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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第5章 悪夢からの解放と新たな火種
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第5話 予想外の反応

「な――っ!」


 ギルの甘いささやきの、想像以上の破壊力に、私は思わず絶句した。



 な……なっ、なんて恥ずかしい、キザなセリフを――っ!


 ……って、ギルは行動も言うことも、だいたいがキザだけど……。

 でも、それにしたって、こんな恥ずかしいセリフ、照れもせずにスラスラ言えちゃうなんて……!



 さすがに、ちょっと引きそうになったけど、体を起こした時、一瞬見えたギルの顔に――『あれ?』ってなった。


「ギル……?」


 名前を呼んでも返事はなく、彼は口元を片手で押さえ、私から顔をそらせるように、横を向いている。

 この角度からだとわかりにくいけど、さっき見えた感じでは、たぶん……。


「ねえ、ギルってば!」


 私はむくりと起き上がり、両手を伸ばして顔を挟むと、こちらを向かせようと力を込めた。


「――っ!……リ、リアっ? 何をす――っ」

「いいから! 早くこっち向いて!」


 どうにかして、顔の向きを変えさせようと、これでも、めいっぱい力入れて頑張ったんだけど、ほとんど効果はなかった。

 ギルは必死に、今の体勢を保とうと踏ん張っている。



 ……もーっ!

 しょーがないなぁ!



 私は諦めて、ギルの膝に横座りした。肩に手を置き、首を大きく傾けるようにして、彼の顔を覗き込む。


「リっ、リア!?」

「……やっぱり」


 そこには、今まで一度も見たことがない、彼の顔があった。

 真っ赤になって、恥ずかしさに耐えている……これっぽっちも余裕なんかない、彼の素の表情が。


 いつも余裕たっぷりに見える彼が、初めてさらした意外な一面――。


「もしかして、照れてるの?」


 笑いを堪えて訊ねると、彼はバツが悪そうに視線をさまよわせ、ハァ、と大きなため息をついた。


「ああ、そうだよ。……だから訊いただろう? 『言わなければダメ?』って」

「うん。訊いた」

「……追求さえされなければ、言うつもりはなかったんだ。それなのに、言わなければ許さないと、君が拗ねるから……」


 そんな恨み言を漏らすと、片手を(ひたい)に置き、私と視線を合わせないようにしながら、もう一度ため息をつく。

 そんな仕草が、なんだかすごく可愛く思えて……気が付くと吹き出していた。


「リア!……ひどいな、笑うなんて……」


 ギルは軽く私を睨み、拗ねたように視線を横に流す。

 それでもまだ、私はくすくす笑いながら、


「だってギルってば、意外に可愛い反応するから……。それに、さっき散々、私のこと笑ったじゃない。だから、これはお返し」

「お返し? それに可愛いって……。リア。男を『可愛い』と評するのは、失礼というものだよ?」


 いっそう拗ねたように、彼は口をへの字に結ぶ。


「そうなの? でも、ホントに可愛いんだもん。……ふふっ。ギルでも、そこまで真っ赤になって、うろたえることあるんだね?」


 いつもと立場が逆転してる感じが嬉しくて、なかなか笑いが治まってくれない。

 ギルはしばらく顔を赤らめたまま、そんな私を、何か言いたそうに眺めてたんだけど……。

 ふいに、『フッ』と微かな笑い声を漏らし、私をギクリとさせた。


「……ギル?」


 そこには、すっかりいつもの調子を取り戻し、余裕ある表情を浮かべた彼がいて、


「それにしても、今日の君は大胆だね。こうやって、自ら膝の上に座ったり、何度もキスして来たり……。これは、『これからはためらうことなく迫っていい』という、君からの意思表示。そう思っていいのかな?」


 などと不敵な笑いを浮かべ、両腕を私の腰に回した。


「……へ?」


 あっと言う間の形勢逆転に、気持ちの切り替えがうまく出来ないまま、私はポカンと彼を見つめ……それから唐突に、ボボボッと、顔が燃え上がる勢いで熱くなった。


「ちっ――、違うっ! そーゆーんじゃ……そーゆー意味じゃなくてっ! わ、私はただ、ギルがなかなかこっち向いてくれないから、仕方なく――っ」

「仕方なく膝に座ったって言うのかい?……それにしたって、今までの君からは想像出来ない行動だよ? 膝の上に自ら座るのはもちろん、せがんでもいないのに、キスしてくれるというのも……かなり大胆だと思わない?」

「せっ、せがんだじゃない! ギルが『キスして欲しい』ってゆーから、私っ――」

「そのことではなく、今朝の話だよ。キスしようとしてくれただろう?――まあ、私が眠っていると思っていたから、出来たことなんだろうが」

「――え?……今朝の話……って、もしかしてっ?」



 あ……、あの時も起きてたのぉおおーーーーーッ!?



「なっ、ど…っ!――どーゆーことなの、ギルっ!? あなたいったい……いったいいつから起きてたのよっ!?」

「いつから、って……。君が起きる、少し前から……かな?」



 ……『かな?』……って……。


 じゃあ、私が起きる前……ってことは、『キスしたら目覚めるかも』って、祈るような気持ちでいた時には、もう……完全に起きてたってこと!?


 ……そんな……。

 それじゃ、ただ普通に夜寝て、朝起きた――ってだけじゃない! 



 もう……もうっ! なんなのよいったいっ!?

 ――心配して損したっ!!



「あ……あなたって人は……。どこまで人の気持ち、もてあそべば気が済むの……?」


 また悲しいやら悔しいやら……って気持ちになって来て、ぶわっと涙が盛り上がった私を、ギルは慌てたように抱き寄せ、力いっぱい抱き締めた。


「リア!――違うんだ。眠ったふりを続けていたのは、決して、君をからかおうと思ってしたことではなく……これには、理由があるんだよ。君を傷付けるつもりなんて、少しもなかった。あの場合、仕方がなかったんだ。だから――お願いだ。今度こそ、私の話を聞いて欲しい」


 頭に頬ずりし、額にキスしたりして、懸命に私をなだめようとする彼に、私はようやく落ち着いて来て、涙をごしごし拭いてから、顔を上げて訊ねた。


「理由って……話って、なに?」


 ギルはホッとしたように微笑み、瞼に柔らかく唇を押し当てると、


「ありがとう。話を聞いてくれるんだね?……よかった。また取り乱されたら、どうしようかと思ったよ」

「……怒るかどうかは、話を聞いてからにする。だから……寝たフリしてた理由だけじゃなくて、昨夜私と別れてからあったこと……ちゃんと全部、隠さずに教えて?」

「ああ、わかった。全て話すよ。……ウォルフには、なんて言われてしまうかわからないが……こうなっては仕方がない。これ以上嘘を重ねて、私の可愛い姫君に、嫌われたくはないからね」


 そう言って頬にキスし、彼は事の顛末(てんまつ)を語り始めた。

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