表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第5章 悪夢からの解放と新たな火種
50/225

第8話 侮辱と羞恥

 ホントに、殺気を感じるほどの鋭い視線だった。

 射すくめられて身動きも出来ず――私はしばらく声も出せないまま、フレデリックさんを見上げていた。


 息苦しいほどに切迫した雰囲気の中で、彼は再び口を開く。


「聞こえなかったのか? ここで何をしている? と訊いているんだ」


 朝会った時とは別人みたいな、低く、感情を押し殺した声――。

 私はごくんとツバをのみ込むと、やっとのことで声を絞り出した。


「あ……あの……。わ、私――」



 ……ダメだ。言葉が続かない。


 だって、こんな状況の中――どう説明すれば、わかってもらえるってゆーの?

 言い訳しようにも、全っ然、なんっにも思い浮かばないよっ!



 口ごもっている私にイラついたのか、フレデリックさんは荒々しく私の手首をつかんだ。

 力一杯引っ張り、強引に立ち上がらせる。


「何度も言わせるなッ! 兄上が意識を失われている間に、無断で寝所に忍び込み、何をするつもりだったと訊いているんだ!!」


 ギリギリと、骨が悲鳴を上げそうなくらいの力でつかまれている。それがそのまま、彼の怒りの大きさを表してるんだと思ったら、抗議の声を上げる気にもなれなくて、


「……ご、ごめんなさい……。勝手なことしたのは、悪かったと思ってます、けど……。でも、これにはいろいろ……複雑な事情が、あって……」


 痛みを堪えつつどうにかそれだけ伝えると、彼は更に声を張り上げた。


「だからっ! その事情とやらは何なんだ!? 僕にもわかるように説明しろッ!」


 弧を描くようにつかんでいた手首を解き放たれ、よろめいて転びそうになった。でもなんとか踏み止まると、しどろもどろで返答する。


「そ、それは……。あの、ですから……いろいろと……話せない事情、というものがあって……」



 それにしても、どーして私があそこにいるってバレたんだろ?

 あんなに息をひそめて、身動きひとつしないように頑張ったのに……。



 そんなことを思いながら、ふとベッドの下に目をやると……そこにはなんと! さっきギルに外されたキャップとリボン、いつの間にか脱げてしまっていたらしい、靴二足が――!



 ギャーーーーーッ! なにあれっ!?

 あんなのが落ちてたんじゃ、そりゃバレるに決まってるってば!!


 ……うぅぅっ、ギルってばぁあっ!

 なんてことしてくれちゃってるのよぉーーーーーっ!?



 とたんに恥ずかしくなって、私の体は火に包まれたみたいに熱くなった。

 そんな様子に気付いたらしいフレデリックさんは、害虫に遭遇してしまった時のような顔つきで私を一睨みし、侮蔑(ぶべつ)の言葉を吐いた。


「今頃になって、己の浅ましい――(みだ)らな姿に気付いたのか?……どこまでも恥知らずな女だ」

「な…っ! な、なん――……っ」


 あまりの言われように、二の句が継げない。



 浅ましい? 淫ら?……恥知らずっ?

 ……他のふたつはまだともかく、『淫ら』って何よ、『みだら』って!?



「ひっ、ひどいこと言わないでくださいっ! 誰が淫らですってっ!?」

「おまえ以外に誰がいる!? 兄上が動けないのを承知であんなところに(もぐ)り込んで……髪も服も乱して、いったい何をしようとしていた!? いくら想いが届かないからといって、ここまで見下げ果てた行為に走るとは……。これじゃあ、娼婦と変わらないじゃないか!!」



 ……しょ……娼婦っ!?


 ……なにそれ?

 そんな……そんな言い方、あまりにもひどすぎるっ!!



「な――っ、なんなんですかそれっ!? さっきから何を誤解してるのか知りませんけど――人を侮辱(ぶじょく)するにも程があるってもんじゃないですかッ!? どーして私がそんな――っ、しょっ、しょ――、娼婦だなんて言われなきゃならないんですッ!?」

「どう見たってそういう風にしか思えないだろうが!……ただのメイドふぜいが、恐れ多くもこの国の第一王子の寝所に忍び込み、仕事も放り出して、ベッドの上で髪を乱して服も脱ぎ掛けで!――そんな有様で、まさか淑女(レディ)とでも言い張るつもりか!?」

「か、髪はまだしも、服脱ぎ掛けってどーゆーことですか!? 私はほらっ、ちゃんとこーして服も着てるっ……し?」


 言いながら服に視線を走らせると、胸元が僅かに開いているのを発見する。『えっ?』と思って首の後ろに手をやると、ボタンが二つほど外れていて……瞬間絶句し、またもや全身が燃え立つように熱くなる。



 な――っ、……なっ、なんでっ!? なんでボタンがっ!?

 いつの間に……どのタイミングで外れたのっ!?



 ベッドに押し倒された拍子に?

 ――いやいやっ。このボタンは結構しっかりしてるし、その程度のことで、自然に外れちゃうとは思えない。


 じゃあ、いったいいつ……?



 ハッと(ひらめ)き、私は反射的にギルを振り返った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ