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勇者失格。  作者: 匣茗
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三面鳥とゴブリン


少しばかり視界が開けると、大木が周囲に点々と立ち並び、その一角に前のパーティの野営の残骸が残されていた。


広場に足を踏み入れると、獣臭と腐卵臭が一気に強くなった。


短剣を抜き、逆手に構え警戒を強める。


生暖かい空気が一帯に立ち込むような気がしたが視界に入る景色は変わらず、木々のざわめきだけが駆け抜けていく。



頭上に複数の羽音。


「しっ!」

振り返り様に孤を描いた短剣は空を斬る。


羽音の主は全部で三羽、顔の数で表せば六つで眼球ならば十二個だ。


短剣を躱した個体が脚の鉤爪で横薙ぎの一閃を振るう。

それを左の手甲で受け、前傾姿勢となった胴に、順手に舞わした短剣を刺突するが空中に退避される。


「ちっ」

地上に下りた三面鳥達は先の個体を先頭に、扇形に陣取り、こちらの出方を(うかが)っている。


先頭がにじり寄る、それに合わせてこちらも後退する。


脚に何かがぶつかり、視線の隅でそれを捉えれば、折れた木の枝で吊るされた飯盒と焚き火の残骸であった。とすれば数m後ろにはもう樹海が広がっている。


 (…鳥類とまともに樹海でやり合う程、馬鹿ではない。)


腰の短剣を左手で抜き、前傾姿勢をとり臨戦態勢を整える。

が、左手の柄を握る感触に違和感を憶えた。どうやら先程の攻撃で巻いた鉤爪に腕を擦られたようで、掌に血が滴っている。

前方にも違和感。

見れば、先頭が前に出たことによる左右陣との遠近感が変わっていない。

後ろの二羽が包囲するように動いていた事に気づかなかったことに歯噛みし、つい舌打ちが漏れる。


「ふぅー」


ざわついた心を落ち着かせ、浅い呼吸を繰り返す。

咄咄(とつとつ)と左右の足を浅く宙に浮かし、次の

動作に備える。

先頭の三面鳥が痺れを切らし、ゆっくりと、こちらに感づかれぬように、前足を後ろに下ろし、攻撃の予備動作へ移っていくのが見えた。


 (…行くか。)


両手を前に構えた態勢から左手に持った短剣を宙に置くように前方に投げる。

空いた左腕を振るい、掌の血液を四散させると同時に、飯盒を吊った枝に右脚を踏み込んだ。


「ふんっ!」

梃子の原理で宙に浮かんだ飯盒を蹴りぬき陣形の後方へ飛ばす。

三面鳥の意識が一瞬だけ、宙に浮いた短剣と飯盒に移る。


だが十分だ。



粉塵が舞う。


前方の三面鳥の胴に刺突を浴びせ、刺した短剣を上に流せば臓腑の感触が刃伝いに感じられた。


怯んだその隙を見逃さずに右手には腰から最後の短剣を順手に抜き、左手には浮いた短剣を逆手に捉え、二対の眼球を挟み込むようにこめかみからくり抜いた。


奇声が鼓膜をつんざく。

即座に両対の目から短剣を抜き、向かってくる後方の二体へ意識を向ける。


突進してくる二羽の間を駆け抜け、樹海へ走る。


視野の悪い樹海を駆け抜けると、地響きのような音が左右から同じ速度で聞こえてくる。

それは何度進路を変更しても瞬く間に修整され、二羽は必ず俺を挟み込むような位置を取ってくる。


(好都合、だな)


舗装路に出たところで急激に足を止める。

好機とみた二羽が舗装路に沿うように速度を上げ、一直線上に接近してくる。


互い互いが間合いに入るその手前、二羽は両翼を広げその空気抵抗で姿勢を反らし、鉤爪を俺の頭に狙いすます。


鉤爪が髪の端を捉えるその刹那、膝から上体を重力に預けた俺の体は文字通り直角に折れ曲がった。


二羽がそこに標的がいないことに気づいた時には、既に相手の鉤爪が自身の胸に食い込んでいた。




痛みに奇声をあげる二羽。

だが苦しみ、もがき暴れる程、その爪先は深く食い込み、二匹は絡め合うように互いの命を削ってゆく。

段々と動きが乏しくなる二羽の下から這いずり出て、その喉元に短剣を突き刺す。

完全に停止した二羽の解体を始めようとしたところで、日が暮れ始めている事に気づき、思わず嘆息がもれる。



 (…こいつらを回収している暇はないか)



樹海の上空は紅く染まり、樹の影が舗装路を明暗の二色に切り分けていた。


広けた場所に戻ると、もがいた上に失血死したと見られる三面鳥が青色の血の(わだち)(のこ)し、息絶えていた。

相変わらずの腐臭と糞を煮詰めた臓腑の交錯に思わず鼻をつまみ、追加の薬丸を飲み干す。



残るは盗賊のレオン・モノロフを探し出し、遺体を回収、するはずだった。


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