あらししゅうらい
翌朝————エスフェルの言った通り、魔王フロールのプレゼントこと嵐が夜明けと同時にパトリア島へやってきた。
「パルテ~、まさかこの家まで吹き飛んだりしないよね?」
「さぁ」
パルテのボロ家は既にあちこちから雨漏りがしていて、暴風の影響で微かに家が傾いている気もする。
「メイリー遅いな……」
夜中から町の見回りをしているメイリーが帰って来ない。
夜明けに合わせて一旦帰ってくるとか言ってたはずなんだけど……。
「暇だし、わたし探してくる」
「いってら~」
テーブルを前に椅子の上で仰け反りながら、家を出ようとするパルテの背中に手を振る。
するとその瞬間、俺の席の正面でバンっと大きな音がした。
驚いて音のした方向を向くと、外れたばかりであろう木製の窓が俺の目の前に迫っていた。
回避————
「んぶぁっ!!」
出来なかった。
椅子に座っていた俺は衝撃で勢いよく後ろに倒れ、床にうずくまって鼻を両手で抑える。
「ぐっ……おぉぉぉぉ~……!」
「大丈夫?」
パルテが困惑した様子で俺のところに駆け寄ってきた。
「鼻、鼻ある……? 取れてない……?」
「一応ある」
「一応……?」
パルテはそれ以上何も言わず傍に転がっていた窓を拾い上げ、強烈な雨風が吹き込む窓際へと向かった。
「直せるかな」
彼女は向かい風に逆らい雨に打たれながらも強引に窓をはめ直す。
「……直った」
絶対すぐに外れる——そう思った直後、ガタッと音を立ててパルテの目の前にある窓が外れかかる。
なんであれで直ると思った……。
「う~ん……ごめんクロン、わたしの代わりにメイリー探してきてくれる?」
「え~……まぁ仕方ないか、行ってくる……」
「ありがとう。これ直し終わったらわたしも行く」
「なるべくはやく来てね~……あれ? 鼻曲がってないこれ」
指先で鼻の形を何度も確認してパルテの家を出た俺は、道中何度も風に飛ばされそうになりながらも慎重に町へと向かった。
そして町に到着して間もなく、カフェのある通りで結界を展開し雨風を凌ぎながら数人の男たちと何かを話しているメイリーを見つけた。
「お~いメイリー……!」
————聞こえてないな。
「お~い、メイリー!」
風に飛ばされないよう壁伝いに進みながらメイリーの名を呼んでいると、彼女と話していた男たちが突然散り散りになってどこかへ走っていき、それと同時に展開されていた結界が解除された。
「メイリー! メイリー!」
「——? クロンさん!!」
やっと反応した……!
駆け寄ってきたメイリーが再び展開した結界の中に俺を入れてくれた。
結界内部は雨風に襲われることがないのはもちろん、それらの音も和らぎ程よい暖かさもあった。
「大丈夫ですかクロンさん!」
「なんとか…………風に飛ばされたらその勢いで天界に帰ろうかなとは思ったけど」
「冗談言ってる場合じゃないです! あれ見てください!」
「お~、なにあれ」
荒波の立つ遠方の海に巨大な影が佇んでいる。
「——————なにあれぇ!?」
「島の人たちから聞いた伝承によるとあれはカブスという太古の魔獣で、かつてこの島を守護していた天使によって封印された存在とされています」
「それがなんであそこに立ってるわけ!?」
「細かいことは分かりませんがただひとつ言えるとすれば、魔王フロールが起こしたのはただの嵐ではなかったということです」
「あ~、もう勘弁してほしい……!」
失敗した、ここに来る道中でわざと風に飛ばされて天界に帰るべきだった。
「とにかく島の守りを固めて一刻も早くあの魔獣を討伐しに行きましょう」
「いやいやいや、俺たちみたいなド底辺の天使にあんなの倒せるわけないって!」
「島を守るのが今の私たちの任務なんですから、やるしかないですよ? それに今回はパルテの協力もありますし、最悪クロンさんの力にも頼ることに——」
「言っとくけど俺はあいつに光輪が壊されるような距離まで近づかないからな!?」
「ピンチになったらの話ですよ……! 最初は私が前線張って様子を見ますから」
強い脱力感に襲われながらあのデカブツを楽に片付ける方法を考えようとしたその時、ちょうどいいタイミングでパルテがやってきた。
「やっと見つけた」
「パルテ、俺の代わりにメイリーと一緒にあいつ倒してきて!」
「クロンさん、何でこの期に及んでサボろうとしてるんですか……!」
「わたし戦うの苦手」
「そこをなんとか……!」
「んー、ならじゃんけんでここに残る人決めよ?」
——は?
「全員で行って全滅したら意味ないし、一人くらい島に残るのもあり」
「そういうことなら私も賛成です」
「おい勝手に話——」
「じゃぁ早く決めよ——」
パルテが勝手に地上世界の勝負に使われる掛け声を始めた。
そしてメイリーがそれに合わせて腕を振り始めたせいで俺は慌ててその流れに乗ったが、出す手をしっかりと考える余裕はなかった。
「じゃんけん————」
「ぽぉん!!」
結果……この島に来て以降不運続きの俺が負けたのは言うまでもない。
次回 『てきざいてきしょ』




