第5話 一日を振り返って
二人がバスルームに消えてから、かなり経ったけど、ギルはなかなか戻って来ない。
シリルに、お風呂の使い方でも教えてあげてるんだろうか?(一般のお風呂と王族のお風呂では、いろいろと違ってるってこともあり得るし)
それとも……シリルに何か、個人的な話でもしてるのかな?
まあ、なんにせよ。
暇を持て余した私は、ベッドの上で仰向けになり――眠ろうとしていたワケではないんだけど、特にすることもなかったので、なんとなく目をつむった。
あー……。
今日もなんだかんだで、疲れたなぁ。
長い……長い一日だった。
朝から、いきなりフレディに出くわしちゃって、こき使われたり。
スカートの中まで見られちゃったり。
思いっ切り口すべらせて、怪しまれちゃったのを、通り掛かったウォルフさんに救ってもらったり。
部屋に戻ったら戻ったで、ギルがなかなか起きないからって泣いてるとこを、またしてもウォルフさんに見られちゃったり……。
その後は、ウォルフさんのお部屋で朝食をいただきながら、彼の話を聞いて……『かけがえのないお方』とか言われちゃったり。
また部屋に戻って来たら、ギルが目を覚まして……。
それで嬉しくって、つい……自分からキス、しちゃったり、とか……。
……それで、二人でちょっとモニョモニョしてたら、フレディがやって来て、隠れて、見つかって……。
それから何故だか、フレディにキスされそうになったり。
ギルが怒って、フレディが怯えて、二人が気まずい雰囲気に……。
フレディが部屋から出て行ってからは、ギルの傷痕見せられたり、もうすっかり治ってるってことを知らされたり……。
その後、辛い過去の話聞いて……またギルが妖しく迫って来たりしてたら、ウォルフさんが昼食持って現れて……。
昼食と言えば――ウォルフさんのサンドウィッチ、めっちゃ美味しかったなぁ~……。
明日も作って来てくれるって言ってたし……えへへっ、たっのしみぃい~~~っ!
……あ。
でも、さっきのクレープも美味しかった!
ギルのせいで、あんまり楽しい気分では食べられなかったけど……それでも充分、美味しいってことは感じられたもんね。
ウォルフさんって、やっぱりすごい。
ギルの傷の手当てなんかも出来ちゃうし、何をするにもテキパキとしてて、そつがないってゆーか……。
だけど、意識集中すればドアの外からでも中の会話筒抜け――ってのは、ちょっと怖い……かな。
結局、いつもいつも、ギルとの会話が丸聞こえだったからこそ、何度も私のピンチに現れては、助けてくれてた……ってことだもんね?
――ああ、それから。
満月の夜には、部屋から出られないって話。
気にするなって言われても、やっぱり、どーしても気になっちゃうよねぇ?
今夜、彼の身に……いったい、何が起こるってゆーんだろ?
――ううん。もしかして、すでに起こってたりするのかも……。
きっ、気になる……!
今すぐ彼の部屋に行って、『ドアの隙間から、こっそり中を覗いちゃおうかな?』なーんて思っちゃうくらい、気になる! 気になるったら気になるっ!
「覗きに行くとしたら、今がチャンス……かも……」
無意識につぶやいてから、ハッとして、大きく首を横に振る。
ダメダメっ! 覗くなんて絶対ダメッ!!
それこそ、はしたないってもんだし。
一応、私も一国の姫なんだから……そんな恥ずかしい真似、死んでもしちゃいけない。
そーよ!
どんなに覗いてみたくても……どんなに……どんなに気になっても……。
うぅ~んっ、ダメダメダメダメッ!!
覗いたりしちゃいけないんだからぁっ!
「リア……? ベッドの上で、何を一人で身悶えているんだい?」
右に左に、体をバッタンバッタンさせていたら。
突然、ギルの声が降って来て、私は慌てて半身を起こした。
「ギルっ!……ち、違うの、これは――っ」
言い訳しようと、ハイハイするみたいにして、彼の側に近寄って行くと。
思いっ切りギョッとしたように、彼は私から顔を背けた。
「もうっ、なんなのよさっきから!? どーしてこっちを見ようとしないのっ?」
ムカつきと不安が半々くらいの気持ちで、彼の手を取って引っ張る。
ふいに不安になって、
「もしかして、私……また何か、ギルを怒らせるようなことしちゃったの?」
彼を見上げながら、恐る恐る訊ねると。
「いやっ、違うよ! そういうことでは、なく……。だからそのっ……胸……が……」
一瞬、チラッとこちらを見て、すぐにまた、顔を背けてそう言うと、ギルはゆっくりと、私の方を指差した。
「へ?……胸?……って――……あッ!」
そーだった、服!
ネグリジェの胸元がっ! 服のサイズがっ!
……あぁあああっ!
お風呂上がりはあんなに気にしてたクセに、なんで今の今まで、忘れちゃってたのぉおおおーーーーーッ!?
素早く胸元を両腕で抱えると、私は倒れ込むようにして、ベッドにうつ伏せになった。