第13話 嫉妬と甘いキスと
「リア? どうかしたのかい?」
「……先生……」
「――先生?」
「うん。いつもだったら、ちょうど今頃……先生の授業受けてる時間なんだなーってこと、思い出して……」
……先生、今何してるんだろ?
私がいなきゃ、授業も出来ないんだし……一人で暇を持て余してるかな?
「……その『先生』って……もしかして、男?」
「へっ?……あ、うん。そーだけど?」
「…………」
すう――っとギルの顔から表情が消えて、私の心臓はどくんと跳ね上がる。
――マズイ。
ギルがこんな感じになる時は、決まって……。
「その『先生』は、君と幾つ離れている?」
「――え? 幾つ……って、年齢のこと?……えっと、確か……私と一回りくらい……十一とか、十二くらい上だったと思うけど、それがどーかしたの?」
「十一か十二か……。可能性は充分あるな」
「――は?……可能性……?」
また妙なこと言い出したなー……とぼんやり眺めてたら、ギルは私の頬を両手で包み込むようにして上向かせ、唐突に、
「リア。やはり今、ここでハッキリさせてくれないか? 君はいつ……私に全てを許してくれる?」
真剣な声色で訊ねると、私との顔の距離をぐっと縮めて来た。
「……は?……全てを……ゆる……す?」
「そう。今のところ、君が私に許してくれているのは――」
そう言うと彼は、私の下唇を柔らかく噛んだ。
「なっ――!」
驚いて声を上げた隙に、するりと彼の舌が口中に入り込み、私の舌先をくすぐって……。
「――んぅ…っ?」
慌ててギルの肩を押しやり、必死に体を離そうと頑張るけど、どうにもならない。
「ぅん……ん、ん……。……ふぁ……っ」
ギルの唇と舌の動きに翻弄され、徐々に体から力が抜けて行く。
このままじゃ、また……なんにも考えられなくなっちゃう……。
頭が、真っ白に……なっちゃ……。
そんなことを思い始めた頃、呆気なく唇が離れ、
「君が私に許してくれているのは、ここまでだろう? 私が訊きたいのは、この先だよ。ここから先へ進むことは、いつ許してくれるんだい?」
何事もなかったかのような顔で訊ねられ……私はまだぼうっとした頭で、
「……ここ、から……先……?」
どうにかそれだけ口に出すと、ふらっとギルの腕にもたれかかった。
「リアっ?――どうしたんだい? 大丈夫?」
……どう、したんだ――って……。
あなたが……こんな風に、した……クセに……。
しばらく目を閉じたままじっとしていると、ギルはふっと笑って、
「……困ったな。ここから先の話をしている時に。……こんなになってしまっては、今日はもう無理かな?」
そう言ってこめかみ辺りにキスし、ぎゅうっと私を抱き締めた。
「仕方ない。この話は、また次の機会にしようか。シリルの体調の回復のこともあるし……君はもうしばらく、ここにいてくれるんだろう?」
……シリル……。
そうだ、まだシリルは……完全に回復はしてない、から……。
こくりとうなずくと、ギルは優しく私の頭を撫でて、
「では、まだ時間はたっぷりあるね。もう少しだけゆっくりと……君に受け入れてもらえるように、私も努力するとしよう」
耳元でささやいてから、それが当然の流れであるかのように、柔らかく耳たぶを噛んだ。
「ひぁ…っ!」
ゾクッとして、反射的に彼の両肩を力いっぱい押し返す。
「――っと。……ふふっ。目が覚めましたか、お姫様? 今まで夢の中でも漂っていたのかな……?」
彼は少しも慌てず私の両手首をつかむと、からかうような笑みを浮かべて、顔を覗き込んで来る。
「……っな、なん……っ! ギ、ギルっ? あなたって、ホントに……ホントっ、にぃ……っ!」
「――ん? 『ホントに』……なに?」
「~~~~~っ!」
ホントに、この……っ!
エロ大魔王はぁあああああーーーーーーーッ!!
今度こそハッキリキッパリ、文句を言ってやらなきゃ――!
そう思って口を開いたとたん、ノックの音が響き、
「申し訳ございません! 緊急事態ですので、失礼致します!」
珍しく冷静さを欠いたウォルフさんの声がして、こちらが返事する前にドアが開いた。
「ウォルフ、無礼だぞ! 緊急事態とは、いったい何だ!?」
苛立ったギルの声にも動じず、ウォルフさんはまっすぐ私達の元へと近寄って来ると、ギルではなく私に向かってこう告げた。
「申し訳ございません、リナリア様。シリル様が……シリル様が、私の部屋から姿を消してしまわれました」




