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第15話 心は千々に乱れて

「ちょ…っ、ちょっとギルってば、勘違いしないでっ! わ、私はべつにっ、あなたと二人きりになりたくてここに誘ったワケじゃなくてっ」

「ふふっ。照れているのかい? 本当に可愛いね。――だが、照れる必要はないよ。今夜は邪魔者もいないことだし、ここで好きなだけ愛し合おう」

「なっ、愛…っ!?」


 一気に顔が熱くなり、急いで彼から離れようと、両腕に力を込めて体を押し返す。


「もーーーっ! またそんなバカなこと言ってぇッ!!……だからっ、違うんだってば! 私はただ、あなたにお説教しなきゃって思っただけで…ッ!」

「……お説教? お説教とは、なんのことだい?」

「だからっ! シリルのいる前でこーゆーことするのとかっ、シリルみたいな小さな子にまで嫉妬するとか……そーゆーことしないでって、注意しようと思っただけッ! それだけなんだってばっ!!」

「小さな子に嫉妬するなって?……リア、前にも言っただろう? 私は君が思っている以上に、嫉妬深い男だと。それでもいいと言ってくれたのは君だよ? どんな私だろうと大好きだと君が言ったから、私は――」

「そっ、それは――!……確かに言った、けど……。でもっ、私に対してだけならまだしも、他の人にも迷惑掛けちゃうような嫉妬は、やっぱり困るよっ。お願いだから、もうちょっと気持ちを抑えて――こ、こーゆーことも、シリルの前ではしないでっ!」


 そう言うと、彼はムッとしたように口を結び、


「さっきからシリルシリルって――。君は私よりも、シリルの気持ちを優先するのかい? シリルの方が大事だって言うのか?」

「な…っ! 誰もそんなこと言ってないでしょっ? どーしてあなたはそーやって、すぐ極論を……!」

「君がシリルシリルって、彼のことばかり口にするのがいけないんじゃないか! 私はいつだって、頭の中は君のことだけでいっぱいなのに……。それなのに君は、シリルだのフレディだの……他の男のことまで、いちいち考えすぎるんだよ!」

「ほ、他の男って……。シリルは私の護衛だし、まだ小さな男の子だし……それにフレディは、あなたのたった一人の、大切な弟じゃない! だから私は――っ」

「『フレディ』――?……いつから君は、そんな親しげな呼び方をするようになったんだ? いつも私の前では、『フレデリックさん』と呼んでいたはずなのに……」


 ギルの表情が陰り、暗い声でそう指摘されたとたん、私はハッと息をのんだ。



 ……ああ……。またやっちゃった……。

 どーして私はこう、バカで迂闊(うかつ)で……同じような失敗ばっかり繰り返しちゃうのよーーーーーッ!!



「リア。フレディに会ったんだね? そしてその時に、そう呼ぶように言われたのか? それとも君から、そう呼ばせてくれと頼んだの?」


 ギルは私の両手首をつかみ、怖い顔でじっと見下ろす。

 私は少しゾクッとしながら、どう答えるべきか考え――思い切ってこう答えた。


「わ……私の、方から……。わ、私が彼に頼んだの。呼びにくいから、そう呼んでもいいかって」

「……本当に?」

「ほ、ホント……に……」


 射るような視線が怖かったけど、目はそらさなかった。

 ここで私が目をそらしたりしたら、嘘だって勘付かれてしまう。

 また私が原因で、ギルのフレディに対する気持ちを、悪い方へと傾かせることだけは避けたかった。だから意地でも、目はそらさなかった。


「……強情だね、君は」


 彼は小さなため息をついた後、そう言って表情を和らげた。片手を私の後頭部へとゆっくり移動させ、幾度かそっと撫でてから、ポツリとつぶやく。


「やはり、うかうかしていられないな……」

「――え?」


 どういう意味か問おうとした私の唇を、彼は素早く唇でふさぎ――そのまま後ろのソファへと、私もろとも倒れ込んだ。


「ん――っ!」


 その衝撃と、倒れた時に打ちつけた体の痛みに、思わず両目をつむる。

 両肩を彼の右手で抱え込まれ、片手を左手でキツくつかまれたまま、ソファに頭を押し付けるのだけが目的とも取れるような、形だけのキスを受ける。

 顔を背けようともがくけど、すごい力で押さえ込まれ、体を覆い被せられているために、身動きすら出来ない。



 どーして――!?

 どーしてすぐ、こんな風になっちゃうの!?


 ギルは――ギルはどーして……。



 私は、ギルが好きだって言ってるのに……誰よりも好きだって言ってるのに。

 なのに……なんでいっつも、こんな風に強引に……私の気持ちを無視してまで、想いを押し通そうとするの!?



 私が……信じられないから?

 ふらふらしてて安心出来ない、とか……そういうこと?



 ……確かに、カイルとのことで悩んでた時は、ふらふらしてたかも知れないけど……。

 でも、ギルが好きだってわかってからは、気持ちが他の人に傾いたりしたことなんて、一度もないのに。



 なのに、どーして信じてくれないの?

 そんなに私は、信頼に足りない存在なの――?



 そう考えたら悲しくて、涙が出そうになったけど、ぐっと堪えた。

 ぐっと堪えて――どうしていつもこんな風になってしまうのか、自分なりに考えた。



 ……もしかしたら私は、ギルが不安になるようなこと、気付かないうちに繰り返しちゃってるのかも知れない。

 だから彼は思い詰めて――こうすることでしか、不安を解消出来なくなってるのかも……。


 私が……私がもっとしっかり、彼の心を受け止めてあげさえすれば、こんなこと繰り返さずに済むのかな?

 彼がいつでも安心していられるように、私がもっと上手に好きって――『ギルだけが大好きだよ』って伝えることさえ出来ていれば、ギルだってきっと……。



 そんなことを考えてる間にも、彼は私の唇に幾度もキスをし、額に、瞼に、頬に、顎に……そして今は首筋から鎖骨へと、順々に唇を触れて行っている。

 そしてボタンを外そうと彼の右手が背中に移動した瞬間、私の体に緊張が走ったことに気付いたのか、そこで初めて動きを止め、顔を上げると、


「リア。……私が、怖い?」


 切なげに目を細め、私の頬に手を当てて問い掛けた。

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