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第12話 とことん、懲りない人

「な……なに? なんで笑ってるの? 私……そんなに変なこと言った?」


 いつまでも笑い続けるギルに、いい加減しびれを切らし、私は少しムッとしながら訊ねた。


「……い……いや、変なこと……と、言うか……。――っふ、ふふっ……」

「もぉっ! ギルっ?」

「――す、すまない。笑うつもりは……なかったんだ。だが――君があまりにも、その……。……っく――」


 また吹き出しそうになったのか、ギルは慌てて片手で口元を押さえた。

 拘束が(ゆる)んだ隙に、私は素早く自分の体から彼のもう片方の腕を引きはがし、くるりと振り返った。


「なによ!? なにがそんなにおかしいのっ!? 言いたいことがあるなら、ハッキリ言えばいーじゃないっ!」



 さっきからクスクスクスクス……ううん、ゲラゲラゲラゲラ笑い転げちゃったりして……失礼にも程があるっつーのっ!


 ……まったく。どこまで人をバカにすれば気が済むのよっ!?



 完全に頭に来て、思いっ切り睨みつける。

 ギルは、どうにか笑いを堪えることには成功したみたいだけど、口元はずっと押さえたままで……どう見ても、その目はまだ笑っていた。


「……ギ~~ルぅ~~~?」


 凄みを利かせて(自分ではそのつもり)にじり寄る私に、


「ま……まあ、リア。少し落ち着いて。笑ったのは私が悪かった。反省する。だから……ね? この話はここで終わりにしよう。……ほら、君もそんな顔しないで。可愛い顔が台無しだよ?」


 ……なんてことを言って、はぐらかそうとして……。


「ダメっ! そんな言葉じゃごまかされないんだからっ! どーして笑ったか説明するまで、絶対に許さないからねっ?」



 説明を求めたら、ギルはきっと困るだろうけど……それでいい。

 いつもこっちが困らせられてるんだから、たまには、こっちが困らせる側に回らないと、不公平ってもんよね。



 そう思って強気に出てみた私の思惑は、その後のギルの反応を見て、見事に外れていたのだと気付かされた。

 何故なら、彼の瞳は見る間に妖しくきらめき出し、口角は上がり――私のよく知る『極上の微笑み』が、そこに形成されつつあったから……。



「……ギ……ギル……?」


 危険を察知し、後ずさろうとした私を、彼は強引に引き寄せる。


「おっと――。どうして逃げようとするの? 私が笑った理由を知りたいんだろう?」

「……そ、それは……そう、だけど……」



 もう何度見たか知れない、この微笑み……。

 これを目にしたが最後。絶対に逃れられない。



 ……くぅ~~~……っ!

 それを知ってるのにどーしてっ!

 どーして毎回毎回、引っ掛かっちゃうのよ私はぁッ!?



 悔しくて悔しくて、地団駄(じだんだ)でも踏みたい気分だ。『私ってヤツは、マジで学習能力がないのかも知れない』とかって、絶望しそうになる。



 ――でも、だって今回は……今回こそは優位に立てるって(何の根拠もないけど)思っちゃったんだもんんんーーーーーっ!!



「リア……そんなに知りたいのなら、教えてあげるよ。私が笑った訳を……」


 右手を私の腰に、左手は私の頬に当てながら、彼はやたら艶っぽい声と表情で、私を釘づけにしてしまう。

 目をそらしたいのに、そらせない。まるで催眠術にでも掛かってしまったみたいに、その力は絶大で……。


「昨夜キスした時、君は――『今のもキスだったの?』というようなことを訊いて来たよね? あの時も不思議に思ったが、つまり君は……キスにもいろいろあるということを知らなかった。そういうことなんだろう?」

「う…っ」


 改めて真正面から訊ねられ、言葉に詰まる。

 その通りだけど……それを認めたら、また笑われちゃう気がして、素直にうなずく気になれなかった。


「それに加え、もうひとつのキスマークの存在も知らない。……それがわかったら、『ああ、そういうことか』――とね。悪いとは思ったけれど、笑わずにはいられなかったよ。君があまりにも可愛くて……」

「――な…っ!」


 さわさわと頬を撫でられ、くすぐったさと恥ずかしさで、顔が熱くほてり出す。


「ま、またそーやってバカにしてっ!……知らなくて悪かったですねっ! どーせ私はなんにも知らない未熟者ですよっ!」

「何を拗ねているんだい? その未熟さが可愛いと言っているのに……」

「――み、未熟さが……かわ、いい……?」

「そうだよ。これからいろいろと……教え甲斐もあることだし、ね――」


 いっそう艶っぽさが増した気がする、その妖しい瞳のきらめきにゾクッとして、思わず身構えてしまう。


「おっ……教え甲斐って、そんな……。せ、先生じゃあるまい――……し?」



 ……ん、先生――?


 あ……、あーーーっ、そーだ!

 ホントだったら今頃――。



 脳裏に先生の顔がクッキリと浮かび、トレードマークの眼鏡が、キラーンと光った。

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