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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第5章 悪夢からの解放と新たな火種
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第7話 来訪者

「兄上! フレデリックです!」


 ――げっ! フレデリックさんっ!?

 どっ、どど――っ、どーしようっ!?


 当分戻って来ないって話じゃなかったっけ!?――とパニクりそうになった私は、救いを求めるようにギルへと視線を走らせた。


「落ち着いて、リア。私はまた眠っているふりをするから、君はフレディが出て行くまで、ここに隠れてじっとしているんだ。声を上げてはいけないよ? いいね?」


 ギルは小声で告げた後、私がこくこくとうなずくのを確認すると、私の頭上まで掛布をすっぽりと被せ、仰向けに横たわった。


「兄上!……ああ、まだお目覚めになられないのですね。……ウォルフ! ウォルフはいないのか!?」


 再びフレデリックさんの声がして、『昨夜はノックもせずにズカズカ入って来たのに、今日はちゃんとしてるんだなぁ……』と感心しそうになったけど、



 ……あ。そっか。昨夜、『最低限のマナーは守っていただかないと』とか何とかって、ウォルフさんに注意されたんだっけ。……だからか。

 でも、言われたことをちゃんと守るなんて、意外に良い子な部分もあるんだ……。



 なんてしみじみしてたら、


「兄上、ご就寝中申し訳ございません。入室させていただきます」


 という声が聞こえ、ドアが開く気配がして……。その拍子にバクバクと暴れ出した心臓を、必死に両手で押さえつけ、私はひたすら息を殺した。


「……まったく。兄上がこのような状態の時に、誰もお側に置いておかないなんて、不用心にも程がある!――ウォルフめ、後でキツく叱ってやらなければ」


 こっちに近付いて来ている間にも、フレデリックさんはぶつぶつと文句を言い続けていた。そしてベッドの前辺りまで来て足を止めると、


「兄上、お加減はいかがですか?……あ。いいはずがないですよね。申し訳ございません」


 フレデリックさんは驚くほど優しい声色で、ギルに語り掛けていた。さっきまでの私への傲慢(ごうまん)な態度とは大違いだ。


 ギルの前では、きっと、いつもこんな感じなんだろうな。

 猫かぶってるってゆーか……嫌われたくないから、ひたすら良い子を演じてる、みたいな?


 でも、不思議……。

 自分のお母さんが殺したかも知れないって人の息子に、ここまで懐いてるなんて。


 いくら父親は同じって言っても、罪悪感から近付かないようにするとか、なんかこう……もっとギクシャクしてても、おかしくない間柄だと思うのに。


 ……それだけ、ギルが気を遣ってたってことなのかな?

 小さなフレデリックさんには罪はないからって、優しく接したりしてたのかな?


 だからフレデリックさんも、そんなギルを心から慕って……感謝してたりするのかな?


 ……だとしたら、やっぱりすごいな、ギルは。


 前も思ったけど、私がもし、同じ立場だったとしたら。

 きっとそんな風に、優しくは出来ないと思う。


 頭では、フレデリックさんに罪はないって、わかってたとしても……何事もなかったかのように接するなんて、きっと出来ない。


 だって、フレデリックさんを見るたびに、どうしたって思い出しちゃうもの。

 目の前で、自分の母親が死んで行った光景を……。その最期の瞬間を。


 ああ……考えただけでも、胸が締め付けられる。

 そんなひどい経験を、たった九歳で味わわなければいけなかったなんて……。



 ――いけない!


 今、涙ぐんではなでもすすったりしたら、フレデリックさんに気付かれちゃう。

 落ち着いて……もっと他のこと考えよう。もっと他の……もっと大事なことでも……。


 ……って、ん……?


 そーだ。大事なことって言えば……私まだ、ギルから肝心な部分の説明、受けてなかったよね?

 とっくに起きてたクセに、どーして寝たふりなんかしてたのか、とか……。


 それをまた、フレデリックさんの前でも続けなきゃいけない理由って、いったい何?

 フレデリックさんとは仲がいいって、ギル言ってたし……フレデリックさんの態度見てても、ギルのことが本当に大好きなんだなってわかる。なのに、そんな彼まで……どーして騙さなきゃいけないんだろ?


 ……もう!

 ギルが途中で、キスなんかして来な――っ、きゃ……。



 そこで一気に、さっきのしびれるような感覚が蘇り、私の顔は一瞬にして熱くなる。

 ギルの唇の感触が、キスされたところに、まだ残ってる気がして……。鼓動が、激しくリズムを刻んで……。



 うわわわわ…っ!

 こんな時に、何考えてるのよ私ってばっ?


 バカバカっ!

 思い出しちゃダメっ! 思い出しちゃダメなんだってばッ!!


 ……平常心。今必要なのは、平常心を保つことっ!



 ぎゅーっと目をつむり、両手を胸元で握り締める。

 ドキドキどころじゃなく、バックンバックンバクバクバクドッドッド……と更にスピードを増すリズムに、息苦しさが頂点にまで達しそう。



 あーもぉっ、ギルのバカーーーッ!!

 ギルが余計なことしなければ、こんな状態にならずに済んだのにッ!

 ホントにまったく、この王子は……『キス魔』なんかじゃ、まだ全然、表現がヌルい気がする。


 ……そーよ、『エロ』。

 『エロ魔王』だわッ!

 今度から、『エロ大魔王』って呼んじゃうんだからねーーーーーッ!?


 一人でぐるぐるしちゃってたら、『……あれ? そー言えばさっきから、フレデリックさんの声が全然聞こえて来ない……?』ってことに思い至り、僅かに首をかしげた。



 フレデリックさん、どーしちゃったんだろ?

 ギルの様子を、じっと見守ってるのかな?


 ……あ。

 昨夜ウォルフさんに、『静かにしていないと傷に障る』とか言われちゃったこと気にして、黙り込んでるのかな?



「……兄上。これから、少々無礼を働きます。どうかお許しください」



 あ、やっとしゃべった。


 ……んん?

 でも、『無礼』って……?



 疑問が浮かんだ瞬間。

 掛布がガバっとまくり上げられ――私の時が止まる。



 …………え?



 全身が凍り付いたと感じるくらい、ヒヤリとした空気が流れ……それ以上に冷たい声が響いた。


「おまえ……。こんなところで何をしている?」


 びくびくしつつ見上げると、フレデリックさんが真っ青な顔、射るような眼差しでこちらを見下ろしていた。



(こ――っ、……殺されるっ!)



 ただならぬ殺気に恐れをなし、私はごくりと喉を鳴らした。

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