てきざいてきしょ
翼を生やし嵐の海を猛スピードで駆け抜けるパルテ。
そして彼女の腕から伸びた鞭のように柔らかい骨で縛られ、雨に打たれながら荷物のように運ばれる俺。
「ぁぶぁぶぁぶぁぶぁぶぁぶぁぶぁぶぼぉふぁっ——!!」
猛スピードのあまり閉じない口の中でひたすら雨水が溜まっては吹き出しを繰り返す。
「パルテ……! もうちょっと——ゆっくり飛んで……! ぶぅぅ——溺れる……!」
「無理、スピード緩めたら逆に飛ばされる」
「お願い~! おぼぼぼぼごぼごぼごぼごぼ————」
パルテは嫌がらせのごとくスピードを上げ、俺はとうとう首すらも好きな方向に向けられず運ばれだす。
嵐の海に佇む巨大魔獣カブス近づくにつれ嵐は強くなりその不気味な姿も段々と大きく鮮明に映り始める。
大きな単眼に裂けたような口、背中にはまるで翼のようなヒレを持ち両腕は細く長い。
胸から上は獣というよりは人間寄りだが、腹から下は全てが触手で覆われていて魔獣そのもの。
できることならこれ以上近づきたくない。
「そろそろ準備して」
心の準備ならまったく出来てません。
「がはっ————帰りたい、帰りたい! もうこれ以上あのクソッタレ魔王の雨水飲みたくないんだけど!」
「じゃぁ早く終わらせよ」
「へ?」
「囮役、よろしく」
「その話、俺はまだ納得なんて———」
話の途中にも関わらず彼女を中心に速度を維持したまま大きく振り回された俺は、カブスの顔面に向かって勢いよく放り投げられた。
「ぃぃぃいいいいやあああぁぁぁああああああ!!」
この軌道はよくない——行き着く先はカブスの口だ——
「口をぉ~!! 開~け~る~な~!!」
俺は奴の顔面に向かって必死に光の玉を連射する。
しかし今日は嵐——更には投げ飛ばされた状態という最悪のコンディションの中で、この俺が狙い通りに射撃できるわけもなく、放った光の玉はカブスにかすりもせず全弾どこかへ飛んでいった。
「くそぉ~!」
そして次の瞬間奴の巨大な単眼と————目があった。
「ひぃっ…………!?」
喰われる————喰われる喰われる喰われる喰われる!
「ぎぃぃゃぁぁぁぁ!!!」
嵐に悲鳴をかき消されながら慌てて体勢を変える。
カブスの裂けた口が開く前にどこかに掴まろうと目いっぱい両手足を伸ばして身構える——————が、なぜかカブスの口はこれっぽっちも開かず、俺は速度を維持したまま奴の目の下にビタンと張り付いた。
「んげっ……!」
た、助かった……? なんで……?
メイリーとパルテの話だと、こいつの狙いは俺のはずじゃ…………。
「すぅ~、あれ~……?」
いや——いいんだこれで。
俺が狙われないことに越したことはない。
とりあえず、ここをよじ登って頭のてっぺんに行こう。
「よい、しょ……ほっ……!」
風が強すぎて気を抜いたら吹き飛ばされそうだ。
「ん、よっ……!」
そういえばパルテどこ行った?
カブスの厚く硬い表皮をがっしりと掴んで辺りを見回すと、俺の目に映ったパルテは見るからに攻撃寸前の構えをしていた。
「おい! ちょっと待っ——」
次の瞬間、宙を舞うパルテの腕から無数の骨の刃が竜のようにカブスに向かって伸び、奴の目玉を切り刻んだ。
パルテの攻撃を受けたカブスは衝撃で口をぱっくりと開き、不気味なうめき声を上げながら頭を後ろに傾ける。
「うぉぉぉ!? 飛ばされるぅぅ~!!」
だから待てって言ったのに!
カブスの頭が傾き結局体勢を崩してしまった俺は抵抗虚しく暴風に吹き飛ばされてしまう。
「あぁぅ!!」
やばい終わった————お、あれは!?
「ほぉ!! …………ふぅ……セーフ……!」
飛ばされた先でうねうねとしていた奴の触手にしがみつき、間一髪のところで助かった。
パルテはあんな風に天使の力で自身の肉体を好き放題に改造しながら戦うことができる……若干脳筋なところも相まって、あまり共闘したくはない。
でも——これは勝てたのでは?
「パルテ~、今のうちにここから逃げよ~! 俺もうこれ以上嵐に晒されたくない~……!」
「ダメ、まだ生きてる」
「いやいや、あんな無駄にデカい目玉を潰されて倒れない奴なんて……」
「グゥゥ——グァァァァァアアアアアア!!!」
カブスが咆哮をあげると同時に無数の触手から竜巻を起こし、周囲の海水を荒々しく巻き上げる。
「タフ過ぎだろお前ぇ~!!」
そして触手の竜巻に巻き込まれたあと空中に放りだされた俺は見てしまった————奴の目玉が完全に再生した瞬間を。
「——それは反則じゃない!?」
「仕方ない、心臓を狙う」
ほんとにこんな奴に勝てるのだろうか。
まぁ俺はどのみち大した戦力にはならないし、指示通り囮役に徹するとしよう。
「お~い、ほらほら~、捕まえてみろ~」
申し訳程度に光の玉を放つがやはり嵐のせいで一発も当たらない。
「ほら~、当たったら痛いぞ~」
しばらく適当に奴をおちょくっていたものの——全く相手にされなかった。
しかし、前線のパルテが遂にカブスの胸に強烈な一撃を入れることに成功し、奴の歩みが止まり大海原に不気味なうめき声が響き渡る。
「ないすパルテ! やっと帰れる!」
と思いきや————辺りの風が急激に強まりカブスの体を海水の渦が包み込む。
「あ、クロン離れて」
「まさか——また再生!?」
俺はすぐさま奴に背中を向けた。
しかし翼をばたつかせた時には既に背後で凄まじい波動音が鳴り響き————
「あぶぁぁ!?」
あっという間に波に飲み込まれてしまった。
………………もうイヤ。
次回 『かりょくぶそく』




