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第4話 みっともない王子

「だから、シリルも被害者なんだってば。私より先に、アセナさんに襲われちゃってたの!」


 シリルの頭を撫でながら、ギルがこの部屋に現れるまでのことを、詳しく話して聞かせると。

 彼は一応、納得したようにうなずいてくれたんだけど……それでもまだ、気持ちは穏やかではいられないようで。


「そのことについては、心から同情するが……。なにも、抱き締めることはないだろう? 言葉で(なぐさ)めれば済むことじゃないか。……とにかく、今すぐに離れるべきだ! シリルは、これから騎士になる男なんだから、いつまでも幼い子供のように、女性に身を委ねて甘えているようでは、先が思いやら――」

「あーもーッ、うるさいうるさいッ!!」


 いつまでもグダグダグダグダと、さも面白くなさそうに言って来るギルにイラッとして、つい大声を上げてしまった。


「リ、リア……」


 今度は、叱られた子供のように情けない顔をする彼に、内心『か、可愛い……』なんて、許してしまいそうになったけど。

 私はふるふると首を振り、心を鬼にしてたしなめる。


「ギルってば、子供っぽいヤキモチ焼くのもいい加減にして! シリルはまだ十一歳なんだよ!? ギルみたいに大人じゃないんだよ!? もしかしたら、初恋だってまだかも知れないのに……。なのにいきなり、どこの誰かもわからない大人の女の人がふぃ~って現れて、初めてのキスを、強引に奪ってっちゃったんだよ!? しかもかっ――……か、下半身まで触られちゃったりして……。それだけでも、シリルがどれだけ傷付いてるか。ギルにだって、想像くらい出来るでしょっ?」

「……そ、それは……」


 言葉に詰まり、ギルは辛そうに視線をそらす。

 すると、それまで私達の様子を、舞台を見物に来た観客よろしく、悠々(ゆうゆう)と眺めていたアセナさんが、


「――っく!……ハッ、ハハッ! アハハハハハッ! おっかしぃ~~~っ!!……ギ、ギルフォード様ったら、そのお姫様にデッレデレなのねぇ~~~? しかも、どー見てもお姫様の方が立場強いじゃない。まさか、あの外面(そとづら)――……っと、体裁(ていさい)だけは、どこにいても保ち続けてた第一王子が、恋人の前だと、こうも情けなくなっちゃうなんてねぇ……。フッ、フフフッ。カッコ悪ぅ~~~いっ」


 突然大声で笑い出し、足をバタバタさせながら、ギルを挑発するようなことを言って来て……。


「うるさいッ、黙れ無礼者ッ!! 誰がいつ、私達のことに口を挟むことを許した!? おまえはそこで大人しく、朝が来るのを待っていればいいんだ!!」


 顔を真っ赤にしてギルが言い返すと、アセナさんは笑いを堪えながら、


「あら、べつに照れることないじゃない? あたしは、いつもの澄ましたギルフォード様より、今の、情けなくてみっともない、ギルフォード様の方が好きよ? 普段のあなた、完璧に見せようとしすぎてて、面白みがないんだもの。あたしは断っ然、つまらないことで、小さな男の子に対して嫉妬したり、年下の恋人に叱られて、シュンとしちゃったりしてる、お子様みたいなあなたの方を推すわ」

「――っ!」


 アセナさんにからかわれ、ギルは悔しそうに歯噛みしている。

 私は二人を見つめながら、さっきのアセナさんの言葉が、妙に引っ掛かって……ちょっとだけモヤモヤしていた。



 『情けなくてみっともない、ギルフォード様の方が好きよ?』……って……。


 ……ううん。

 特に深い意味なんてないんだろうけど……。


 でも、さり気なく『好き』だなんて言われちゃうと、それがたとえ、『いつものあなたよりはマシ』って意味で言ったんだとしても、なんだかドキッとしちゃって……。



「考えすぎ……だよね?」


 思わずつぶやくと、ギルがすかさず振り返って、


「リア? 今、何か言ったかい?」


 訊ねてから、怪訝そうに小首をかしげた。


「あ……。う、ううんっ、なんにもっ! なんにも言ってないよ?」

「……本当に?」

「うん。ホントに」


 笑って答え、気持ちをごまかすために、シリルをギュッと抱き締めて、何度も何度も頭を撫でた。


「リア! また君は――っ」


 ハッとしたように言葉を切ると、ギルは悔しそうに唇を噛む。



 ……たぶん、思いっ切りヤキモチ焼いてるんだろうけど、アセナさんの手前、グッと我慢した――ってとこだろうな……。



 ギルの気持ちが、他にそれたことにホッとしつつも。

 胸に何かがつかえたような、気持ち悪さが残り……私はますます強く、シリルを抱き締めてしまうのだった。

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