表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/225

第4話 第二王子の孤独

「――っ!…………え?」



 呆然と、フレデリックさんは私を見つめる。

 『何を言われているかわからない』――まるで、そう言ってるみたいに。



「『消えたい』なんて、思っちゃダメ! 『自分はいらない人間なんだ』なんて、考えちゃダメだよ! 誰もそんなこと思ってない! 思ってないんだから!!」

「……リナ、リア……姫……?」



 何故か、彼は怯えたように、私を凝視する。

 幽霊でも見てしまった時のような……ううん、自分の秘密を暴かれてしまった時のような。

 おどおどと、今にも泣きそうな瞳で……。



「『僕が死んだって、どうせ誰も悲しまない』? どーしてそんな風に思うの? たかが一度、お兄さんにキツイこと言われたくらいで、そんな馬鹿げたこと考えるなんて、どーかしてるよ!……たかが、だよ? たかが一度。たった一度だけ。そうでしょう? 今まで、ろくに兄弟ケンカなんてしたことなかったんでしょう? 世間一般の感覚から言えば、そっちの方がよっぽどおかしいよ! みんな、もっといっぱい――兄弟ケンカなんて、それこそ数え切れないくらいしてるよ? それなのに――」


 私は息を大きく吸い込むと、大声でキッパリ言い放った。


「やっと一回、ケンカ出来たんじゃない! やっと、普通の兄弟みたいになれたってことだよ。遠慮しない関係になれたってことだよ!? それって、すごく喜ばしいことじゃない。それなのに、一人で抱え込んで――『消えたい』とか『死にたい』とか、ほんっと、ただの大バカ者だよっ!!」


 ビクッと肩を揺らしてから、フレデリックさんは一瞬、大きく顔をゆがませて……。

 突然、はらはらと泣き出してしまった。


「えっ!?……フ、フレデリック……さん?」



 ギョッとして、困惑して……それから、めちゃくちゃ焦った。



 ……だって、まさかフレデリックさんが……男の人が、いきなり目の前で泣き出しちゃうなんて……。

 こんな経験、ギル以外では初めてで、その、なんてゆーか……。



 どっ、どーしていーのか、全然わからないっ!!



 ひたすら途方に暮れていると、フレデリックさんは泣きながら、


「ど……して……。どーして、おまえは……おまえには、わかったんだ……? だ、誰にも……今まで、誰にも……話したことなんかなかった……のに……」


 切れ切れに、そんなことを言い出して……。


「ずっと、思ってた……。僕の命を、救ってくださったのは……兄上、なのだから……僕は、兄上に……『いらない』って思われたら、終わり……なんだって。生きてる意味なんか、ないんだ……って……」

「な…っ! なにバカなこと言ってるんですかっ!? いらないなんて……そんなひどいこと、ギルが言うはずないじゃないですかッ!!」



 いくらなんでも、思い込みが激しすぎる!


 たとえギルが、ものすごく嫉妬深い人だったとしても、恋人にキスしそうになったくらいで、血の繋がった(父方だけだったとしても)たった一人の弟を、『いらない』なんて……そんなあっさり、見捨てちゃうワケないってば!!



「でも、兄上は……あの時、ほんと……に……すご、く……すごく、怒ってっ――いらした……。僕が……僕が兄上の……大切な人……に……キ、キスなんて……しようとした、から……」

「でっ、でもあれはっ、私がメイドだと思ってたからっ――でしょう? 私がギルの恋人だってわかってて、しようとしたワケじゃーないんですからっ!」

「……でも、僕は……」


 まだ続けようとする彼を止めるため、私はさえぎるように口を開いた。


「と、とにかくっ! ギルはもう、怒ってなんかいませんからっ!……だからもう、ホントのホントに、バカなこと考えないでください! ギルはあなたを『いらない』なんて思ってませんし、これからだって思うワケないですよ!――ねっ!?」


 彼の片手を取り、両手でぎゅっと握り締める。

 彼は一瞬、驚いたように目を見開き、それから気まずそうに視線をそらせると、微かに笑みを浮かべた。


「すまない。恥ずかしいところを見せてしまった。女の前で涙を流すなど、男として最低だな」


 片手で涙を拭いながら、照れ臭そうに言う彼に、私は大きく頭を振った。


「そんなことないですよ! 泣きたい時は、男だって女だって、泣いちゃえばいいんです! 涙を流すことは、我慢するよりずっと――心にとってはいいことなんだって、どこかで聞いたことありますし」

「……そう、なのか?」

「はい! だから、どーしても、辛くて耐えられない時は……泣いちゃっていいんですよ?――あ、さすがに、公衆の面前で――とかは、恥ずかしいかも知れないですけど。一人か二人の前でくらいなら、構わないんじゃないですか?」



 ……なんて。

 私も変われば変わるもんよねぇ……。


 ちょっと前までは、『人前で泣くなんて絶対ヤダ!』って、思ってたはずなのに。

 『泣きたい時は泣いちゃえばいい』なんて、さらっと言えちゃうようになるなんてね……。



 しみじみ感じ入ってると、フレデリックさんはまっすぐ私を見て、


「そうか。わかった。今度から、そうすることにする」


 そう言ってにっこり笑った顔は、今まで見た中で、一番、彼の素に近い――本質が現れた表情のように思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ