第14話 お説教のはずが……?
ウォルフさんが部屋を出て行ってから。
私達は、大分長い間沈黙していた。
私は、ウォルフさんが来る前までギルと言い合ってたことを思い出して、ムッとした気分がぶり返して来ちゃってたし――。
ギルもたぶん、同じことを思い出して、私に声を掛けにくくなってるんだと思う。
シリルはシリルで、そんな二人に挟まれて、どうしていいかわからないんだろう。相変わらず掛布の端をつかみ、落ち着かない様子で、視線をあちこちさまよわせている。
……そーよ。
ウォルフさんの変身のことで盛り上がっちゃって、忘れるとこだったけど……ギルってば、あんな小さな子にまでヤキモチ焼いて、私を責めるなんて……。
それに、『現に私は』って、結局のところなんだったのよ?
自分がシリルの年頃の頃はどーだった――とかって話を、するつもりだったのかしら?
だとしたら……なんだったってゆーのよ?
自分はシリルの年頃の時には、もう大人だったとでも言うつもり?
……大人って……つまりは、どーゆーことよ……?
一人であれこれ考えてたら、やっとギルが話し掛けて来た。
「ねえ、リア。……まだ、怒っている……?」
不安げなその声に、一瞬ほだされそうになったけど――ぐっと我慢した。
いつもいつも、私がつい甘い顔しちゃうから……きっと、同じようなことの繰り返しになっちゃうのよね。
ここはひとつ、心を鬼にして、ちゃんと反省させなきゃ。
そりゃ……どんなギルでも大好き、とは言ったけど……。
大人なギルも、子供みたいなギルも好きだ――って言っちゃったけど。
その気持ちに嘘はないけど、でも……私だけにならともかく、他の人にも迷惑掛けちゃうようなことは、なるべく避けたいもん。
……うん。
やっぱり、注意だけはしとこう!
「ギル、お話があります!」
私はギルに向かってそう切り出すと、キョロキョロと辺りを見回し、隣の部屋を指差して訊ねた。
「えっと、だから……あっちの部屋で、二人だけで話さない?」
「リア……?」
ギルは、最初こそきょとんとしていたけど、すぐにうなずき、
「わかった。話をしよう。……二人だけで、ね」
何故か、嬉しそうに微笑んだ。
……この人、これから自分が注意されるってこと、ちゃんと理解してるのかしら?
満面の笑みに一抹の不安を感じながらも、私はシリルを振り返り、
「ごめんね、シリル。そーゆーことだから、ちょっと待っててね?」
そう告げると、二人で隣の部屋へ向かった。
部屋に入ってドアを閉め、『さて。ソファにでも座って、こんこんとお説教するとしましょうかね』なんて考えていたら、後ろでカチリという音がして、反射的に振り返った。
「え? 今の……って?」
何の音か理解したとたん、顔が引きつる。
振り向いた先には、ギルがドアを背にして立っていて、私と目が合うと、意味ありげに薄く笑った。
「ギ……ギル……? 今、もしかして――」
……内鍵、掛けたよね?
「ちょっと! なんで内鍵なんて掛けてるのよっ!? いったいなに考えてるのっ!?」
「なにって、君と同じことだよ?」
「……はぁ?」
同じこと? 私と?
……いったいどーゆーこと?
私はこれから、お説教しようとしてるのよ?
なのに……お説教聞くって時に、わざわざ内鍵掛ける必要あるの?
意味がわからなくて固まってると、いきなり抱きついて来て、
「ようやく、二人きりになれたね。――隣の部屋に誘われた時、君も、私と二人だけの時間が欲しいと思ってくれていたことがわかって、嬉しかったよ……」
などと、耳元でささやいた。
「なっ! ち――っ」
ちっがぁああああーーーーーうッ!!
勝手に勘違いしてるギルは、私を抱き締めたまま、頭やこめかみに何度もキスを繰り返し、さすがの私も、呆れ果ててしまって声も出なかった。
……やっぱりこの人、わかってなかったんだ……。
いろいろ注意するために、隣の部屋行こうって言っただけなのに――。
シリルの前で話したら、彼も困るだろうし、ギルだって恥ずかしいだろうと思ったから、二人だけになれるところで――って、思っただけなのに。
なのにどーして……どーしてこーやって都合よく思い込んで、一人で恋愛モードに突入しちゃってるのよこの人はぁああーーーーーッ!?