第4話 ベッドは誰が使うべき?
目が合うのを避けるのは、嘘をついてる証拠じゃ……?
そう思った私は、頑として譲らず、
「ダメだよ、そんな風に楽観しちゃ! やっぱり、横になってた方がいいってば。考えてみれば、昨日の今日で、そこまで元気になれるワケないんだよ。見た目は回復してるようでも、体の中の方では、まだ回復し切れてないのかも知れないじゃない。……ねっ? シリルと一緒に、ベッドで休んでよう?」
彼の手を思い切り引っ張り、ベッドへと誘導する。
「えッ!?……シ、シリルと一緒にって……。まさか、本気で言っている訳ではないだろうね?」
「え、どーして? もちろん本気だよ? だって、ベッドはひとつしかないんだし、ギルとシリルは怪我人でしょ。二人がベッドを使うのが当然じゃない。私は隣の部屋のソファを使わせてもらうから、大丈夫! 遠慮しないで、二人でベッド使って?」
「え、遠慮するなと言われても……」
ぐいぐいと腕を引っ張る私の後を、大人しくついて来てはいるものの、チラッと後ろを振り向くと、彼はまだ困惑顔で――私と目が合ったとたん、ふいっと横を向いてしまった。
私はちょっとムッとしながら、
「ほらっ、早く!――シリル、ごめんね。ベッドの横、使わせてあげてくれる?」
ベッドでポカンと口を開け、私達の様子を窺っていたシリルに、お願いしてみる。
すると、彼は見る間に顔面蒼白になり――。
「そ、そんな……。ギルフォード様と、なんて……。そんな……そんな恐れ多いこと、出来るはずありません!……あの……えっと……そ、そう! 僕が! 僕がそのっ、ソファの方を使わせていただきますっ――ので、どうかこのベッドは、お二人でお使いくださいっ」
「だろう、シリル!? 君もそう思うだろう!?――うん、やはりそうだ。そうでなければいけない。このベッドは、私とリアで使うべき――」
「何言ってるのよギルっ!? シリルは病み上がりなんだよっ!? そんな人を、ソファでなんて寝かせられるワケないじゃない!」
……そりゃあ、大きくてフッカフカなソファではあるけど……。
でも、それでもやっぱり、シリルをソファでってゆーのは、気が引けちゃうもん。
健康体の私がそこで眠れば、何の問題もないんだから!
「いや、しかし……。男二人で同じベッドと言うのも、いささか気色悪くはないかな? シリルも、私が隣りにいては、気が休まらないだろうし……。やはり、恋人同士である二人が共に眠るのが、一番自然で、納得行く答えなのでは――」
「もうっ、ギルってば! 恋人同士がとかなんとかって、今はそんなこと関係ないでしょっ? 健康体は私だけなんだから、私がソファで眠るのが一番いいの!……ねっ? ここは病み上がりの二人で使って?」
「で、でも、あの……ひ、姫様っ、僕――っ」
シリルは珍しく大声で、泣きそうな顔で言い張る。
「僕、困りますっ!! ベッドは、ギルフォード様と姫様がお使いになるべきですっ!!」
「シリル……。でもね、あなたは病み上がりなんだし――」
「そんなのもう、全然平気ですっ! 本当に大丈夫なんですっ! だから――っ」
うるうると瞳を潤ませ、訴えるように見上げるシリルを見ていたら、私はまた、誘惑に負けそうになり――。
……ああ、ダメ……。
理性が……理性が飛んじゃいそう……。
「シっ、シリル! ここはひとまず、ゆっくり湯浴みでもしておいで。リアは私が説得しておくから。――ね、湯浴みをしよう! 昨夜は汗もたくさん掻いただろうし、気持ちが悪いだろう? 着替えはウォルフが用意して、すでにあそこに置いてある。ほらっ、私が案内しよう。こちらへ、早く!」
私が自分の理性と欲望の間で必死に闘ってる中。
ギルは、何故か慌てたように、シリルの手を引いてベッドから下ろすと、着替えとタオルを手に、バスルームへと一直線に歩いて行った。
そして、我に返って私が振り向いた時には、二人の姿は、とっくにバスルームの中へと消えた後だった。
……あ、危なかったぁ……。
もうちょっとで、またシリルを、ぎゅむむむって抱き締めちゃうとこだった……。
……って、ん――?
もしかしてギルは、私にそれを回避させるために、シリルをバスルームに連れて行ったのかな?
そんなことを思いながら、私はバスルームの方をボーっと見つめ、しばらくの間その場に突っ立っていた。




