごきげんよ~。ごめんなさい急に……この子がどうしてもあなたたちと離れたくないっていうから、連れて来ちゃった」
連れて来ちゃったとか言われてもな~……でも、パルテの顔が見られたからなのか胸のつかえは取れた気がする。
「エスフェルさんが一緒に居るということは、パルテの天界での生活が認められたということですか……?」
「そういうことよ」
メイリーの問いに、エスフェルはパルテの頭をポンポンと叩きながら答える。
「実を言うと許可自体はアルト様から随分前に取ってあるの。数日前この塔の皆にも、ハーフエンジェルの子が来るかもって私から伝えてあるわ。この子があなたたちを追って天界に来ようとすることは分かっていたから」
この天使こわ……。
エスフェルはパルテの背中を押し彼女を一歩前に出させ俺たちに尋ねる。
「この子を頼めるかしら」
「もちろんです!」
「相部屋くらいなら」
メイリーに続いて俺は控えめに手を挙げて答えた。
「ありがとう。もしこの子が他の天使に意地悪されたりしたらすぐに教えてちょうだい。それじゃぁ、私は『神界』に戻るわね~」
彼女はそう言って廊下の柵を乗り越え、颯爽と塔の上の方へ飛び去って行った。
「エスフェルさん、色々ありがとうございました~!」
メイリーが慌てて部屋から身を乗り出し大声で礼を言ったあと、俺は目の前に立つパルテが両脇に抱える大量の荷物へと目をやった。
「この部屋に入る前に……その荷物を捨てろ」
「大事な貰いもの」
パルテがそう答えた直後、俺は彼女の抱えるカバンのひとつを強引に引っ張った。
「貸せ……! どうせ家の床にばら撒いてたガラクタだろ、そんなものにこの狭い部屋を占領されてたまるか……!」
「端っこに置かせて」
「断る……!」
カバンを引っ張られるパルテも抵抗してきたが、俺はなんとか力負けせず近寄った柵にまたがることに成功する。
「クロンさん! エスフェルさんに頼まれたばかりなのに、あなたが意地悪なことしてどうするんです——か!」
メイリーはそう言いながらテーブルに飾っていたぬいぐるみを投げ、完璧な精度で俺の顔面に直撃させた。
「ぶっ!?」
そのせいでパルテのカバンを掴んでいた手の力が緩み、体勢を崩した俺は柵から転がり地上に繋がるゲートへと真っ逆さまに落ちてしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その後、顔を見合わせたパルテとメイリーはクスッと笑い合い、共に部屋の中へと入っていった————
まぁ……いっか。
次回————新章スタート!!
クロン、ペットを飼う!?




