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天界ワースト  作者: 岩井碧月
隠れ家探しは預言者パルテ
12/31

あらしのまえの

「コソコソ————コソコソコソコソ————」


 日没直後の港町——俺はマントを深く被り込んで片翼と光輪を隠し、気配を殺して屋台の宝石商に近づく。


「コソコソコソ————」


「いらっしゃい」


「これ、買い取れる……?」


 あのエスフェルとかいう派手な天使にクリスタルをまるごと没収されてしまったのは残念だったが、ココニスに懐かれていた俺は幸いなことにあの小動物から採れたてのクリスタルを3粒ほど貰う事ができた。


 島に嵐の接近を報せたメイリーは今頃あれこれ手伝ってるだろうし、パルテも引っ越ししたばかりで忙しくしてる。


 このチャンスを逃すわけにはいかない——さっさとこのクリスタルを売って、明日の嵐に備えて市場にある美味しそうなものを買い漁るぞ! きっと買いたい放題だ!


 嵐から島民を守れって言われても、天候を操ったり大規模な防御結界を張れるような上級の天使は今この島に居ない。

 ド底辺の俺たちにできることと言えば、せいぜい荷を運んだり窓の補強を手伝ったり、客船を岸に繋ぐのを手伝ったりするくらいだろう。


「ほほぉ……なかなか質の——質の——質の良すぎる——こ、これは!?」


「シィー…………!」


「おっと失礼……まさか『コニスタル』の原石をお目にかかれる日が来るとは……」


「手短にお願い、こんなところで目を付けられたくないからさ」


 すると髭面の商人は少し難しそうな顔をしながら、ジャラジャラと音のする高そうな木箱を取り出した。


「恥ずかしながら、手元の金貨はこれだけでして……それら全てを買い取るのには少々足りないでしょう……」


 金貨って一枚でも結構な価値があるって聞いたけど……これだけあって足りないの?

 天界のポイント制と違って人間のお金はよく分かんないなー……。


「じゃぁ~……不足分はお金に代わるもので、なんか無いの? あ、宝石以外で」


「ふむ……でしたら良い物がございます————」


「ん……?」


 案内されるがまま髭面の商人についていくと、彼は港の端に係留させていた一隻の巨大な船の前で止まった。


「こちらで少々お待ちください」


 商人が船に乗り込んでしばらくすると、彼は大きめの木箱を抱え数人の乗組員を引き連れてぞろぞろと降りてきた。


「おぉ~……なにごと?」


 商人が俺の目の前に木箱を地面に下ろし、乗組員たちがそこに追加の木箱を積み始める。

「お待たせしました。こちら、知り合いの商人から買い取った物資になります」


「物資?」


 木箱の中身を確認するとそこには大量のニセポや干し肉などの保存食が入っていた。


「おぉ~!! あのニセポがこんなに!!」


「本当は嵐の影響で価格が高騰した頃に売る予定でしたが、あなたに譲りましょう。」


「いいの!? これ全部!?」


「もちろんでございます。では取引成立ということで、こちらにサインを」


「——ほい」


 俺は木箱の上に差し出された紙に適当にサインした。


「取引に感謝いたします」


「こちらこそ~。他には何があるかな~」


 ロウソク——釘——硬そうなパン————お! 飴だ!! それも見たことないやつ!!


「さっそく一粒…………おぉ~うまい!!」



「————天使様?」



 ——あ。



「もしかして、天使様ですか?」


 背後から聞こえる女の声に俺は背中を丸める。


「いや、違うかな……」


 まずい、バレる。


「天使様ですよね?」


 すると傍で俺の横顔をじっと見ていた商人がハッとした表情で口を開く。


「お~なんと、テベリスという名のカフェを手伝っておられた天使様ではございませんか!」


 声がデカいって……!


 どうやって目の前の荷物と一緒に逃げようかと考えていたのも束の間、周囲には既に人集りが出来ていた。


「ほんとだ、天使様だ」

「メイリー様と同じで、きっと我々を助けに来てくださったのよ」


 助けてほしいのは俺の方だ……!


「もしかして()()、私たちのために用意してくださった物資じゃない?」



 ————へ?



「本当だ! 天の恵みだ……!」

「みんなー! 天使様から物資が届いたぞー!」


「ちょ、待って待って、これはちが————ぶへっ」


 俺は突然押し寄せた人の波に呆気なく飲まれてしまった。


 満足した人々が去ったあと、その場に残っていたのは俺と一緒に人の波に飲まれた商人と、空っぽになった木箱だけだった。



 その後、パルテの家にて————



「うっ……ぐすっ……うぅぅ……俺のっ、ニセポ……うぅ……」


 俺は大量の金貨がこぼれ出た木箱を抱えて床に突っ伏し、ただただ泣いていた。


「まったく、変装までしてそんな悪人みたいな取引しようとするからですよ、自業自得です」

「売った分のお金はあるんだし、良いんじゃない?」

 メイリーとは違いパルテは慰めてくれるが、俺が失ったものはあまりにも大きい。


「よくないっ……だって……市場にニセポっ……飴もっ……無かったもん……うぅっ……」


「嵐の前に人から非常食を買う天使がどこにいるんですか、ダメですよそんなの……」


「俺だって……うっ……非常食……必要だもんっ……」


「はぁ…………」



 こんな目に遭うんだったら……天界にこもってる方がマシかもしれない……。


 帰りたいな…………天界。

次回 『あらししゅうらい』

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