表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/225

第7話 お母様の話

「お見受けしたところ、フレデリック様は、自棄(じき)状態から脱却なされたようですね。どのような魔法をお使いになられたのですか、リナリア様?」


 廊下を並んで歩いていると、唐突にウォルフさんからそんなことを言われてしまって、きょとんとした。


「へっ? 魔法?……って……なんのこと?」

「あのような短時間で、かなり落ち込んでおられたフレデリック様のお心を、たちまちに晴らして差し上げてしまうとは……魔法をお使いになられたとしか思えない早技です。このウォルフ、心より感服致しました。さすがでございますね、リナリア様」

「か、感服って……。そんな、大袈裟だよ。それに私、大したことはしてないし……」


 なんだか、やたらと持ち上げられてしまって、照れるとゆーより、妙にムズムズして、居心地が悪い。


「そのようにご謙遜(けんそん)なさらずとも。――やはり、あなた様には、不思議な能力がそなわっておられるのですよ。お母上のお血筋なのでしょうか」

「……え? お母上、って……それ、どーゆー意味?」



 お父様なら、まだわかるけど……。

 不思議な力……って、お母様にもそなわってたの?



「リナリア様のお母上は、ザックスから遠く離れた、異国の姫君であらせられましたが――同時に、巫女(みこ)のような役割をも(にな)われたお方だったと、聞き及んでおります。リナリア様は、クロヴィス様よりお聞きになられたことはございませんか?」



 巫女ぉ――!?

 な、なにそれっ、めっちゃ初耳なんですけどっ?



「ううん! そんな話、今までちっとも聞いたことなかったよ。お父様は忙しいから、話す機会もあまりないし……」

「さようでございましたか……。申し訳ございません。私はまた、差し出がましいことを――」

「あ、ううんっ。大丈夫。気にしないで? お母様のこと、ちょっとでも知ることが出来て嬉しかったし。私も今度、お父様に訊いてみることにするよ」

「リナリア様……。はい。そのような機会が、少しでも早く訪れますよう、私もお祈り申し上げております」


 ウォルフさんから、優しい眼差しと言葉を受けて、私はこくりとうなずいた。



 お母様の話かぁ……。

 そー言えば、あんまり、訊いてみようと思ったこともなかったな。

 自分のことだけで手いっぱいで、気にする余裕もなかったし……。



 異国の姫で、巫女でもあった人、か……。



 う~ん……。

 どーゆー人なんだか、それ聞いただけじゃーよくわかんないや。


 やっぱり、今度じっくり、お父様にいろいろ訊ねてみようっと。



 とにかく今は、シリルが回復するのを待つ!

 そして出来れば、ギルを殺そうとしてる人を見つけ出す!――それが何より大事なこと。



 気持ちを切り替えて、シリルを抱えたウォルフさんの隣を、黙々と歩く。


「でもホント、怖いくらい、私達の他には、だーれも歩いてないよねぇ、この廊下?……まあ、その方が、こっちとしては助かるけど」

「はい。見張り役の待機場所は、この廊下の先の、奥まったところにございますので。近くまで行かない限り、まず気付かれることはございません」

「そっか。それは助か――……っと。やっと着いた」



 やたら長い廊下だから、ゆっくり歩いてると、結構時間掛かるのよね。

 運動不足のセバスチャンなんかが歩いたら、きっと、ゼーハー息切れしちゃうんだろうなぁ……。



 ――なんて。

 セバスチャンを頭の中で思い描いたら、おかしくって吹き出しちゃった。


「……リナリア様?」


 怪訝な様子のウォルフさんを、『なんでもない。ただの思い出し笑い』と言ってはぐらかし、私はドアを数回ノックした。

 返事はないけど、ノックしたのが誰かわからないから、警戒してるんだろうと思い、特にためらうことなくドアを開けた。


「ギル、ただいまー! シリル見つかったよー!」


 言いながら部屋に入ってみると、ベッドの上に、ギルの姿がない。


「あれ? ギル……?」


 キョロキョロと部屋の隅々まで見渡したけど、やっぱりどこにもいない。


「ギルっ? どこにいるの、ギルっ!?」



 ――まさか、誰かにさらわれたんじゃ――!?



 そんな疑惑が頭をかすめたところに、ウォルフさんの声が降って来た。


「リナリア様。どうやら我が君は、湯浴みしていらっしゃるようでございます」

「湯浴みっ?」



 ……あ、ホントだ。微かに……すっごく微かに、水音が聞こえる。

 こんな小さな音、よく聞こえたなぁ。よっぽど耳に意識集中しとかないと、普通は気付かないよ。



「耳がいいんだね、ウォルフさん。それもやっぱり、『神の恩恵を受けし者』の特殊能力?」


 感心して訊ねると、彼は小さく首を振り、


「いいえ。『神の恩恵を受けし者』でなくとも、私達は、もともと人間の数倍、耳が良いのです。この程度の音であれば、私でなくとも、仲間達なら必ず気付きます」

「あー、そっか! そーだよね。耳と鼻の感覚、人間より鋭いんだっけね。(やっぱ、向こうの世界の狼とかと同じなのかぁ……)――あ。じゃあもしかしたら、ドアの外にいても、中の声まで聞こえちゃったりするんじゃないのぉ?」


 からかい半分で言ったつもりだったんだけど。

 意外にもあっさりと、彼はうなずいた。


「はい。普通の話声程度ならば、聞こうと思えば、聞くことは出来ます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ