表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/225

第3話 突き放されて

 再びドアを開け、通路へと一歩足を踏み出すと、私はフレデリックさんに気付かれないように、数回深呼吸した。



 まだ少し、胸がドキドキしてるけど……。

 しょーがない、覚悟決めよう。


 早くシリルを捜さなきゃいけないし、ここでモタモタしてる暇はないんだから!



 彼の方へ向かい、ゆっくりと近付いて行く。すると、足音に気付いたのか、気配を察したのか、フレデリックさんがこちらに振り向いた。


「サクラ!……いや。リナリア……姫……」 


 そうつぶやくと、辛そうに目をそらす。


「何かご用ですか? 私はもう、兄上の許可なく、あなたに近付くことは許されない。あなたも側でお聞きになられていて、ご存知のはずだ。それなのに……」


 私の正体がわかったからか、今までとは百八十度違う、丁寧な口調で告げ、フレデリックさんはうつむいてしまった。


「ごめんなさい。どうしても謝りたくて……。あの、新人メイドだなんて嘘をついて……名前まで嘘をついて……。リナリアだってことも黙ってて、ごめんなさい。私がここにいること、ギルとウォルフさん以外には、知られたくなかったから……つい……。騙したくて騙したワケじゃないけど、でも、結果的にはこんなことになってしまって……本当にごめんなさいっ!」


 思い切り頭を下げ、そのままの状態で、彼の言葉を待った。



 ……簡単に許してもらえるなんて、思ってない。


 フレデリックさんにとって、ギルはすごく大切な人――。

 そのたった一人の、大切な兄であるギルに、あんなひどいことを言わせてしまったんだもの。恨まれて当然なんだ。


 もしもこのまま、『二度と話をする気はない』って言われちゃったとしても、仕方ないって思えるほどに、私の罪は重い。


 大袈裟なんかじゃなく……心からそう思う。



「おやめください。あなたが謝る必要などないでしょう?……私が勝手に、一人で舞い上がって……。いつの間にか、あなたに……」


 暗い声でそう言った後、しばらくの間沈黙が横たわり、


「――とにかく、顔をお上げください。そんなことをされると、かえって迷惑だということが、おわかりになりませんか!?」


 急に鋭い声に切り替わって、私は驚いて顔を上げた。


「あ、あの――、ご、ごめんなさいっ!」


 反射的に謝ると、フレデリックさんは忌々(いまいま)しげに顔をしかめ、私に背を向けた。


「ですから、あなたが謝る必要などないと、今言ったばかりでしょう!?――まったく、物覚えの悪い方だ!」



 う……っ。


 口調は丁寧になってるけど、言われてることは、あんまり変わってない……ような……。



「お願いですから、もう立ち去っていただけませんか? 私は一人になって、いろいろ考えたいことがあるんです。……それに、こんなところで二人きりでいることが、兄上に知られてしまったら、私は……私は今度こそ、本当に兄上に嫌われてしまう――!」


 どうしてもそれだけは避けたい。――そんな心の叫びが聞こえて来そうなほど、その声は悲痛に響いた。


 ここまで打ちひしがれている彼を前に、このままここを立ち去ることが、本当に彼にとっていいことなのか。

 私にも、何か出来ることはないのかって、考えてみたけど……結局、わからなかった。



 ギルの悲しみや苦しみさえ、とてつもなく大きくて、重いものだと感じてる私が……。

 彼のことだけで頭がいっぱいの、このちっぽけな私が。


 それでもまだ、彼のことも救いたい――なんて思っちゃうのは、おこがましいってわかってる。


 私が一番大切なのはギルで……誰よりも愛しいと思えるのも、ギルで……。


 だから私は、ギルのことだけ考えてればいいんだって……。

 ほんの少しでも、彼の心の傷を癒してあげられれば。彼を幸せにすることだけを考えてればいいんだって、わかってる。

 わかってるのに……。



 なのに……どーして私は、ここから動けないんだろう?


 フレデリックさんの言う通り、さっさと立ち去ればいいのに……。その方が、きっといいのに。


 どーして……?

 足に根っこが生えちゃったみたいに、ここから動けない――。



「いい加減にしてください! 早くここから立ち去ってくれと、何度言えばわかるのです!? そんなにあなたは――私と兄上の関係を壊したいのですかッ!?」

「ダメッ!!」


 無意識にそう叫ぶと、私はフレデリックさんの手に、自分の両手を重ねていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ