表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第5章 悪夢からの解放と新たな火種

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/225

第3話 恋の熱量

「私はまだ、夢を見ているのかな? リアの方からキスしてくれるなんて……。うん、そうだ。やはり夢だ。私はまだ、夢の中にいるに違いない」


 唇を離したとたん、ギルは芝居じみた口調でそんなことを言い、私の頬は、たちまちカーッと熱くなった。

 なんてことしちゃったんだろうと、即座に後悔する。



 ギルがこうやって、人からかって遊ぶのが好きな人だって、わかってたクセに。

 なのに、どーして自分からキスなんて……。


 ああああっもうっ! 私のバカッ!



 今の私はきっと、ゆでダコみたいに赤くなってるに違いない。頭から湯気だって出ちゃってるかも知れない。

 そう思ったら、とても顔なんて上げていられなくて、


「もぉ! ギルの意地悪っ!」


 拗ねた声を上げると、彼の視線から逃れるように、胸元に顔を押し付けた。

 すると、頭上でくすくす笑う声がして……。なんだか恥ずかしいやら悔しいやらで、居た堪れない気持ちになった。


「今更、そんなに恥ずかしがることはないだろう? 君が言ったんだよ? 『ねえ、教えて? 私はあなたに、何をしてあげればいいの? どうすればいいのか、ちゃんと言って? そうすれば私……なんだってする』って」

「――っ!」


 びっくりして、両手をギルの体の両脇に置き、体を浮かせてじっと見つめた。彼はまた、クスッと笑って、


「『今度はごまかしたりしない。はぐらかしたりもしない。逃げたりもしない。だから……だから言って。お願い、ハッキリ言ってよ。何をすればいいの?』……ね? 全て君が言ったことだろう? だから私は、その後こう言ったんだよ。『それならやはり、キスして欲しいな』――とね」



 恥ずかしさなんか、もう、とっくに通り越していた。

 私はただただ唖然として――バカみたいに口をポカンと開けて、ギルを凝視していた。


「リア?……そんなに見つめられては、照れてしまうよ。いったい、どうしたと言うんだい?」

「どっ、どーしたと……言うんだい、って……」



 だって……そりゃ、普通驚くでしょ?

 私が言ったこと……たぶん、一語一句間違わずに、言ってみせたよね、今?


 ……言った本人だって、すでに『確か、そんな意味あいのことだったよなぁ?』って程度にしか、覚えてないってゆーのに……。



「もしかして、君が言ったことを全て覚えていたから、驚いているのかい?……フフッ。そんなことで驚いてくれるなら、もっと言ってみせようか?」

「え? もっと……って?」


 私が首をかしげると、ギルはちょっと得意げに笑って。


「『ギルが好き。好き。好き。大好き。世界中で一番――ううん、宇宙中でも、一番好き。誰よりも好き。ギルが――ギルのことが大切なの。失いたくないの』……これはどう?」

「そ――っ!……そ、そっ、それっ……それってっ!?」



 全身の血が、一気に逆流してくような気がした。

 背筋がゾワワワッてなって、それから全身――足の爪先から頭のてっぺんまで、カーーーッと沸騰してるみたいに熱くなって。


 ……それから、一瞬のうちにその場から……消えてしまいたくなった。



「ど――っ、どどっ、どーしてっ!?……どーしてギルが、それを知ってるのっ!?」

「――ん? どうしてって……私が知っていると、何かおかしいのかい?」

「おっ、おかしいよっ!! 私がそれ言ったのって、ウォルフさんの部屋行く前だ――っ、……た、し……?」



 ……え?


 え……え、えっ?

 ……じゃあ……じゃあ、まさか――っ!?



「お……起きてたのっ!? あの時、もうとっくに……目が覚めてたってことっ!?」


 ギルは否定も肯定もせず、にこにこと満足そうに笑っているだけだった。

 笑っているだけ……だったけど、それで充分だった。


「ひっ――……ひどいッ! 起きてたクセに、寝たフリして聞いてたなんて!……ひどい……ひどいよ……。私がいったい、どれだけ心配してたと思っ――」


 騙されてたんだと思ったら、また急に泣けて来て……私はぽろぽろと大粒の涙をこぼした。


「リア……」


 伸ばされた手を、パシッと払い除ける。――ギルは傷付いたような顔をしたけど、私は謝らなかった。



 だってひどいよ――!

 とっくに起きてたのに、寝たフリしてこっちの様子窺ってたなんて……。


 私がありったけの想いを込めて伝えたことを……一字一句間違えずに記憶しといて、わざわざからかうための道具にするなんて!


 私が……私がどんな想いで、あんな告白したと思ってるのよ!



 ……そりゃあ、ありふれてて……使い古されて面白くもなんともない、工夫も飾り気も何にもない、単純な言葉の羅列にすぎなかったかも知れない、けど……。


 しょーがないじゃない。ボキャブラリー少ないし……愛の告白なんて、どー言えばいいのか、全然わかんなかったんだもん!


 それでも、伝えたくて……。

 私がどんなにギルが好きか、わかって欲しくて……あれでも一生懸命考えて、勇気振り絞って伝えたのに――!


 ……あんまりだよ。騙すなんて……。

 騙した後で、からかうなんて。


 ひどいよ。そんなのあんまり――ひどすぎるじゃないっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ