第3話 サイズ違いの夜着
ウォルフさんが用意してくれていた服は、私がいつも寝る時に着てるネグリジェと似たようなものだったんだけど、着替えてみて愕然とした。
サイズがちょっと大きいせいなのか、胸元が結構開いちゃってて……。
このままじゃ、屈んだだけで、胸とか下着とかが見えちゃいそうだった。
……どっ、どーしようっ!?
メイド服と、今日の分の下着は、さっき一緒に洗っちゃったし。
昨日、洗ってここに干しておいたはずの服と下着は、どっかに消えちゃってるし……。
たぶん、ウォルフさんがどこかに片付けてくれたんだろうけど。
洗った後とはいえ、下着まで片付けられてしまったのかと思うと、やっぱりめっちゃ恥ずかしいっ!
……って、いや。
とりあえず今は、そのことよりもこのネグリジェだ。
こんなに胸元が開いてる上に、床についてしまいそうなほどに長い丈のネグリジェじゃ、歩き辛いのはもちろんのこと、あまり大きく動くのも危険。
つまずきでもして、前のめりにでもなろうものなら……見えちゃう! 絶対絶対見えちゃうよ!!
どーしよー……。
どーしよどーしよっ、どーぉしよぉおっ!?
こんなカッコで、ギルとシリルの前に出たくないよぉっ!!
……でも、他に着られる服はないし……。
ああもうっ、ホントにどーしたら…っ!?
そんな風に、かなり長いこと外に出るのをためらってたら、さすがに心配されてしまったようで、
「リア、まだ入っているのかい? いくらなんでも長すぎないか?……まさか、気分が悪くなってしまったのではないだろうね?」
ドアをノックしながらギルが訊いて来て、私は慌てて返事した。
「うっ、ううんっ、違うよっ!? 具合悪くなんかなってないよっ!?」
「……本当に? だとしたら何故、こうまで時間が――?」
う――っ。
……しょーがない。
いつまでも、ここでこーしてるワケにも行かないし。
恥ずかしいけど、出るしかないか……。
私は意を決してドアノブに手を掛け、えいやっとばかりにドアを開け放った。
「リア! よかった。何事もな――っ」
即座にネグリジェに目が行ったらしく、ギルは途中で言葉を切った。
私はさっと両腕で胸元を隠すと、逃げ出したい気持ちを堪えながら、しどろもどろで事情を説明する。
「あ……あの……。あのね。ウォルフさんが用意してくれたネグリジェ……サイズ、ちょっと大きかったらしくて……。でも、あの……メイド服は洗っちゃったし、他に着られる服もなくって……。だから、えっと……」
だから――?
だから……って、どーすればいーんだろ?
ウォルフさんは、朝まで自室にこもってなきゃいけないんだから、替えを用意してもらうのは無理だし。
ギルに言ったって、今更、どーすることも出来ないだろうし……。
「あの……ギル……?」
ずっと黙りっ放しなのが気になって、恐る恐る顔を上げると――。
彼は片手で頭を抱え、私から顔を背けるようにして立っていた。
「……ギル? どーしたの? 頭……痛いの?」
そんな彼を目にしたとたん、再び昨夜の出来事を思い出し、一気に不安が込み上げて来る。
昨日、襲われたばかりなんだし……今頃になって、具合が悪くなって来ちゃったんじゃ――?
怖くなって、気が付くと彼のガウン(バスローブ?)の袖を、両手でギュッとつかんでいた。
「ギルっ!……大丈夫? 気分悪くなっちゃったんなら、早くベッドへ――!」
「い……、いや。そういう訳では、なくて……。本当に、そうではないんだ」
僅かに頬を赤らめ、目をそらせながら否定する彼を、不思議に思いながら首をかしげる。
「ホント? ホントに、気分悪くなったんじゃないの?……心配させないように、無理してるんじゃないよね?」
「あ、ああ。……違うよ。本当に、気分など悪くなっていない」
「……ならいいけど……。でも、それじゃあ……どーして頭なんか抱えて……?」
今度は腕をつかんで見上げると、彼はやっぱり顔をそらせたまま、
「いや、何でもないよ。……ウォルフは何を考えているのかと、少しめまいが……」
「めまい!? ヤダっ、やっぱり気分悪いんじゃない! どーして、何でもないなんて嘘を――」
「いやっ、嘘ではないよ! 本当に、なんでもないんだ。めまい、というのは、その……実際にめまいがした訳ではなく、しそうになったというだけで」
「実際しなくたって、しそうになったんなら問題でしょっ?……やっぱりまだ、動き回らない方がいいんだよ。ギルは、小さな頃から何度も命を狙われてるから……もしかして、痛みや体調の変化なんかに、鈍感になっちゃってるんじゃないの?」
「……いや。特にそんなことは……ない、と思うが……」
ギルはモゴモゴと返事はするけど、相変わらず、ちっともこちらを見ようとしない。
目をそらし続ける彼に、私は一抹の不安を覚えた。