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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第5章 悪夢からの解放と新たな火種
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第4話 嫌いになれない

「リア、お願いだ。私の話を聞いてくれ」


 再び伸ばされた手をもう一度払い除け、思いっ切り叫んだ。


「嫌ッ!!――どーせまた、からかって遊ぶんでしょ!? 人の反応窺って……面白がって、くすくす笑うんでしょ!?……もうたくさん! 私はギルの――ギルのおもちゃじゃないんだか――っ」


 素早くギルが半身を起こし、私の腕を取って強引に抱き寄せる。


「は――っ、……離してっ! すぐそうやって、力尽くで丸め込もうとしてっ!――ギルなんて――ギルなんていっつも……!」


 言いながら、私は彼の腕から逃れようと、手の届く範囲の背中や肩や腕を叩き、引っ掻き――いつも以上に、力一杯抵抗した。


「リア! 頼むから落ち着いてくれ。……傷付けたなら謝る。幾らでも謝るから――」

「なによそれっ!? 謝ればいいと思ってるのっ!? なんでも謝れば済むと思って! そんなんだからギルは――っ!」

「リア!」


 ベッド脇に押し倒されて、覆い被さるように、唇で口をふさがれた。


「ん――っ!……ん、ぅ――。……やっ」


 顔を背けようとしても、素早く片手で正面を向かされ、顎を固定されて、身動きが取れなくなってしまう。

 気持ちが伴わない――ただ口をふさぐためだけのキスに、私は傷付き、涙が次々に溢れて……。



 結局、いつもこうだ。

 いつもこうやって強引に組み伏せて、自分の思いばっかり通そうとして……私の気持ちなんて、後回しにされちゃうんだ。


 いつだって勝手に、告白して来たり、ところ構わずキスして来たり、抱き締めて来たり……散々、こっちの気持ち掻き回して。


 なのに突然、悲しそうな顔して心配させたり、勝手に気を回して距離を置いたり、こっちの気持ち確認もしないで帰っちゃったり、突き放したり……って、やりたい放題なんだから。



 ……ホントに、ひどい。

 どこまでも勝手な人――。



 ……でも、それなのに……。


 悔しい。悔しい――!

 全然嫌いになれないなんて。

 嫌いになるどころか……どんどん好きになっちゃってるなんて。


 悔しい。

 ……悔しいよ……。



「リア……?」


 そっと唇を離して、ギルが不安げに覗き込む。



 ……なによ。

 そんな心配そうな顔しちゃって。……こんなに泣かせてるのは、あなたなんだから。


 今更取り(つくろ)おうとしたって、ムダなんだからね。どんなに謝ったって、許してなんかあげないんだから……。



 文句の一つも言ってやろうと、口を開いたつもりだった。

 なのに、口からこぼれたのは、自分でも意外だったけど、文句なんかじゃなくて――。


「……好き」

「――っ!……リア……」


 口を衝いて出た言葉に、ギルはハッと息をのんで……。

 それからしばらく、呆然と私の顔を見つめていた。


「……好き……。やっぱり好き。……嫌いになんて、なれない……」


 言いながら、涙がぽろぽろこぼれる。


「……嫌いに……なりたいの?」


 困ったような笑みを浮かべて、ギルが優しく訊ねる。

 私はふるふると首を振って、


「なりたくない!……嫌いになんて、なりたくないよ……」

「それなら……ならなければいい。嫌いになんてならずに、もっと……」

「……もっと?」


 訊ねると、ギルはすぐには答えようとしてくれず、数回私の頭を撫でると、ふわりと笑って、


「愛している。リア……」


 ささやいて、今度は僅かに触れる程度のキスを落とした。


「……答えになってない」


 またはぐらかされてる気がして、ちょっとムッとしてしまう。


「そう? どうして?……愛している。これが答えだよ」

「違うもん! 私が訊きたいのは、『嫌いになんてならずに、もっと……』の後の言葉だもん。『愛している』じゃおかしいよ。意味が通じないじゃない!」


 ギルはまた、くすくす笑って。(――って、さっきから笑ってばっかり!)


「意外に細かいね、君は。――そんなこと、どうだっていいじゃないか。とにかく、私が言いたいのは……君を愛しているってことなのだから」

「ダメ! どーでもよくない!……絶対、何かごまかそうとしてるでしょ? いい加減、わかっちゃうんだからね、そーゆーの!」


 睨みつけるように見上げると、ギルは何故か、一瞬、照れたような笑みを浮かべてから、


「……やはり、言わなければダメ――?」


 熱っぽい潤んだ瞳で、私を見据えた。

 その視線にドギマギしつつ、恥ずかしさに目をそらせたくなるのを、どうにか堪えながら、私は軽くにらんで言い返す。


「だっ……ダメ。ちゃんと言ってくれなきゃ……許さない」


 彼はふぅとため息をつき、観念したように『わかったよ』とつぶやくと、私の耳元に口を寄せ、ささやくように告げた。


「嫌いになどならずに、もっと……今以上に、私を好きになればいい。……いいや。私が君を夢中にさせてみせる。毎日、一時(いっとき)たりとも、私のことが頭から離れぬほどに……私のことを想わずにいられぬほどに。私以外の何者も入り込めぬほどに、君の心を、私だけで満たしてしてみせよう。……いいかい、リア? 君はもう、私の(とりこ)だ。君の心も体も、全て。私だけのものにしてみせるから……覚悟しておいで?」

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