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勇者失格。  作者: 匣茗
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生業

冒険者ギルド。この世界において冒険者とは切っても切り離せない組織で、依頼の斡旋から冒険者育成、果てには連合国家の提携組織などその影響力は多岐にわたる。

だが、こいうった街の冒険者ギルドはほぼ似たり寄ったりな物である。木組みの平屋、掲示板の前で頭を抱えるパーティ、受付嬢への報告すら下卑た中年男性。

その雑踏の中を素通りし、手空きの受付に向かう。


「おはようございます!今日はどのような御用ですか?」

張り付いたような愛想笑いを浮かべ、小麦色の獣耳を揺らす受付嬢。反射的にこちらも愛想笑いを浮かべながら受付台に羊皮紙を置く。

「捜索依頼でお願いします。」

受付嬢の柔和な笑顔に一瞬陰りがさす。それを誤魔化すように、慣れた手付きで台の下から手続き書類と羽ペンをこちらに差し出した。


「…はん、"パーティ殺し"は今日も大忙しかい?」

隣の受付から嬢にあしらわれ、手持ち無沙汰となった小太りの中年が薄ら笑いを浮かべながら立ち去って行った。気に留めることすら癪に触るような奴に構う暇は無い。


宿屋の主人に渡されたリストに載っているパーティは全部で五組、いずれも冒険者ギルドで最後に依頼を受注してから二週間以上、依頼の成否の報告すら行なわれていないパーティである。リストの上から三つ目に目印をつける。


…編成は男一人と女二人。役職はそれぞれ順に盗賊、回復魔術士、祈祷士。亜人種はなし。受けた依頼は三面鳥(さんめんちょう)とゴブリンの討伐…か。


三面鳥は基本、森や樹海の奥に生息する二m程の一対の顔を持った怪鳥で獲物を捉えた場合手頃な樹の枝などに突き刺し保存するなど、モズの早贄のような行動をする。

だが、魔力が通っている物質や獲物の肉を嫌い、春先の繁殖期となると、コボルトやゴブリンなどの夜行性の魔物と縄張りを共有し卵を守るなど、モズの生態とは似て非なる点も存在する。この時期になると繁殖期の魔物達による被害が増加し、同時期に増える新米の冒険者達が自身の力量を測るにはうってつけの依頼とされている。

そして、なにより三面鳥は魔力の籠った防具を嫌う。すなわち、俺が回収出来る防具が比較的多い可能性大だ。


 …損害が最も軽微そうなのはこいつらだな


「森の方から回るか。」

明らかに無愛想となった受付嬢に用紙を渡そうとしたところで、毎度お約束のそいつは現れた。


「ねぇ、まだそんな依頼せこせこと続けるつもり?」

後ろからの苦言に振り返ると、透き通る紅を(なび)かせた少女が腕を組みながら仁王立ちで行く手を阻む。


「キャロル、もうよそう」

その仲間と思しき青年が嗜めるように駆け寄るが、赤毛の少女、ギルド名誉会長の娘、キャロル・ロゼリアは相変わらず薄っぺらい虚栄と胸板を精一杯張ってこちらを睨んでいる。


「ねえ、きいてる?いい加減一匹狼気取るのやめたらって言ってんのよ。」

気づけばギルド内の冷ややかな注目がこちらに集まっている。


「…お嬢がまた"パーティ殺し"をご指名だとよ。」

「はん、てめぇの力量じゃ魔物一匹すら狩れねぇ奴が、権威にはハイエナみてぇに群がって腹見せてやがる。気に食わねぇ。」

昼間からエールを煽る二人組。大方、依頼とナンパに失敗した愚痴溢しだ。

「けれど噂によりゃあ、奴は夜の相手は一流らしい。何しろ犬だからな、舐めるのはお得意ってわけだ。」

下衆共の下卑た笑いは嫌にギルド内に響く。そろそろこういった手合いとも一度白黒をつけなければ今後の計画にも支障が出かねない。何より今は目の前の怒り狂った闘牛がどこに噛みつくか分かったものではない。


「いい、俺なら慣れてる。」

「っそういう問題じゃ」

「悔しいが奴らの言い分も一理ある、俺自身、今の俺じゃあお前と釣り合いそうにないと思ってる。ありがたい話だがまた今度にしてくれ。」

「まだ何も言ってないじゃない…」


「それに、俺はもうパーティを組む気はない何回も言ったはずだ。」

言葉尻を強く、引き離すような態度で威圧する。

拗ねたように渋々と引き下がるキャロル。


「あの件のことならもう水に流してあげてもいいのに…」

去り際にキャロルがそんな事を呟いていたが、聞こえないふりをしてギルドを後にした。


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