表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/225

第5話 羞恥心

「ひ、姫……様……。く、苦し……です……」

「あっ! ご、ごめんシリルっ!」


 ギュッとしてしまっていたシリルから、慌てて手を離すと。

 彼は両手を胸元に置き、呼吸を整えてから、


「い、いえ……。僕の方こそ、あの……す、すみませんでした。それと、あの……ありがとう、ございました」


 お詫びとお礼を言い、ニコッと微笑んだ。


「――っ!……シ、シリ――」

「ダメだ! そこまでだよ、リア!」


 天使の微笑みにクラっと来て、もう一度抱き締めようとした私の腕を、ギルが後ろからガッシリつかむ。


「もう充分だろう? シリルも泣きやんでいるようだし……これ以上の抱擁(ほうよう)は必要ないよ。彼にだって、刺激が強すぎる」

「は? 何それ? しげっ……き?」


 そこまで言って、我に返る。



 そーだ!

 私、胸元の開いたネグリジェを……!



 早く隠したいのに、ギルの手が邪魔をしていて隠せない。

 私はカーッとなって、顔を後ろに向けると、力一杯叫んだ。


「ギルっ、手を離してッ!! 見ちゃダメぇえええーーーッ!!」

「見てないッ!! 私は見ていないよ!……かっ、顔を背けているから、大丈夫だ。心配しなくていい」

「そんなのここからじゃわかんないよッ!! とにかく手を離してってばぁあああッ!!」

「わ、わかった! 今離す! 離すからっ」


 ギルの両手が離れると、私は慌てて胸元を押さえ、くるりと振り向く。


「ギルのバカバカッ!! この……っ、ドスケベ王子ぃいいいいーーーーーッ!!」


 顔から火の出る思いで、めいっぱい非難すると。

 彼は背けていた顔をゆるゆると正面に向け、不思議そうに訊ねた。


「ドスケ……ベ? それも、向こうの世界の言葉かい? いったい、どういう意味の――」

「ああもぉッ!! うるさいうるさいッ!! 今はそんなことどーでもいーでしょッ!? とにかくギルは、バカでいやらしくてすぐに嫉妬する、呆れたお子様だってことよッ!!」


「な――ッ!……それは、いくらなんでも言いすぎじゃないのか? すぐに嫉妬してしまうのは認めるが、今だって、ちゃんと目をそらしていたし、いやらしいことなどしていな――」

「そんなのっ、私が振り向いてからそらしたかもしれないじゃないっ! 私が見てないうちのことなら、いくらだってごまかせるよっ!」


「リア!……君は、本気で言っているのか? 私の言うことが信じられないと――?」

「そっ……そうじゃない、けど……。でもっ」


「やめてくださいっ!! お願いだからケンカしないでッ!!」


 私達の言い合いがひどくなることを恐れたのか、シリルが大声で割って入って来た。


「シリル……」


 初めて聞く、シリルのめいっぱいの大声に、私もギルもびっくりして、呆然と彼を見つめる。

 私達の視線に気付くと、シリルは恥ずかしそうに顔を赤らめ、


「あ……。ご、ごめんなさいっ。僕、あのっ……つい……」


 消え入りそうな声で告げると、体を小さく縮こめた。


「ううん。ありがとう、シリル。私達のこと、心配してくれたんだよね?……ごめんね。みっともないとこばっかり見せちゃって……」

「い、いえっ、そんな!……あ、でも……僕、お二人のこと大好きだから……。だから、ケンカは……えっと、やっぱり……あんまり見たくない、です」


 モジモジとしながらも、一生懸命気持ちを伝えてくれるシリルに、しみじみジーンとしてしまう。



 やっぱり、いい子だなぁ……。

 こんな子が側にいてくれて、ホントに恵まれてるよね、私……。


 ……ううん。

 シリルだけじゃない。私の周りは、いい人達ばっかりだ。


 恵まれた環境が当たり前みたいになって来て、つい、忘れてしまいそうになるけど……私は本当に、とことん幸せな人間なんだよね。

 素敵な人達をガッカリさせないためにも……私ももうちょっと、言葉も態度も、気をつけなきゃいけないなぁ……。



「ギル、ごめんなさいっ。ついカッとなって、ひどいこと言っちゃった」


 即座に反省した私は、ギュッと目をつむり、九十度に近い角度で頭を下げた。



 いくら恥ずかしかったからって、あそこまで言うことはなかったよね。

 ギルだって、ちゃんと目をそらしてくれてたに決まってるのに、疑っちゃったりして……。



「いやっ。も、もういいよ、リア。だから、その……早く顔を上げてくれ。そうしてくれないと、また胸が……」

「へ? 胸……?」


 私はパチっと両目を開き、ゆるゆると視線を下に向けた。

 視線の先には、大きくぱっくりと開いた襟元と、見事に丸見えな胸の谷間……が……。


「キャーーーーーッ!! 嫌ぁああああああッ!!」


 力いっぱい絶叫し、私は目の前のギルの体を、ありったけの力を込めて突き飛ばした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ