第10話 良い子すぎる天才剣士
ぶるぶる震えながら、一緒に眠ることを拒否し続けるシリルを、どうにかこうにか説得して。
彼と私は、今、ようやく同じベッドの上で横たわっていた。
シリルは仰向けで目をつむり、胸の上で両手を組み合わせて、まるでお祈りしてるみたいに見える。
私は月明かりがまぶしいせいか、なかなか寝付けなくて、しばらく右を向いたり左を向いたり、はたまた正面を向いたりと、落ち着かなかった。
まんじりともしない状態に、とうとう耐えられなくなった私は。
シリルの様子を窺いながら、そっと話し掛けてみた。
「ねえ、シリル。……もう眠っちゃった?」
「い、いえっ! まっ、まだ、起きてますっ」
すぐさま反応が返って来て、ホッとする。
だって、もし眠ってたんなら、起こしちゃったことになるし……そんなの、申し訳ないもんね。
「今日はごめんね。ギルが変なことばっかりして……。あの……あーゆー人ではあるんだけど、悪い人じゃないんだよ?……えっと、だから……出来れば、嫌いにならないで欲しいな……なんて……」
さっきまで散々怒っていたクセに、妙なものだと、自分でも思うけど。
何故か私は、ギルの弁護をし始めた。
「あのっ、普段はね、あんな感じじゃないんだよ? もっと頼りがいがあるってゆーか、堂々としてるってゆーか――この国の人達には、すごく好かれてるって話だし。弟のフレディなんかね、『今すぐにでも、国王になっていただきたいくらいだ』とかなんとか言ってるしね、その……。とっ、とにかく、私の前だとあんな風になっちゃうけど、他のところでは、ちゃんと……ちゃんと王子っぽいってゆーかっ!」
そこまで言うと、シリルは顔だけこちらに向けて、
「姫様……? あの、僕……ギルフォード様は、とても素敵な方だと思ってます、けど……?」
「えっ!?」
意外な言葉が返って来て、思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
「え……? だっ、だって、シリルの前でギル……変なとこしか見せてなかったよね? それでどーして、素敵だなんて思えるの?」
彼はにっこり微笑むと、こちら側に寝返りを打ち、
「ギルフォード様と姫様は、ご婚約なさってるんでしょう? でしたら、ギルフォード様の行動は、当たり前だと思います。……ギルフォード様を見てると……あ、いえ、拝見してると、姫様のことが、好きで好きでたまらないんだなぁってこと、すごく伝わって来て……僕、嬉しくなっちゃうんです。姫様のご婚約者が、姫様のことを、誰よりも大事に想っててくださる方で、よかったなぁって」
「……シリル……」
びっくりした。
まさかシリルが、そんな風に思っててくれたなんて……。
一方的にヤキモチ焼かれて、『シリルだって男だよ』なんて、信頼もされてなくて……。
きっと、傷付いたり、嫌な気持ちになったりしてるんだろうなって、思ってたのに……。
「僕の大好きな姫様を、あんなに大好きでいてくださるギルフォード様……僕、大好きです。……あ、でも、姫様ほどではないですけど……」
「シリル……」
「あっ。ご、ごめんなさいっ! 『姫様ほどではない』なんて、失礼ですよね……。でもっ、ホントに好きですからっ! ギルフォード様のことっ、僕、ホントに――っ」
「シリル!」
嬉しくて、つい、彼の頭を抱き寄せて、ギュウっと抱き締めてしまっていた。
「ひっ、姫様っ?」
胸元で、シリルのくぐもった声が聞こえたけど、構わず、更に強く抱き締める。
これはいつもの発作じゃない。
今、シリルを抱き締めてるのは、『萌え』じゃなく、『感謝』の気持ちの表れだ。
可愛いから抱き締めたんじゃなくて――嬉しいから抱き締めた。
嬉しくて、幸せで……抱き締めずにはいられなかったから。
「ありがと、シリル。シリルの気持ち、すっごく嬉しい。ギルのこと、よく思ってないんだろうなぁって、勝手に心配しちゃってたから……。だから、シリルが彼のこと――ギルのこと好きになってくれて、本当に嬉しい」
「姫……様……」
ああもうっ。ホントに、なんて良い子なんだろ?
こんなに良い子のこと疑うなんて、ギルってば、やっぱりよくないよ。
一方的に怒って、ギルを隣の部屋に閉じ込めちゃったこと、後悔し始めてたんだけど……。
でも、やっぱりこれでよかったんだ。
シリルの純粋な心を疑うようないけない人は、冷静になって、ちゃんと反省してもらわなきゃ。
「シリルが無事でいてくれて……ホントによかった」
頭を撫でながらつぶやくと、シリルが、ハッと息をのむ気配がした。




