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天界ワースト  作者: 岩井碧月
隠れ家探しは預言者パルテ
16/31

ただのどていへん

 荒波の打ち付ける波止場に立ち遠方でカブスと戦うクロンたちを見守るメイリー。


「メイリー様! 島民や観光客の避難が完了しました!」


 男が報告にやってくるとメイリーはすぐさま嵐を凌ぐ結界を張って彼を迎える。

「ご苦労様です、あとは私たち天使に任せてください。すぐに彼ら避難民の元に戻って守りを固めるように」


「承知いたしました。 その……メイリー様」


「はい」


「お、お言葉ですが……この島を離れなくて本当に良かったのでしょうか。あんな怪物を相手にしながら私共を守るなど、なんといいますか……足を引っ張ってしまうのでは?」


「そんなことはありません。それに嵐のなか船で逃げるのも危険が伴います……一隻なら私も護送できるかもしれませんが、避難民の数と荷物からして数隻は必要ですから、途中で何かあった場合全員を完璧に護れる自信が今の私にはありません。なので、足を引っ張っているのはどちらかと言うと私の方なんです」


 そう答え笑顔を見せた彼女に男は慌てて跪いた。


「わ、私共は天使の皆様に護っていただいている身です! メイリー様が足を引っ張っているなど、決してそのようなことは……!」


「とにかく、ここは私たちに任せて皆さんと再度合流してください。ご報告ありがとうございました」


「はっ、承知しました……! メイリー様、どうかご無事で!」


「はい、ありがとうございます」

 男はメイリーに深く頭を下げると、力強くその場から立ち上がり彼女の張った結界から飛び出していった。



 一方その頃、カブスと対峙しているはずのクロンはというと——————


「………………」


 乗り上げた流木と共にただただ嵐の海を漂っていた。


「話が違う…………」


 俺がこの島に来たのは人の手伝いだ……百歩譲って嵐から島を守るところまでは良いとしよう。


「お前と戦うなんてこれっぽっちも聞いてないぞ!!!」


「エスフェルはだいたい肝心なところ言わないから気を付けた方がいい」


「うぉぉパルテ、いつからそこに……」


 流木から身を乗り出しカブスを指差していた俺の後ろでパルテが海面から顔を出していた。


「今上がってきたところ。ごめん、仕留め損ねた」


「ということは急所見つけたの?」


「うん、胸にコアがあった。次は絶対仕留める」


「ほんとにお願い……俺もうメンタルぼろぼろ」


 パルテが海から飛び出して間もなく、本体であろうカブスは俺たちを遠ざけようと激しい反撃を繰り出してきた。


 奴の体の向きが逆さになったことで海面から花びらのように広がった触手は音を立ててしなり、全方位に勢いよく振り下ろされる。


「ひっ!?」


 パルテに続き慌てて海を飛び出した俺は触手と触手の隙間を通り抜け、彼女の援護をするためカブスの目に近づき光の玉を放つ。


「頼んだぞパルテ!」


 しかしされるがまま同然だった最初のカブスとは違い、こっちのカブスは俺が魔法を放った瞬間に——目を閉じた。


「こいつ!!」


 光の玉はカブスの厚いまぶたに容易く防がれ、直後に奴の両手が俺を潰そうと左右から迫ってくる。


「さっきは無視してくれてたのに!」


 俺がカブスの反撃から逃げ回り始めると同時に、パルテが奴の隙を突き骨の刃を両腕から放つ。


 しかし彼女の攻撃がカブスの胸に届く直前、突如奴の表皮から滲み出た透明な液体が瞬時に凍り付き、その厚い氷塊が盾となってパルテの骨刃を受け止めた。


「ん……」


 僅かに驚きの表情を見せたパルテはすかさず宙を舞って更なる追撃を行って粘りを見せたが、スタミナが減り動きが鈍り始めたところを横から触手の突撃を受け海に叩き落とされてしまった。


「パルテ~! いま俺を一人にしないでぇ~!!」


 奴の両手に加え複数の触手が俺を捕まえようと追ってくる。


「いやぁ~!!」


 パルテが戦線復帰するまでひとまず遠くに逃げよう。

 カブスの狙いが俺になったなら、ついでにこいつを島から遠ざけられるかもしれない。


 そう考え進行方向を変えようとしたその時——突然海中からパルテの骨刃が複数飛び出し、攻撃を察知したカブスが防御のため生成した氷塊を貫通して奴の胸部を鷲掴みにする。


「お?」


 直後に海中から飛び出したパルテは、骨刃を操り大きく旋回して俺に近づき、なぜか頭に乗せていたティアラを投げ渡してきた。


「持ってて」


「え——な、なんで!?」


「あとよろしく」


「よろしく……? 待って待って、無理無理!! こんなデカブツ押し付けられても困る! ド底辺だから俺!!」


 しかし、彼女はいつものように俺の話に耳を貸さずカブスに突っ込んでいった。


「これだから脳筋は……!」


 カブスの懐に潜り込んだパルテは両手から鋭い爪を伸ばして奴の胸の厚い皮に突き刺し、嵐の音をかき消すほどの轟音と共に背中にある純白の翼から凄まじい光を放出し始めた。


「————終演(エグゼキュート)


 そして次の瞬間、パルテを中心に大きな爆発が起き、カブスの不気味な悲鳴が海に響き渡る。


 爆風に怯み顔を背けた俺が再びカブスの方へと目を向けると、奴の胸部は爆発によって赤い光を帯びたコアが露出していた。


「ないすパルテ!! トドメだ、いけぇー!!」


 とは言ったものの、視界の中にパルテが見当たらない。


「…………あれ?」


 俺は思わず左手に握っていた彼女のティアラに目を向けた。


 俺にティアラを渡し、”あとよろしく”なんて言ってカブスに突っ込んでいった脳筋パルテのことを考えると————


「まさか今の……自爆!?」


 ということは……今ここに居るのは俺だけで……あいつにトドメを刺さなきゃいけないのも、俺!?


「気付くのが遅かったぁー!!」


 急げ急げ! パルテは多分復活する——今はとにかくあいつにトドメを刺さないと!


 このチャンスを逃したらまた面倒なことになるぞ……!


 重症を負って前に倒れたカブスが両手から冷気を発し、凍り付いた海に両腕を埋める。


「ちょうどいい、奥の手使うか……!」


 暴風の中カブスの前方に回りながら光の棒を右手に作り出し、凍り付いた荒波を砕いて大きめな氷塊を作る。


 そしてその氷塊に光の棒を突き刺し簡易的なハンマーを完成させ氷の上を走り始めると、カブスはあの裂けた口を限界まで開いて何やら力を溜め始めた。


「やばい、急げ……!」


 暴風に煽られながら氷の上で滑りそうになりながらも急いで奴の胸のコアへと向かう。


「まぁ~……間に合え~……!」


 背後で攻撃を溜めるイヤな音が段々と大きくなる中、ようやくコアの目の間に到達した俺は足元の氷を強く踏み込んで大ジャンプし、空中でハンマーを思い切り振り被る。



「スーーーッ……必殺————物理!!」



 その一撃はカブスのコアを見事に破壊した。


 俺のようなド底辺を含む全ての天使に平等に与えられた力——物理。肉体を持たずマナというエネルギーひとつで活動できる天使にとって、人間や獣の馬鹿力を再現することなど容易い。


 宝石みたいに硬い魔獣のコアだってこの通りだ。


「勝ったぁー!!」



 カブスの体がうねり、倒れる————かと思いきや、奴は最後の力を振り絞り、大きく開けた口の中で溜めていた氷の魔法をパトリア島に向かって放った。



「嘘だろおい!! いや、島にはメイリーがいる……! なんとかしてくれるはず!!」



 同刻、既にカブスの魔法の前兆を視認していたメイリーは、島を背に海上で準備を始めていた。


「あれは対処できそうにないですね……」


 すると彼女はひとつの小さなオーブを取り出し見つめだす。


「この世界に移って早々に使う事になるとは……この調子ではすぐにもうひとつも使うことになりそうですね……」


 そう呟き目を閉じたメイリーは手のひらに乗せたオーブにマナを込め始める。

 数秒後、オーブが強い光を発して消失すると同時にメイリーの体が光を纏い、割れていた光輪が修復される。


 彼女が腕を軽く横に一振りすると前方に巨大な光の障壁が現れ、進路上の海面を凍らせながら迫るカブスの放った魔法を防ぎ切った。


 そして障壁にぶつかり弾け飛んだカブスの魔法は巨大な氷の壁となり、周囲の海を凍り付かせた。


「…………ふぅ……」


 メイリーが氷の壁を見て息をつくと同時に彼女の体が纏っていた光が薄れ、光輪が再び欠けていく。


「二人は無事でしょうか————あ、空が……!」



 カブスが氷上に倒れ嵐が消滅したことで、パトリア島に青い空が顔を覗け始めた。



 その頃同じく氷上に倒れていたクロンも、満身創痍の状態で青空を眺めていた。


「ぁ~………終わったぁ~…………嵐はもううんざりだ……しばらく海も見たくない…………」

次回 『へいわがいちばん』

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